様々な思惑
「この、能無し共が!」
とある豪奢な部屋の中。上質な服を身にまとう男が、跪く三人の男を虫けらを見るような目で罵倒していた。
しかし、俯く三人の顔は平然としたものである。
三人はそれぞれ同じ事を思っていた。この馬鹿…本当になんにも分かっていない…と。
今回の計画は元々に無理があるものだったのだ。それを形にし、実行出来るまでに練り上げたのは導師と自分たちだ。あの獣人はもう少し仕込みを入れて確実に傀儡とするべきだったし、場所の選定もセルゼの近くでは無く もっとあいつから離れた所にするべきだった。…まあ、離されないように仕込みを入れてもいたが…。
あいつは鼻が利く。もし、岩山に来ていたとしたら気付いたかもしれない。
「時期尚早だと、何度も申し上げたはずです」
「口答えするな。お前らは言われた事を成功させれば良いんだ」
唾を飛ばす勢いでキイキイとがなり立てる男を制するように、後ろからシンプルではあるが相当なマジックアイテムだろうマントを翻して顎に髭を生やした初老の男が前に出た。導師である。
「まあまあ…起こしてしまった事は仕方ありません。それよりもこれからどう対処するかですよ…」
にこやかな顔をしているが、腹の底が伺えない。実に嫌な目をしている男だ。
「ふん、大体お前が上手くいくと言うから乗ったんだぞ。それが初っ端からコレだ。どうしてくれるんだ!」
「…少々、急ぎすぎたのは貴方ですよ…」
すうっと腕を上げ、罵倒し続ける男に手を向けると、何が起こったのか ぐにゃりと脱力し床に臥した。
「さあ、立ち上がって寝室へ戻りなさい。そして朝まで寝なさい」
指示されて起き上がり、虚ろな目のまま部屋を出ていく。それを見送る四人。
「…ふん。愚か者が」
マントの男が吐き捨てた。跪いたまま成り行きを見ていた三人の顔に汗が浮かぶ。この男が居ると思わなかったらしい。
「悪かったですねえ。まさか、私のいない間にあの馬鹿がやらかすとは思いませんでした…。これは私の失態でもあります」
声も出せずに俯く三人。
「ですが、私が戻るまで馬鹿を抑える事も出来たはずですよ?せっかく、ここまで持ってきたのに肝心の巫女様が居なくなってしまっては…ねえ?」
「申し訳…ありません。セルゼ領ミナクルに入ったのは確かですが、急に追えなくなりました…」
「…消えたとでも?」
「もしくは、何かの結界内にいるか…」
「そうですねぇ…あの場所の処理が遅れていたらこちらに辿り着かれていたかもしれませんよ?なかなか面白い術を使っていましたしねえ。…まあ、とりあえず後始末はしておきましたからね。あそこには、もう何もありません」
ニヤアと粘着質な笑みを浮かべて三人を見る。
「さあ、皆さん。一刻も早く姫巫女様を見つけてくださいね?」
途轍もなく嫌な重圧の中、三人は頭垂れて部屋を出る。
残された導師は、怒りに任せて醜い顔を歪ませた。
「…役立たずが…」
誰に向けたのか忌々しげに吐き捨てると、マントの奥から大人の拳ほどの大きさの 水晶らしきものを取り出し灯りに翳して笑う。それは下の方が三分の一ほど禍々しい闇色に染まっている。
「まだまだ足りない。代わりの巫女を用意しましょうかね。性能が違いすぎて使い潰しになるでしょうが…ま、仕方ありませんね。どうせ姫巫女はもう壊れているでしょうし」
…ああ、この水晶が完全に闇色に染まったら…その時こそ我が君を蘇らせる術を…。
「”種”も探さなくてはいけませんしねえ。何故、この場ではなくミナクルの端に顕現されたのか…。しかも生まれたばかりの魔力の種を、この私が追えなかったなぞ…」
一体、どんな形状で現れたのでしょうか…導師は一頻り楽し気に水晶を眺めると、大事そうに仕舞い込むのだった。
ーーーーーーー
部屋から出た三人は苦い顔で回廊を進んでいた。
「どうすんだよ」
「一先ず、またミナクルに行くしかないだろ…」
「…勘弁してくれよ…とりあえずミナクルに入って探したふりまでしたんだぜ…誤魔化せないかなあ…」
「逃げるか…」
「宣誓書があいつの手にある以上は逃げられん…」
「あの獣人、生き延びてりゃいいがなぁ…」
「期待は出来んな…。ミナクルに行くのは…迫られてからで良いだろうよ…」
こんなはずではなかったんだがなあ…
三人は肩を落として夜の闇に溶けていく…。




