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異世界はOKAMAの夢をみるのか  作者: ぶんさん
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イーチェと魔法陣

「下法だなあ…」


四人で夕飯を食べ終えた後、お茶を飲みながらネイサンとビイナが調査の話をしている。ネイサンが書き留めてきた魔法陣の一部を見て、ビイナが言った。


「確実に空間魔法が使えるヤツが絡んでいるよな?…正直、面倒な事態だ」


そう…面倒な事態だ…。


ネイサンの目が仁に向けられる。


「…師匠はジンが作ったコレを知っていたのか?」


布を見せると、それをビイナが受け取った。


「いや…今初めて見たな。…発想が面白いが…機能していたのか?」


「…していたから、対処に困っている」


苦り切ったネイサンの顔に、気の毒そうな目線を一瞬だけ向けるビイナ。ビイナとしては、仁のやらかしが楽しくて仕方が無いのだが。


「…イーチェ。君、ちょっと無防備過ぎるだろう。魔法陣なんざ気軽に書いてはダメだと…」


ビイナの言葉が止まる。いつもとは違う、ひどく真剣な顔。


「なあ…ネイサン」


「なんだ?」


「イーチェは魔術や魔法陣を多く覚えているんだが…」


布を広げながらイーチェを見る。


「イーチェ、これに似た術式を使った魔法陣はまだあるかい?」


「…空間操作の魔法は、あと一つだけ知ってます…」


ビイナとイーチェのやり取りに、何か気付いたような顔をするネイサン。じっと二人を見守る。


「うん。どんな魔法かな」


「…空間移動…でも、描けるだけで読めない…」


ピシリ…と音がしたかのように、ビイナとネイサンが固まった。


「…イーチェ、描けるか?」


コクリと頷く。仁に書く物を持ってこさせると、イーチェに渡す。


「分かっているだろうが、ただ描くだけでいいからな」


僅かでも魔力を乗せるのは危険だ。


再びコクリと頷いて、イーチェはサラサラと陣を描いていく。物凄い集中力で全く迷い無くペンを運ぶイーチェ。三人はイーチェの置かれていた環境を思い複雑な表情を見せている。


三十分程かかっただろうか。雑誌ほどの大きさの獣皮紙にビッシリと描き込まれた陣に最後の一筆を入れたイーチェは、疲れ切った顔でビイナに渡した。


「ねえね…」


甘えて抱っこをねだるイーチェを、仁は優しく抱き上げる。


「頑張ったのねえ。疲れちゃった?」


「うん…」


仁の胸に顔を擦り付けて寝る体勢になると、そのまま寝てしまった。


「あら…」


背中を優しく叩いてやる仁。だが、その目はネイサンを見ている。

ネイサンはビイナと魔法陣の解読をしている。高度な魔術師同士の会話は、仁には全く分からない言葉ばかりが出てくるので面白い。全てが解明出来たわけではないが、どうやら相当危険な魔法陣らしく 二人の顔が曇っている。


「…岩山に残っていた魔法陣と似ているな…」


「そうか。わしの知る限り、この術式は…大昔に滅びた王国で使われていたモノと似ている…。今のアメカーヤがある所にあった王国だ…」


アメカーヤ王国はセルゼ帝国から獣人国セファを挟んで向こうにある、山脈に囲まれた大国だ。

五百年前までは魔族が統治していたが 事あるごとに隣国への侵略を試みる戦闘民族で、終にはヒト族に滅ぼされた。

その後アメカーヤとなり諸外国とは不可侵でいたはずなのだが、何故かこの百年ほどはまた戦闘を仕掛けてくる事が増えていた。その度に少なくない被害を受ける為に周辺国からは相当嫌われている。


「しかし、コレを公にするとなると…」


二人がイーチェを見る。さすがに今のイーチェを世間に晒すのは危険過ぎるだろう。ルアフのいう”巫女”であるならば尚更だ。


「…しかし…わしの知っている術式では ありえん式を成立させているのが気持ち悪い」


描かれた陣をピラピラと振る。


「…これの読み解きが間違っていないのなら、生け贄ありきの術だ」


「生け贄?」


仁がキュッとイーチェを抱き締めた。

マオから聞いた限りの話だと、イーチェが生け贄にされていた可能性は高いと思ったのだ。


「巫女ってのが、その役割を担っていた…と考えるのが自然ではあるが…」


それにしては、お粗末な結末だ。

巫女を育て、魔法陣を仕込み何かの目的を達する。時間も人材も必要だったはずだ。


「…瘴気を集め、媒体を使い膨大な魔力に変換させていた…何の為に…?その魔力はどこに消えたんだ?」


「魔法陣が消えたのをすぐに感知し、空間魔法を難なく使う追手。それほどの使い手なのに何故マオを逃した?ルアフの言う通りなら、ミナクルの中まで追っては来たようだが…本当にジンのせいで追えなくなったのか?」


「獣人の巫女を使えば、そのまま獣人国であるセファとの関係を疑うと思ったのか?」


「マオを逃した後、すぐに証拠の全てを消せただろう。なのに何故、調査されるまで放置したのか?邪魔をした者が戻るのを待って諸共に消すつもりだったのか?」


「媒体は、ただ魔力量が多いだけではダメだったのか?なんの為に巫女として教育したんだ?時間を掛けて教育したものを何故、使い捨ての駒のように使ったのか?」


「マオが聞いたという”あいつ”とは誰の事なのか?」


「…杜撰すぎるな…」


「違和感が凄いな。綿密な計画を立てた者と、それを良しとしない者がいるのか…?」


ビイナとネイサンがそれぞれの疑問を言葉にしていく。

その様子を見ていた仁は、二人は本当によく似ているなあ…と思っていた。師匠と弟子、その枠を超えた信頼関係が伺える。

イーチェを寝かせてこよう…そっと席を立ち二階に行く。ユキにイーチェを任せた仁が戻ると、ネイサンとビイナは まださっきと同じように疑問を並べていた。答えは出なくとも整理は出来る。


邪魔にならぬように厨房の中に入り椅子に座った仁は、大人しく針仕事を始める。


暫く黙々と針を進めていたが、頭はさっき何でネイサンに怒られたのかを考えていた。自分では意識していなかったが、”時間経過を変える”のは”空間操作”になるらしい。


…つまり、あたしは意図せず空間魔法を使ってしまったワケね…


そして、その空間操作の魔法が使えるのは限られた者だけだと何度も聞いた。

仁は手を止めてそっとネイサンを見る。一見堂々巡りに思えるディスカッションだが、少しずつ方向性を持ち始めている様子だ。


でも…


仁は今している刺繍を見る。


ごめんなさい、せんせー。あたし、どうしてもコレが欲しい。

もし上手くいったら…いろいろ便利ですもの…


もう一度チラとネイサンを見て困った様な笑みを浮かべる仁。ネイサンの苦労はまだまだ続くようだ。



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