ビイナ、仁を召喚する
ブックマークありがとうございます。
拙い文章の上に更新時間も遅いので、読んで下さる方がいるのが奇跡です…
ううむ…と唸り黙り込む面々。ふと、ビイナが動いた。
「ん?…これは…」
ビイナが手にしたのは、物影に隠されるように置かれていた小指の先ほどの魔道具。
何となく、事態を把握したビイナは二人に問いかける。
「お二人、ここでライラの話をされましたか…?本来、この部屋にあること自体が許されないモノなのですが…これは盗聴機能のある魔道具でしてね…」
心当たりのある顔をした二人に、ため息をつく。
「…」
「…確かに…我々はスタンピードに宣戦布告が重なったのに、早々に部屋に戻って顔も出さない魔術師殿の愚痴を…少々漏らしていた…」
さもありなん…ビイナは渋い顔をした。こんな重大事に何やってんだ、あいつは…。
「…お二人に非があるわけではありません。今、起きている状況を案じている中でのライラの行動は非常識だ…。苦言を呈してもおかしくないでしょう」
「ビイナ様…」
「…国王様、わしに” 様”はいりません。とにかく、ここに来る前に魔術師たちのケツを叩いて来ましたから…時機に新たな結界を張るでしょう。それまでは、わしもここに居ましょう」
コココ…!
またドアがノックされてシエムにネイサンからの書簡が渡された。
シエムが苦い顔をして文面を読み上げる。
「ネイサンからです。アトルの冒険者の中にアメカーヤの間者がいた。魔寄せの香を散布しようとしたが未遂で確保。何かの術に掛かっていたようで変死した。危機管理を厳重に。…なんて事だ…」
「となると…まさか魔術師殿も…?」
「可能性は高いですね」
今すぐ出来る事は…ビイナは考える。
「あ。こちらからネイサンに連絡は出来ますかね?今回、ネイサンと参加しているジンと言うのを呼び戻したいのですが」
「ああ…可能だろう。早々に制圧したとの知らせがあったからな」
「は?」
ビイナが間抜けた声を出した。サイラスは笑いを隠さずに続ける。
「全く…驚くだろう?」
*
「ネイサン、書簡だ」
「おう」
遠くの空が白んで来た頃、王宮から知らせが来た。交代で火の番をしていたが、休んで居た者も何人かが起き出してネイサンの周りに集まる。もちろん、仁もいる。
書簡を呼んだネイサンは怒りを抑えるのに暫くかかった。
「…ネイサン…?」
「…ビイナ師匠からだ。筆頭魔術師が消えて、王都周りの結界が解かれたとある。今は自分が結界を守っているが厳しいと。ジンを戻してくれと言っている」
ザワザワと冒険者たちが騒めく中、戸惑いを隠せない仁がネイサンに聞く。
「あたしですか?」
「お前は結界魔法が得意だからな」
「…でも…」
「メモを読め、とも書いてあるぞ」
「メモ?…わかりました」
仁は自分のマジックバッグを確認しに行った。
ネイサンは持っていた紙をグシャリと握りつぶして燃やす。目に見えるような怒気に、周りの冒険者が引いている。
「どうすんだ?」
「どうもこうも…俺たちには、俺たちの仕事がある。そうだろう?」
「…そうだな。その通りだ」
ハームは、二ッと笑ってネイサンの肩に手を置いた。
「ちゃんと冷静だな。安心したぞ」
「…すまん…」
自分の状態に気付いたネイサンは力を抜いた。
そこへ仁が戻ってきてネイサンを呼んだ。二人で何やら話し合って、仁は不承不承の体で頷いている。戻って来たネイサンは皆に仁が下山する事を伝えた。
*
全くもう…ビイナさんたら…!
仁はプリプリしていた。正直言って極限まで神経を張り詰めながら、必死で自分を失くさないように頑張っていた。その緊張の糸が切られたのだ。
ネイサンに言われて、ペアバッグのメモを確認したら「結界を通れるようにしておく。わしを目印に移動してこい」とだけ書かれていた。ネイサンに確認し、ビイナは王宮にいるらしいと分かるがそれ以外の情報が無い。そんな状態で、探せと言う。
「…師匠も師匠なら、弟子も弟子よねっ」と声に出してから「…あん…凄いブーメラン貰ったわ…」と項垂れる。
「ま、仕方ないわよね…。やってみましょ、ユキちゃん」
「まま、頑張って!」
他の冒険者の手前、野営地からはだいぶ離れた場所まで来た。
一応、ペアバッグに「今からやってみます」とメモを入れてからユキを影に入れてイメージする。強く、強くビイナを思う。
「…あ、嘘、凄い。見つけられた…」
自分でも驚いたが、意外と簡単にビイナを見つける事が出来た。
暗闇の中に細いろうそくの灯が一つ燈っているような感覚である。仁はその場所に向かって意識を集中させる。
「…うおっ!びっくりした!」
聞き慣れた声に呆れる仁。
「…ビイナさん…」
さすがに無茶ぶりしたと思っていたのか、ちょっとばつの悪そうな顔で取り繕うビイナ。
「いや、すまん。でも凄いな。助かる!」
無理やり笑ったビイナ。仁はため息をついてビイナを見つめる。
「…ビイナさん、辛いのに笑わなくていいんですよぅ?」
「…ああ…そうだな…。今回はお前さんに見栄を張っても仕方ないよな…ユキはどうした?」
「いるよー」
仁の影から、ひょこりと出てくるユキ。癒しを求めていたビイナに揉みくちゃにされて喜んでいる。
一頻り堪能した後、ビイナはライラの件をざっと説明しつつ仁を城で一番高い物見塔へ連れて行く。そして指し示しながら王都、王宮に張られていた結界がどれだけの範囲を網羅しどんな性質を持つものであったかを説明した。
「出来るか?」
「はい。たぶん大丈夫です。…今ある結界はビイナさんのなんですね?」
仁の目には、濃淡のある緑の光の糸が縦横無尽に重なり合い 織られた布のように隙間なく取り巻いているのが見えていた。馬に乗ってハーディンに入る時に感じた結界はぼんやりとした霞みのようなものだったから、ライラとビイナの力の差がハッキリと出ていると思った。
「力の差ってすごいのね…」
思わず漏れてしまった言葉にビイナが頷く。
「…そうだな。ここの魔術師たちは集団にならないと大きな魔法が使えないし、今はライラが居なくなった事で動揺している者が多いようだ。結界保持の布石はあっても、あいつらが強固な結界を張れるとは思えなくてな…。ある意味、ぬるま湯に浸かったような生活のせいだろうな」
仁は、ふう…と息を吐くとビイナが張った結界の外側にピッタリと沿わせるイメージを作り発動する。今までになく頑強な結界をイメージして作ったせいか、発動した時に 一瞬ぱあっと白銀に輝いた。




