スタンピードの予兆
翌日、日が昇った頃にネイサンの家に単身向かっていたマーロウ。ギルドに差し掛かると何か騒いでいる。馬から降りてギルドに入る。
「どうしたんですか?」
「ああ!領主様!恐らくお館にも連絡が行っていると思いますが、フウツでスタンピードが起こったようです!」
フウツ山脈…セルゼの北に位置する山脈で面積はセルゼ帝国よりも広い。
どこの国にも属さない場所で あえて言えばモンスター領というに相応しい。
不思議な事に十年に一度の割合で起こる スタンピードのような特殊な状況にならない限りモンスターがフウツから出る事はないので、フウツ自体がダンジョンなのではないかとも言われている。このスタンピードには通常は約一月前に予兆があり、周辺国やその領主たちはランクの高い冒険者をかき集めて事に当たる。
最も特級モンスターの住処が多くあり特級ダンジョンも複数ある事から、普段から高ランク冒険者にとっては良い狩場になっている。
「なんと…前回のスタンピードは五年前。あと五年は無いはずでしょう?」
「まだ、第一報が入った所です。領主様はどちらに?」
「ネイサンに会いに行く所です」
「丁度いい。すみませんが先生にも伝えてもらえますか」
「わかりました」
マーロウは馬を走らせてネイサンの家に着くと呼び鈴を鳴らす。
出てきたのはマーロウの知らない男。
「はーい。…あら、領主様…ですよねえ?」
「…ええ。ネイサンに急ぎの用件があります。すぐに呼んで下さい」
こいつがネイサンの弟子か…?女みたいな喋り方をして気持ち悪い…。
マーロウが心の中で毒づいている内に仁はネイサンを呼びに行った。間を置かずにネイサンが出てくるとマーロウの口元が一瞬 綻んで真一文字に結ばれた。
「ネイサン、大変です。フウツでスタンピードが起こったかもしれません!」
「確かなのか?」
「まだ第一報がきたばかりです。ですが、昨日の話から考えると嫌な予感がします。それと、シエムから”ネイサンに無理はさせないように”と返信を貰いましたよ」
「そうか、わかった。一先ず俺はギルドに行く。お前は館に戻れ」
マーロウは頷くと馬を走らせた。
「ネイサン…」
「どうした、師匠」
マーロウが行ったのを確認してから顔を出すビイナ。浮かない顔でネイサンを見ている。
「今のを聞いて、ちょっと言いにくいんだがな…わしはわしで動く事にしたよ」
「珍しいな。師匠がわざわざそんな事を言うなんて」
「…今は一人じゃないからな…」
「ああ…そうか…」とネイサンもイーチェに思い至る。
「悪いが、イーチェは置いていく。ジンに任せたいんだが、いいか?」
「かまわない。どうせ俺も二報が来たらフウツにいく事になるしな」
「気を付けろよ、ネイサン…」
ネイサンは軽く手を振って家を出た。様子を見ていた仁がビイナにフウツのスタンピードとは何かを聞く。ビイナはフウツ山脈で十年に一度の割合で起こるもので理由は分からないがモンスターが溢れ出す現象。モンスターは高ランク冒険者を誘致して討伐する。前回は五年前だった。今回は早過ぎるから、何かの間違いの可能性もあると説明した。
「…せんせーも行くんですね?どのくらい掛かるんですか?」
「ああ。バカ弟子も活躍しているようだな…期間は…規模にもよるが、早い時で出立から二か月位で長く掛かった時は三か月だったか…ここからフウツまで行くにも結構な距離があるからな…」
「…あたしも行きます」
「はあ?」
「あの時みたいに、あたしの見えない所でせんせーが危険にあったらイヤ。だから、あたしも付いて行きます」
呆気に取られて開いた口が塞がらないビイナ。
「…いやいや。ジン、落ち着け。まず、お前さんは中の下だからスタンピードに参加は出来ない。それに、わしもアメカーヤの件で暫く留守にする。誰がイーチェの面倒を見るんだ?」
「…でも…」
「さっきも言ったが、中の下ではスタンピードに参加出来ない。最低でも結構な実績のある中ランク上位からだし、それだって高ランクパーティーの推薦があって初めて検討されるんだ」
「…わかりました…」
そう言って、厨房に戻って行く仁。それにホッとするビイナ。
イーチェの事はもちろんだが、ジンが参加したら心配する対象が増える所だ。勘弁して欲しい…。そこまで思考が及んで「ん?」と首を捻った。
あれ?何でわし、こんなにジンの心配までしているんだ?




