仁、空間移動する
ブックマークありがとうございます。派手な戦いも無い、仁の日常の話ですが楽しんでいただけたら嬉しいです。
「今日もセンセー戻らないのかしら…」
日課となった美食ダンジョン通いをしながら、仁はそればかり考えていた。
ビイナは、「ネイサンは鼻が利くから色々と嗅ぎ回っているんだろう。気にするな」と言っていたが気になるものは仕方がない。
最下層で次々にドロップさせては拾い、ギルドに売りに行く。ユキとの連携も場数を踏んで更に密になっている。冒険者の間では噂になっており、全く無駄の無いその連携を見る為に わざわざダンジョンの最下層まで出向く高ランク冒険者までいるほどだ。最も仁はそんな事には全く頓着しないのだが。
ギルドに行く度にネイサンからの知らせはないかと期待するのだが、十日経っても無い。あまりにも心配しているのでギルドマスターまでが「ちょっと遠出すると言いに来たし今までも良くあった事だから。遅くてもジンが試練ダンジョンに行く前に戻ってくるさ」と慰めるほどだった。
試練ダンジョンに行くのはあと一月も先だ。
どこかで怪我でもしているんじゃないか、動けなくなっているんじゃないか。
その思いは魔術の鍛錬をしていても止まらない。
「もう…何でこんなに心配させるのようっ!」
せめて一言残してくれたら良かったのに…!
心配のあまりに、腹も立ってくる仁。イライラして独り言を言ってしまう。
「…大丈夫だ。そんなに心配するな」
呆れたビイナが言う。
「それよりも集中しろ。ソレがちゃんと作れたら凄いぞ?」
「ごめんなさい…」
仁は今、イメージで魔法を作っている。元の世界で言うテレポーテーション、魔法陣を使わずに念じるだけで瞬間移動が出来ないかの検証だ。こんな事は出来ないか?とビイナに聞いたら「遥か昔の、世界が濃い魔力に満ちていた頃なら出来ただろうがな…」と返答された。「だが、お前さんならやらかすかもなあ」とも言われて、その気になった。
ビイナの課題をこなした後の自主練としてなら、と許可ももらった。
ちゃんと使えるモノになったら、せんせーの役に立てるかもしれない。その一念で頑張る仁。もちろん、何事も無いようにビイナが見張っているし その横ではイーチェが薬草について勉強している。驚くことに、イーチェは魔法陣と魔術以外の事は何も知らなかった。その持っている知識自体もだいぶ偏っている事がわかり、絶賛教育中である。
ビイナにしてみれば 空間魔法を使える者ならば、魔法陣を用いずに移動する方法は誰もが一度は考えはするが成功はしないモノである。であるが、仁のやらかしに期待もしている。そして、仁が魔法を構築していく過程を傍で見ているとビイナ自身のひらめきも刺激してくるので面白い。
…A地点とB地点の間を無くす…。仁は紙を折って重ねる。
魔法ってあらゆる法則無視で理屈じゃない所が凄く多いくせに、変に物理っぽい部分とか数学的な所があるわよねえ…。ため息を付いて、横に寝転んでいるユキを撫でる。
「…ユキちゃん、ちょっと聞いていい?」
「なにー?」
「ユキちゃんが初めて影に入った時ってどんな感じだったの?」
ユキは仁の横に座ると、少し考える。ビイナとイーチェも顔を上げた。
「んーとねー、ままが”危ない!こっちに来て!”って言った時に”ままの所に行かなきゃ。ままも危ない!”って思って…なんだろう…伸ばした手がぐうう~ってなって身体が伸びるような感じ?がして…気が付いたらままの中だったの。すごく暖かくて安心できるの」
「…えっと…そうなのね…ありがとう、ユキちゃん」
一所懸命に説明してくれたユキを盛大に撫でまくった仁だが、やっぱりわからない。聞いていた二人も、ちょっと残念な顔をしていた。
…あたしが、一番、傍に行きたいのは…
「…せんせー…」
切なげに呟く仁。さすがのビイナも、ちょっと可哀相に思ったほどだ。
仁はネイサンを思う。今どこに居るのか、行けるモノなら今すぐにでも傍に行きたい。この時の仁は 自分もユキのように付き従えたらと、強く…強く願った。
「…!」
突然、仁が立ち上がった。
「どうした?」
「…せんせーがあぶない…真っ黒い影が…」
「あん?」
仁は遠くを見つめる様な、この部屋のどこにも焦点の合っていない目でふらふらと一歩二歩と前に出る。
「…せんせ…」
ふいに、仁が消えた。いつの間にかユキも消えている。
「ねえねっ?」
「ジン、どこだ?」
慌てふためくビイナとイーチェ。しかし答えはない。
「ビイナ様、ねえねが…!」
「ああ…全く…あの馬鹿どこに消えたんだ…」
ビイナの経験からだと、あの目は千里眼…”遠見”をする者の目だ。しかし、仁に遠見を教えた事は無いし残念な事にビイナに遠見は出来ない。それに遠見では消えない。仁がやらかしたのは確かだが、自分の意志で”移動”したのだろうか?それとも見えた何かに引っ張られたのか?
何よりありえない事に 今この瞬間、全く魔力が使われた気配を感じなかった。と、いう事はやはり仁の意志なのか…
「…イーチェ、少し落ち着け。バカ弟子共を見つけないとな…」
ビイナ自身、激しく動揺していたがイーチェの前で醜態を晒すワケにもいかない。これでも師としての見栄がある。
ふう、と息を付き無駄だろうとは思ったが追跡を試みるのであった。




