ランクアップのお祝い
行儀良くお辞儀をして退出する仁。部屋から出ると、興味津々な目に晒されるがネイサンは気にも留めずに外へ出た。美しい従魔を従える仁と、仁の少し先を歩くネイサンに憧れと羨望の眼差しが向けられる。
付近の住人にとっての”仁の存在”は、”ネイサンの家にいつの間にやら居ついた”ネイサンの弟子で ハイエルフのビイナ様にも認められた一家の一員。そう認識されていた。女のような振る舞いをするが、性格も温厚で真面目。顔も男前で、手先も器用で教え上手。手を貸して欲しいと言えば貸してくれる優しい偉丈夫。
ネイサンたちの威光もあったとはいえ、僅かな期間で随分と信頼を得たものである。
ここ最近は仁のダンジョン通いを見ている冒険者たちが従魔と仁の戦いぶりを面白おかしく広めているせいもあって、実力のほども知られているから尚更だ。
自宅が近くなって周りに人影がなくなってから初めて、ネイサンが喋った。
「ランク止めなんざ、誰の入れ知恵だ?」
「…比較的 自由度が高くて、実績さえあればいざという時には高ランク冒険者と行動を共に出来るランクが良いんです。高ランクだと、受ける依頼の融通が利かないそうですし…」
心の中で「あたしはせんせーの傍に居たいだけだから…」と続ける。誰に聞いたとは答えず、なぜランク止めしたいのかだけを話す仁。
「まあ、指名依頼が来るようになれば自分の評価にも繋がるし 断り辛いなあ…」
「…それに…大勢の男の人の中で、男として扱われるの 怖いです…」
「なんだそりゃぁ…」
「あたし、こんな体ですけれど…心はオンナですから!」
少し忌々しそうに自分の体に触れる仁。その顔はひどく切ない。
ネイサンは息を吐き、今はここまでだな…とユキに視線を向ける。
「…ユキ、お前は随分と成長したなぁ…」
「せんせ、ありがとー!ボクねえ、ままと一緒に居たいから頑張ったの!」
「…お前は喋らない方が良いな…」
大きくなった身体から、小さい時のままの声が出るのは微妙だとネイサンが言う。仁は「可愛いは正義なんですよう!」とユキを誉めまくる。
ダンジョン内では念話で話しているし、必要な時は ままの影に入れるようにもなったとユキは嬉しそうにネイサンに報告する。詳しく聞くと、どうやらユキ固有の魔法のようだ。
ネイサンはユキにいつも外に居るようにして、影に入れる事は絶対に知られないようにと念を押した。仁にも、「影を操るのは魔族だけだと言われている。仁自身が闇魔法を使えると思われると厄介な事になるから」と言い含める。闇魔法は外道と言われているのだと説明もした。
家に入ったネイサンが、ホールに居合わせたビイナに仁の試練ダンジョン許可の話をすると大喜びで「わしもサインするぞ!ジン、宴会の支度をしろ!」と主役であるはずの仁に言いつけ 当の仁が笑顔で答えているのに ネイサンは苦笑する
。
お祝いの後、仁はユキにイーチェを任せて大人二人の酒のつまみを作ったりしていた。最近は仁もダンジョン通いをしていて早寝していたしネイサンとビイナもちょこちょこ外に出ていたのとで、三人揃ってゆっくりするのは久しぶりだ。四人の好物が並んだ夕食に続いて仁の腕がなりまくりである。ちなみに食後にお酒が確定していたので大人の食事の量は少なめにして、イーチェにはデザートを付けた。
「ジン、イーチェに出していたデザート残ってないのか?」
「ありますよぉ。ちょっと待っててくださいねぇ」
ビイナの求めにもサクッと対応する仁。おかんである。
「はい。どうぞ」
お酒とつまみを十分に用意した仁はビイナにデザートを渡した。仁が水魔法で氷を作れるようになって最初に作った甘味、アイスミルク。手作りのジャムを乗せて食べると美味しいのだが、大人用に果実酒を垂らしてみた。
「んー。美味い。酒の合間にコレがあると進むよなあ」
「…師匠…まるっきり子供だぞ…」
「うるさいわ。美味いものは美味いんだよ」
「お腹が冷えるから、食べ過ぎはダメですよ?」
「…あいよ…」
不承不承に呟くビイナだが、仁に酒を注いでもらって笑顔が戻る。
「…ジン、イーチェの今後なんだが…」
ネイサンが話し始める。
領主と話した限り”囚われていた獣人の少女”については国からは特に言及もなく、ミナクルで対処せよとの事だった。また、ここだけの話だが今回の岩山の件は国としては動かない。できうる限り内々に収束させろ という内容だった為、これから暫くはミナクルの軍部も忙しくなるだろう。
「俺も何かで呼び出されるかもしれん」
「あの…何で冒険者のせんせーが?」
「こいつはな、領主と繋がりがあるから力を貸して欲しいと言われたら断らないのさ」
「…繋がり…」
「…別に隠すようなもんじゃない。元パーティーメンバーってだけだ」
「ふん。断っても良いのに聞いてやるんだから、本当にお人好しよな」
「仕方あるまい…俺の代わりに領主になったんだしな」
さりげなく凄い話が出たわねぇと思ったが、ビイナの様子からその領主に対して悪印象しかないのが感じられて それ以上この話は止めた方が良いかな…と仁は話を変える。
一番大事で、一番口にしたくない事。でも、今が一番聞きやすいだろう。
「あの…いっちゃんとあたし…いつまでここに置いてもらえますか…?」




