アメカーヤの三人組
「…おい、お前ら!何をしているんだ」
ハーディンの各所を回っていた三人組を怪しいと判断し、その行動を見張っていた衛兵が荒い声をかけた。三人は慌てる素振りも見せずに脇道に入り込む。
追いかけた衛兵たちが脇道に入った時には既に誰も居なくなっている…この日はそんな事が続いていた。
三人が佇んでいた場所を調べていた各所の衛兵が調べたところ、道に生える低木の枝や人気のない場所に見慣れない小さな布袋が見える。魔術師が呼ばれ、各所を回りそれを回収し急ぎ城に戻った。王宮魔術師ライラに面会を求め、回収した場所が多く全てを回収できたかわからないと報告した。
「魔寄せの香…」
魔術師にとっては絶対に用いてはならない禁忌であり、余程長けた薬師でなければ製造過程でモンスターに襲われて命を落とすと言われている。この香を焚くと種類問わず全てのモンスターが狂乱し暴動を起こす。一度狂えば、香の効果が消えない限り暴れ続けるという 実に厄介な代物だ。
そして今ここにある魔寄せの香は ライラにもわかるほど、とんでもなく上質な物だった。
「混ざりものの香でも強い効力があるのに、これでは…」
嫌な汗が噴き出したライラは、持ち込まれた物を確認するなり国王への面会を求めた。そして、今回のスタンピードが人為的なものの可能性が高いと進言。国王は本格的なスタンピードが起こる前に、早急にフウツを調べるように命令を下した。
ライラはハーディンに居た高ランク冒険者パーティーを集めさせ、数組を連れて転移魔法陣を使いフウツに飛ぶ。遠見の出来るものが周囲の探索をし、鼻の利くものは魔寄せの香を探した。
あまり時間を掛けずに、数十個の香が見つかったが不審な者は見当たらなかった。出来うる限りの回収を試みたが、既にモンスターが山から降りてくる気配もあり ライラは調査の為に冒険者たちを残して一度戻る事にした。
可能な限り魔物除けを散布したライラは王宮に戻り、魔力の使い過ぎでふらふらになりながら国王に謁見すると正式にスタンピードの宣言をするように伝える。そして本来あるはずの予兆もなかった事から規模の予測すらも立てられない事も伝え、今回は猶予時間が少ないので先陣を切る冒険者は転移魔法で送ると進言。準備が整うまでは魔力の回復に努めると言い残して自室に戻った。
「さすがに…フウツとの往復はツラい…」
疲労困憊なライラはポーションをがぶ飲みして体力を戻す。魔力回復のポーションもあるのだが、完全な回復はしないので余程の事態でない限りは体力を戻して自然に魔力が戻るのを待った方が確実なのだ。
「全く…どこの馬鹿よ、ろくでもない事を考えて…」
まあねー、どう考えてもアメカーヤのやった事よねー。
ライラは苛つく気持ちを抑えながら最後のポーションを飲み切った。物憂げに窓の外を見つめるその目はミナクルの方を向いている。こういう突発的な事が起こると、どうしても昔の事を思い出して仕方がない。
もし…あの時ネイサンに…そしたら、わたしは幸せになっていたかしら…
パーティーメンバーという事以外には、全く興味を示してくれなかったネイサンだったけれど…もし…
パーティーを組んでいた頃は何かの事態に陥っても、大概はネイサンが助けてくれていた。ネイサンもビイナ様から様々な魔法を習っていたし魔力量もあったから二人だけでも簡単な極大魔法なら使えた。なのに今は殆ど全てを自分一人でやらなくてはいけない。大体、配下になった人たちの魔力量が少なすぎる。極大魔法を使いたければ何人かで陣を囲まなくてはいけない。失敗したらわたしが尻拭いしなきゃいけなくなるんだもの。やってられないわ。
それにビイナ様もアレよね。ハーディンの結界も転移魔法陣の事も、やれ脆弱だの無駄が多いのと…文句言うだけ言って勉強し直せとか…普通に助言くれたらいいじゃない?本当に大人げないっていうか思いやりが無いって言うか…。わたしなんて、あの人から見たらホンの小娘じゃない?ホントに嫌になるわ!
過去に思いを馳せていたはずが、いつの間にか子供の我が儘のような悪態になっているライラ。人というものはなかなか変わらないものらしい。
*
丁度同じ頃、フウツの片隅で三人の男が役目を終えていた。
「これで帰れるな」
「ああ。明後日の夜にはモンスターがフウツから溢れ出す」
「…それと同時に、か…」
「導師様の策略は…上手くいくのかな…」
「エノク、どうしたんだ?」
一人、セルゼ帝国の方角を見て黙っているエノク。声を掛けられて頭を振る。
「…戻りたいな、とちょっと思ってた」
連れの男たちは悲しそうに笑うとエノクの肩を軽く小突いた。
「良いぞ、戻っても」
「はは…数日後にはこの国が失くなるのにか?…いや…そうだな…もし魂ってものがあるなら、いつか戻れるのかもな…」
力なく笑い合い、魔法陣を取り出すエノク。ミナクル、ハーディン、フウツでの役目を終えて三人は嫌々ながら導師の元へと戻るのだった。




