仁の弁当
泣きそうな顔でネイサンを見るマオ。ネイサンも「そういえば…」と思い出す。だが…。
「さすがに駄目だろうな…」
「マジックバックだと中身忘れる…」
楽しみにしてたのに…実に悔しそうなマオ。
「あー、待て待て!もしかしたら、まだイケるかも」
「リベッカ、ほら干し肉あるから…」
サムが慌てて袋から干し肉をだすが、眼中に無い。リベッカはマオに出せと迫りマオは「え、いや、あの、でも…」と言いながら追い詰められていく。
「…すまん。こうなったら聞かんから、その弁当見せてやって。傷んでたら、殴ってでも食わせないから」
リベッカの相棒サムが情けなさそうに言うので、マオは仕方なくリュックからマジックバッグを取り出し大きめの布に包まれた弁当を出す。嬉しそうに包みを開くリベッカ。いい香りが鼻をくすぐる。
「…おぉ…」
中身を見たリベッカが興奮する。
「頂く!…っかー、ナニコレすげー美味いし!」
「おい、リベッカ」
「大丈夫だよ。この包み布、マジックアイテムで時間経過が遅いみたいだ。ホレ、一緒に入ってたお茶もまだ少し温かいぞ」
ほいっとサムに水筒を渡す。
「お…?本当だ…」
「その布、ちょっと良いか」
サムから布を受け取り、調べてため息を付くネイサン。
「…チッ…あいつは何やってるんだ…」
眉間に皺を寄せてぼやきながら布を懐に仕舞う。それだけでマオは「あ…ジン、なんか先生に怒られるな…」と察するのであった。
「いや、美味いね。ホント」
「うん。シンプルに見えてちゃんと作ってある」
「先生、これ誰が作ったんですか?」
いつの間にか、皆でわいわいサンドイッチに手を出して「そっちのも食わせろ」「この卵焼きサイコー」「待ってよ、それまだ味見してないってば」と試食会になっていた。「あ、あ、わたしにも少し下さい!」マオも混ざる。
今までの緊張感と警戒はどこに行ったのか。
「…学舎の生徒だ。料理が好きらしくてな…」
「へえ〜。良いなあ!料理上手!」
「うん。これならいつでも嫁に行けるよ」
…ガタイの良い男だがな…心で呟くネイサンであった。
十分ほどで緊張を解し気力も魔力も回復してきた面々は、ネイサンの指示で横穴があった方とは違う方角に向かってハーピィの巣から離れた。ネイサンはやはり殿で、時々立ち止まっては周辺の様子を伺っている。
「先生、どうしますか?」
移動しながらエスターが聞く。
洞窟内での魔法は、少女が既に寝かされている状態までしか遡れなかった。あと少し時間があれば、何者がそこに居たのかが分かったはずだとエスターの表情は暗かった。
改めて調査に行きますか?それとも撤収ですか?そんな意味合いの言葉。
「…穴に戻っても意味が無いな。さっき落石の音がしたろ。確認してきたが、潰されていた」
皆がわいわいやっている時に居なくなったと思っていたが、状況把握に勤しんでいたようだ。
「痕跡も残さずに破壊されていたから、ここにはもう戻っても来ないと思う」
ドビーもネイサンと一緒だったのか…しまった…先生の動向をちゃんと見ているべきだった…マオは苦虫を噛んだ顔で、自分の行動を反省する。
でも、美味しかった…
ほんの少しだったけど、本当に美味しかったなあ…。帰ったら、また作ってくれるかなあ。
マオの胃袋もすっかり虜にしたようである。




