仁、マジックバッグを持つ
一昨日ビイナにこってりと叱られた仁は、同じ日にネイサンにもみっちりと絞られて相当に堪えたようだ。この二日は大人しく日課の魔法と武術の鍛錬をしている。
とはいえ、例のナップザックはビイナ監視の元で機能の検証をされていた。
今のところは問題なく使用可能であると思われるソレは、やはり普通ではなかった。あまりに常識から外れている為に、ビイナはネイサンを巻き込んで鬱憤を晴らしたほどだ。
「なあ、ネイサンどう思うよ?」
酒も飲んでいないのに絡んでくるビイナを面倒そうに相手しているネイサン。
「冒険者のあこがれのマジックアイテムだぞ?しかも聞いた事無い様な、超超超レアな逸品だぞ?」
「わかったから絡むな、師匠。それで?問題ないならジンに使わせてやれないのか?」
「お前さん、ジンに甘すぎるぞ!」
「上手く出来ているなら、燃やすのも勿体なくないか?」
「ああ、勿体ないさ!こんなレアアイテム燃やしたくないさ!まさかの時間経過なし!容量測定不可!不可というか無制限なんじゃないか、コレ?」
若干、興奮気味に昨日の朝入れた汁物や氷やらを出してネイサンに見せるビイナ。
ネイサンは熱々のスープや固く凍ったままの氷やらを手に取って呆れるやら感心するやら…これまた複雑な表情である。
ちなみに、ビイナと仁の髪の毛を縫い込んでみたら二人で使えるアイテムになった。ネイサンは袋として使えてもマジックバッグとしては使えなかったので、個人認証に成功した仁は喜んでいた。…もちろんビイナに大きな拳骨をもらったが。
「しかし凄いな…。師匠にも読めない陣を専門家でもないのに考え付くってのが信じられん」
「わしにもわからんよ、どうしてコレで機能しているのかがな。多重化という説明は受けたし、それ自体は納得出来るものではあったんだが…」
仁としては、ビイナの魔法陣もイーチェの魔法陣も仕様や形は全く違うけれど共通項目があって、それを開いてシンプルにプログラムし直して重ねてみたら上手くいった。という認識だった。魔法陣すらプログラムに変換するとは、IT脳恐るべしと言うべきか。もっとも教えてもらった全ての魔法陣を描いた大量の獣皮紙に囲まれて、長い時間唸ってはいたのだが。
「…まあ、良いか…。ジンの師匠はお前さんだ。任せるよ」
一応、危険性の無い事は分かったしな…とナップザックを渡してネイサンに丸投げするビイナ。考えてみれば、今 出回っているマジックバッグだって完全には仕組みが分かっていないのだ。それでもダンジョン産だから、という理由付けで普通に使われている。
「結局、俺か?…師匠になったつもりはないんだがな…」
「何を今更。一度吐いた唾は呑み込めないんだよ、バカ弟子」
「はあ…」
ネイサンは深いため息を付いて、仁の居る中庭に向かった。
「…まあ、なあ…それもこれも、あのバカ弟子の傍に居たいが為ってのがなんとも…」
これは健気と言っても良いのだろうか…なにか違う気がする…ネイサンの背を見送りつつ、一人ごちるビイナであった。
*
「…ふう…」
剣の形を練習し終えた仁が息を付いて汗を拭う。一昨日、師である二人にこっぴどく怒られて自分にはこの世界の常識が無かった事を思い出した。出来そうだから、やれそうだから、はここでは命取りになる事もあるのだ。
この世界で楽を考えちゃダメって事かしらね。仕方ないわ…
家からネイサンが出てきたのに気付いた仁は顔を上げて挨拶をする。
ネイサンは挨拶代わりにナップザックを持つ手を挙げた。
「ジン、コレが欲しいか?」
「欲しいです。でも…」
ビイナさんが…と続けようとして止まった。ネイサンが愛用の剣を腰から外したのだ。剣の腹で自分の肩をポンポン叩く。
「俺と勝負しろ。勝ったら渡す。一太刀でもかすったらお前の勝ちでいいぞ」
「え…せんせー…、鞘から抜いてますけど…」
待って…無理でしょ…せんせーと真剣勝負って、あたし死ぬんじゃないかしら…
「そうか。なら、これはここで燃やすか」
ほいっと上に投げて手の平を向ける。
「…やります!」
燃やされる!そう思った仁は思わず口走っていた。
ネイサンは落ちてきた袋を掴むと、ニヤリと笑う。
「時間制限無し、一本勝負だ。もちろんお前は身体強化して良いぞ」
面倒を引き受けたんだ。少しは楽しませろ。
言下の意味が嫌でも分かって身震いする仁。でも、ここは引いてはいけないところなのよ!頑張るのよ、あたし!と己を鼓舞する。
「…お願いします!」
…一本勝負は暗くなり、仁が立ち上がれなくなるまで続けられたのだった…。




