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異世界はOKAMAの夢をみるのか  作者: ぶんさん
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仁、魔道具を創る

「出来たのか?」


ネイサンが戻った翌日、厨房に座る仁が嬉しそうにナップザックを持っているのに気付いたビイナが聞いた。


「あら、ビイナさん。ええ、もう少しです。可愛いでしょう?この刺繍」


ドキッとした顔をしたが、普通に返事を返して袋を見せる仁。洗い晒しの無地の生地にワンポイントを入れている。

ビイナがしたり顔で、うんうんと頷きながら近付いてくる。


「可愛いなあ。ユキの顔の刺繍だなあ」


言いながら徐々に上がっていく口の両端。座っている仁の後ろに立ち、その両肩に手を乗せた。仁は背中に嫌な汗が出てくるのを感じていた。


「ジン…夕べ わしらが話していた事を覚えているかなあ?」


肩に置かれた手に力が籠められるが、答えられずに固まる仁。


「ん?ジン、返事はどうしたんだ?」


そーっと目だけで後ろを見ると、そこに居たのは冷ややかな目に満面の笑みを浮かべたビイナ。仁は怖くて振り向けない。ゆっくり前を向き、ナップザックを抱きしめる。


「い…いっちゃんに関係する人たちの行動がおかしいって話でしたよねえ…」


肩に乗せられた手に、ググっと力が入る。もう、何でこんなに華奢な女の子が…って思う程に強く鋭く入ってくる。そして、ネイサンとは違い「痛い」と言わせない威圧感がある。


「…個人的に君のやらかしは面白いし大歓迎なんだがな、そいつは見過ごせないな」


「…ダメ…ですか…?」


「一つ聞こう。何で始める前にわしに相談しなかった?」


更に力が籠められて、半泣きになる仁。


「だって…」


「文字一つでも形一つでも間違えた結果、何らかの爆発や予期せぬ事が起こっていたらどうした?」


「…”時間経過”の魔法陣が上手く出来たから、そこまで考えてませんでした…」


「わしもな、アレだけだったらここまで怒らんよ」


アレだけなら、まだ面白いだけで済ませる事も出来た。簡単な魔法陣と捨ててしまってもおかしくない小さな魔石を使って、上手く出来ているとさえ思った。


「だがな、ジン。これにはハッキリと魔力が乗っている。普通は分からないかもしれないが、わしのような高位魔術師には分かるんだよ。そして一度見ていれば、それが君の魔力だという事も分かる」


仁は驚いた。驚いてナップザックをまじまじと見つめた。

その様子を見ていたビイナがため息を付く。これはネイサンの苦悩を笑った報いか。


「…残念だが、それは燃やす。いいな」


ふっと肩から力が抜けた。仁は大人しくナップザックをビイナに渡そうとして…ふと考えた。


”あたしの魔力”


「ビイナさん、何で魔力が”乗った”んですか?あたし、そんなつもりは無かったのに」


「…見せてみろ」


ビイナはナップザックを受け取ると裏返して内袋に刺繍された魔法陣を読んだ。それは弁当の包みとも、昨日イーチェが描いたものとも全く違うモノだった。基本はビイナの教えた陣の術式。イーチェに聞き出した魔法陣の名残のような部分もある。それに仁が様々なアレンジを加えていて、ビイナでも一部は複雑に絡まりすぎて読み解けない部分があった。あり得ない、がここにもある。


ビイナの眉間に深くしわが寄る。軽く目眩を感じた。イーチェの魔法陣のような気持ち悪さはないが、これはこれで世間に出せない。今までの常識を覆してしまう。


…と、言うよりも。


「…君が書き換えた所の歪みを、君の魔力が紡ぎ直して繋いでいる。あり得ないのにあり得ている。何故だ…」


「あら…じゃあ、どっか間違えたのかしらねぇ」


ついっとビイナの手からナップザックを取り戻した仁は、直径十センチ程の魔法陣を象る糸にすすすす…と指を這わせた。その様子にビイナの方が固まる。

たった今、怒られて悄気ていたのに自分の興味を優先させたからだ。


暫く指を這わせていた仁が、おもむろに針と糸を魔法陣に入れ始める。あまりにも唐突でビイナが止める間もなかった。


「ジン!」

君は何を考えているんだ!


仁は数分で糸を切ると確認するように何度か指でなぞり、ビイナに渡した。


「え…」


あり得ない…魔力が見えなくなった。


「今度はどうですぅ?ズレは無くしたから、大丈夫だと思うんですけど…。あ。これもそうなんですけど…“時間経過“の布も、小さな魔石の魔力で使えるように作ったんですよぉ。飾りに見えるように縫い込んで…いっちゃんに自分の魔力は絶対に使っちゃ駄目だって言われたから、気を付けていたんですけれどねぇ。これは教えて貰った式を少しずつ変えて…」


説明を始めた仁を唖然とした顔で見るビイナ。

一体なんなんだ?ジンは本当にヒトなのか?完成された術式はホンの少し弄るだけでも大きな事故になり得るのに、まるで出来て当たり前のように話す。

思わず怒声を上げそうになって、ふと思い出す。ネイサンに聞いたジンの話。


「ルアフが言うには、あいつは“歪んだ存在”で“この世界に居るはずのないモノ”らしい」


…コレは一体、ナニモノなんだ…


ビイナの好奇心が沸き上がり、笑みが浮かびそうになる…が、その前に。


ごつっ


仁の頭に拳骨が落ちた。

痛みに蹲る仁だが、ビイナの目には当然ながら慈悲の欠片もない。


「いっ…つ…ビイナさん…ごめんなさい…」


せんせーに叩かれた時よりもずっと痛い…。今更だけど…せんせーは上手く力加減してくれていたのねぇ…。


「…ジン。何の為に作ったんだ?」


「…冒険者のランク上げるのに、ダンジョン行かなきゃいけないから…。どうせ行かなきゃいけないなら、少しでも効率良くしたくて…」


「あー…それか…。あとな、さっき完成まで”もう少し”と言っていたな?これ以上何をやらかすつもりだったんだ?」


殴らないから、言ってごらん?


口元だけに笑みを浮かべるビイナ。仁はビクビクしながら答える。


「あとは髪の毛を縫い込んで、使えるかどうか。それから、どのくらいの容量と時間経過になったかを確認しないといけないなあって思ってました…」


「髪の毛?」


「個人認証っていうか…特定の人だけに使えるようにしたかったんですよう。誰にでも使えるんじゃ、万が一盗まれたりイタズラされたりした時に困りますよねえ?」


ビイナは考え込んだ。


やらかしはやらかしなりに、一応…本当に一応は考えたらしい。だが、その発想が…。


「ジン…呆れてモノも言えんよ…」


ビイナは、疲れ切った様子でグッタリと椅子に沈むのだった…。


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