岩山へ…マオとネイサン
ジンが魔法の鍛錬を行っている頃、ネイサンたちは早朝の内に先発した調査隊を追って走っていた。
高ランクともなると、場所にも寄るが馬を使うよりも自身で走った方が早い時もある。最もネイサンは特ランク。だいぶ加減してはいるが、マオは必死で付いていくのが精一杯だ。
短い休憩を何度か取りつつ走り、日が完全に落ちるとネイサンは漸く速度を落とした。遠くに野営らしき灯りが見えてくる。
「よく付いてきたな。偉いぞ」
森の中、速度は速足程度に落としたが止まらないネイサンがマオの頭をクシャッと撫でる。
褒められるのは嬉しいのだが、もう限界ギリギリなマオはそれどころではない。それでもイーチェを背負っていない分ラクに走れると頑張るマオ。
それから十分ほど走って、ネイサンは止まった。揺らめく灯りが近づいて来たのだ。
「…ネイサン先生…?」
訝しげな声が届いた。
「おう。ドビーか?」
ガサリと姿を現したのは背の低いドワーフだった。
「先生…流石ですね…。案内人との合流は明日の夕刻かと…いや、ありがたいんですけど…先生が来てくれるとは思っていなかったです」
言いながらも、ドビーが見ているのはマオ。
汗だくで、体中で息をしている。対するネイサンは汗が滲む程度で呼吸も乱れていない。エルがバケモノという所以だ。
ネイサンがドビーの目線に気付く。
「問題ない。無理だと思ったら最初からお前らと行かせていた」
どうやら、これもマオの鍛錬になっていたらしい。
はあああー!マオが深く息をした。
「はい…!大丈夫です…!」
ぐっと顔を上げて、笑ってドビーを見る。若干、顔を青ざめさせたドビーであるが問題ないようなのでネイサンに向き直る。
「じゃ、行きましょう。今回のメンバーは…」
ドビーは急遽編成された隊のメンバーを説明する。
高ランク中位パーティー”風の絆” エスター、マイカ、ノア、ドビー
高ランク上位パーティー”怒れる暴牛” リベッカ、サム
「ほう。リベッカが居るとは珍しいな。だが助かる」
「久しぶりにミナクルのギルドに寄ったら、ギルマスに捕まったんだ」
横合いから声がして驚くマオ。
見れば赤い皮鎧を身に着けた大柄な女が大きな斧ーー双翼のバトルアックスーーを背負って立っていた。マオは全く気配を感じなかったが、ネイサンは気が付いていたらしい。
「まあ、たまには恩返ししとけ」
カカと笑って先を行く。
リベッカは大袈裟にため息をつくと、息を整えつつ後を追っていたマオを同情の眼差しで見た。
「あんたも大変だな…」
感情の籠もった言葉に「あ、この人も先生の無茶振りにあったんだ」と理解したマオは薄く笑って頷くのだった…。
野営地に着く。魔物除けの香が焚かれているだけの野営で寝床の用意も無い事から、今日は雑魚寝体制のようだ。ネイサンは一通りの挨拶をして、マオに改めて事の次第を説明させた。
「そりゃ、急がないとまずそうですね」
「ああ。もう痕跡もない可能性もあるな」
マイカとノアが、ううむ…と唸る。
「その可能性が高いから”風の”を呼んだんだろうが」
ネイサンの言葉に”風の絆”四人が「うえぇ」という顔をした。
「おかしいと思ったんだ…。依頼完了して戻ったら、ギルドに顔も出してないのに連行されて…」
「本当なら今頃、気持ち良く酔っ払っていたはずなのに…」
「最初から先生が絡んでたのか…」
ガクリと肩を落とす面々。ネイサンは気にもしない。
「心配するな。終わったらたっぷり飲ませてやる」
「約束ですよ!」六人全員の声が揃った。
「…急げば岩山まで、あと半日かからないで行けるな。先生、夜明けまで五時間くらいです。その前に出ませんか?皆はどうだ?」
奢りと聞いて俄然やる気になったサムの提案に皆が頷き、それを見てネイサンが答える。
「おう。お前ら先に休め」
「はい。適当な時間で起こしてください。交代します」
「ノアとサム、先に頼む」
エスターが火の番を二人に頼むと、残りの者はそれぞれに毛布やローブを巻いて寝る態勢になる。
「先生、あの、わたしも起きてます!後で寝ますから!」
「お前に火の番はさせない。良いから横になっとけ」
マオの申し出に、何言ってんだ?という感じで返すネイサン。
バサッと自分のマントをマオに投げ、口の端で笑う。
「そうよぉ、マオ。先生が休めって言ってくれた時は、しっかり休まないと…」
既に眠そうなマイカが注意する。
マオは「はい」と返事するしか無かった。
あの時と同じ…わたしにマントをくれた時と…特ランクだからじゃない、先生だから…みんな安心す…る…。




