ネイサン帰還
ネイサンは遠征から十日後に戻って来た。
岩山周辺をくまなく調べあげたが収穫は無かったらしい。
「せんせー!おかえりなさい!」
はしゃいで尻尾をブンブン振る獣さながらの仁の出迎えに苦笑するネイサン。
下にも置かぬ勢いでアレやコレやと世話を焼く仁は満面の笑みである。
「あら?せんせー、マオちゃんは?」
「マオは今回一緒に活動したパーティーと行動している」
ネイサンの思惑通り、”風の絆”の面々はマオが気に入ったようだ。上手くすればパーティーに入れるかもしれない。そうなれば、マオの成長も早まるし単独でやらかす事もなくなるだろう。何より、あの魔力量を活かせれば本人の自信にも繋がる。
「残念…ごちそう作るのに…」
「ああ、弁当の礼を言っていたな。また作って欲しいそうだ」
「あら!嬉しいわぁ!せんせーも美味しかったですかあ?」
「…いや、すまんが全部食べられた」
いろいろ端折った説明に、マオちゃんたら良く食べるのねぇ…と誤解する仁。
「ところで…コレはなんだ?」
ネイサンが懐から出したのは、弁当を包んでいた布。
「お弁当を包んだ布ですよねぇ?」
首を傾げる仁。ネイサンの笑顔が怖い。
「あの…なにかやっちゃいました…?」
「コレを作ったな?」
「はい」
「な、ん、で、時間停止するんだろうなあ?」
ネイサンの手が仁の頭を掴む。なんで怒っているのか分からない仁は困る。
「せんせー!痛いですっ!なんでってそう作ったから…いたいー!」
「お前は次から次へと…」
グリグリ、わしゃわしゃ。
「なんで怒ってるんですかっ?いたいいたいいたい!」
「どうやって作ったんだ?」
いつぞやと同じシチュエーション。仁の頭は、まだ掴まれたままだ。涙目で答える仁。
「…いっちゃんに教えてもらった時間経過を遅らせる魔法陣を、アレンジして縫い込んでみたんですぅ…。なるべく美味しく食べられるようにと思って…」
はああー…。ネイサンはため息付いて手を放す。
「…師匠はどこだ…」
「ここに居るぞ」
二階からイーチェと様子を見ていたビイナが降りてきた。ネイサンはビイナに何か言いかけて止まった。
「可愛いだろう?」
ビイナがイーチェを前に出す。髪の毛を切ってリボンを付けられたイーチェは、仁が作ったフリフリのワンピースを着ている。
「結構、変わるもんだな…」
イーチェの頭を撫でる。イーチェはちょっとビックリ顔になったが笑ってネイサンを見上げた。
「せんせ!」
ビタッ!
勢い良くネイサンの後頭部に飛び付いてきたのはユキ。仁に言われて我慢していたが限界になったようだ。
「…おい、ジン…」
「ユキちゃんも寂しかったんですよう」
ニコニコ笑った仁はササッと厨房に入っていく。
面倒そうにユキを撫でると「ったく…埃を落としてくる。ジン、師匠、後で話があるからな」と頭からユキを下ろして出ていくネイサン。
「はいよ」と気楽に答えたビイナはネイサンを見送ってから、厨房に避難した仁に言う。
「ジン、背中流しに行かないのか?」
ガチャガチャゴトン、バタン、ガタタッ
思っていた以上に盛大なリアクションに笑い転げるビイナ。ビイナの姿に笑うイーチェ。恥ずかしさが倍増する仁。
首まで真っ赤になった仁が「ビイナさんお酒抜きっ!」と頭から湯気を出して宣言するまで二人は笑い続けたのだった。




