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異世界はOKAMAの夢をみるのか  作者: ぶんさん
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初めての魔法練習

ネイサンたちが遠征に向かった日の午後から、中庭で仁の特訓が始まった。邪魔になるからと言われ、ユキとイーチェは家の中に居る。


「は?魔力がわからない?」


中庭に出た二人。


「はい…」


「あー…あ?でも君は結界を張ったんだろう?」


「あれは、いっちゃんの言う通りにしただけで…」


「イーチェの暴走の時は?」


「いっちゃんの暴走?」


ビイナはドスンと椅子に座った。ちょっと目眩も起こしたかもしれない。


「あー。そこからなのか…」


頬杖をついて面倒臭そうに仁を見る。本人が全くの無自覚らしいを忘れていた。

見てやると言った手前、ここで早々に投げるのも不味かろう。ビイナは初心者用基本中の基本からは面倒だなあ…と思いつつ。


「ジン、これがわかるか?」


ビイナが手の平を上に、片手を上げている。言われてじっと見るが、分からない。


「…ごめんなさい…分かりません」


「これではどうだ?」


ビイナの手がヒラリと返ると、モヤの様な薄い煙の様なモノが見えた気がした。


「…何かわかりませんけれど…もやもやっとしたモノが見えた気がします」


「うん」


ビイナは更に手を翻すと自身の体全体を魔力を纏った。

仁の目にはビイナが薄赤い膜で覆われた様に見えた。


「ビイナさんを赤い膜が覆っている様に見えます」


「うん。これが魔力だ。今は見やすいように可視化させているが本来はこんな風には見えない」


ビイナは可視化を解き、ちょっとし悪戯心で風の矢を繰り出した。耳の横をヒュンと飛んで行った物に驚いて目で追う仁。


「…ジン、見えるか?」


声に振り返ると、最初のように手の平を上に向けているビイナ。そしてその手の平には、五センチ程の透明でふわふわした球体が浮かんでいた。


「…球体…?」


「正解。こっちに来て触ってみろ」


仁は恐る恐る手を伸ばす。…それは感触というには儚くて、とても細やかな霧に触れた感じだった。そして粒子が蠢いている感覚が触っている指先に伝わってくる。


「…これが、魔力…ですか…?」


「そうだ。ジン、君にも出来る事だ。やってみろ」


「どうすれば良いのか、わかりません…」


思ったよりも呑み込みが早いのが分かったビイナは、仁を土の上に座らせると自分の魔力で仁を覆う。暖かい感触が仁の体の上を巡り、消えた。


「感覚はわかったな?…目を閉じて、自分の体の中に存在する暖かいものを感じ取るんだ」


「…はい」


答えたものの、暖かいものって何?


………


気が付けば、瞑想状態になっている仁。

ああ…瞑想するの、久しぶりだわ…。

そのまま、深く入って行きそうになり「あ」と思い付く。


もしかして、魔力って「気」と同じような物かしら?さっきビイナさんは手の平から魔力を出していたし…この世界では「気」が「魔力」になる…?それなら…


ビイナの目の前で仁は呼吸を整え、気を高めていく。

通わされた武術のやり方を嫌った仁が、本で学び独学で身に付けた護身法。内功武術というべきか。


気を高め、練り上げ、集め、纏める。

例えばそれを拳に纏める足に纏める。するとその拳から足から放たれる打撃は凄まじく体内に響く。気功は血を嫌う仁にはうってつけのものだった。


「これは…」


ビイナが驚く。

あぐらをかく仁のヘソ辺りを中心に、螺旋が渦巻く。魔力なのは確かだろうが、その性質、その操り方が違い過ぎる。


面白い


「ジン、その魔力で敵を攻撃するイメージを持ってみろ」


渦が消え、仁の体にピタリと沿うように蠢いているのが見て取れる。なるほど、身体強化か。ネイサンが言うように体術に特化しているのかもしれない。


「…小さな炎を出す」


仁は少し戸惑った様子を見せたが、そっと手の平を上に向け蝋燭のような炎をつけた。


「あの樽に水を入れる」


庭の隅にある樽を指差すビイナ。

仁の目が樽に向き、パシャンと小さな音がした。確認すると上まで一杯の綺麗な水が入っていた。


「はは…なんだ、これは…」


あり得ないだろう?

初めての魔力操作で、こんなに繊細なコントロールが出来るのか。


…面白いやら鳥肌が立つやら。


「…火と水の魔法が使えた。風はどうかな。ジン、わしの周りに風を起こせるか?」


ふわり…優しいそよ風がビイナを下から上に、包むように撫でた。


「では、このレンガを…」


ビイナは一瞬考えた。

自分が手に持つレンガ。曖昧な指示を出したらどうなる?


「このレンガを細かくしろ」


さあ、どうくる?破裂させるか?砕くか?

ビイナの目は期待に輝き、口元が自然と弛んでしまう。


ザッ…


「え…」


ビイナが想像しなかった方法で、仁はレンガを細かく…土に還したのだ。土になったレンガは、ビイナの指からサラサラと落ちていく。


ククっと笑いが漏れる。ビイナは大きく息を吸い、パンッと手を打った。


「そこまで」


仁を覆っていた魔力が消え、ふう…と息を付くとビイナにニッコリ笑いかける。


「すごいです!あたしにも出来ました!」


「いや…わしは…」


面白かったから…と言いそうになって言葉を飲み込む。


「…君の魔力の使い方は、一般的ではないよ。普通は初めてでこんなに繊細な制御は出来ないもんだしな」


「…そうなんですか?」


「ああ。火なら大抵最初は煙が出る程度、力の強いものなら逆に周辺を燃やし尽くしてもおかしくない。水も然り。チョロっと濡れれば上出来なんだよ」


「それって…!最初に言っておいてくださいっ!」


火事になってたかも!と慌てる仁だが、ビイナは続ける。


「それにな。普通は、己の体内にある魔力を使うから使えば疲労感があるんだ。だが、君は…」


仁は首を傾げる。


「それ、いっちゃんにも言われました。結界魔法の時に…自分だったら物凄く疲れるって」


「うん、それが普通の反応だ。君のやり方は、自然界の魔力を借りている様に感じる。我々エルフが使う精霊魔法に少しだけ似ているかな」


「精霊魔法?」


「そうだ。精霊の力を借りて…というか精霊が気に入った者の願いを聞いてくれる、という感じかな」


仁が知っている精霊はルアフだけだが、確かにネイサンの願いなら聞いてくれそうだ。


「せんせーも、ルアフさんの力を借りる事があるんですか?」


ビイナは、ちょっと引き攣った笑みを浮かべる。


「…あれは…また特殊な例だがな…ネイサンは”精霊憑き”だ」


「違うんですか?」


「う…む。さっきも言ったが…通常、精霊は気に入った者からお願いされた時は手伝っても良い、くらいのモンなんだが…。ルーのやつはネイサンが危ないと思えば必要なくとも勝手に助けるし、結果として状況が悪くなってもネイサンが無事なら気にもしない。自分のテリトリーを主張する為か勝手に家に結界張るし…」


おかげでネイサンはしないで良い苦労をしてるし、ルアフのチェックが厳しいせいで女房も居ない。


ビイナはため息をつく。


あらら…。それ、あたしに言っていいの…?


少し対応に困る仁である。だが、ネイサンの事が知れて嬉しいので言葉にはしない。

大体、本当に嫌だったらせんせーはキッチリと線を引いてしまうだろうし優しく呼び掛けたりしないわ…。


そこまで考えて、イラッとしてしまう。

あんなに優しくされて…羨ましいったらないわ…。


「ジン?」


「はいっ!」


いけない。つい…。


「…まあ、ちょっと見せてもらった感じだからね。もう少し形にしていこうか」


「はい。お願いします」


とはいえ…。


ジンの想像力は大したものだ。ビイナは魔法とは、その想像力が左右する所が大きいと常々感じていた。今回ビイナは、あえて魔法陣も詠唱も教えていないが上手くいった。バカ弟子にも最低限の詠唱しか教えていないが、あいつもいくつかの上級魔法は無詠唱で使えるようになった。


…ジンは自分で「無理」「出来ない」と思い込む事象でも、他人が「やれ」と言えば出来るのか…?


いや、違うな。


ジンはネイサンを慕っている。そのネイサンの師匠だから、わしに対しても警戒していないだけか。

イーチェの時は、ただイーチェを守りたい一心だったのだろう。


「…なるほど。歪んでいる」


ビイナはボソリと呟く。

その後の鍛錬は属性も適性も関係なく出来ようが出来まいがお構い無しで、どんどんと課題をこなさなくてはイケナイ事になるのだった。驚いた事に座学もたっぷりとあり、覚えなくてはいけない事が大量にあった。



…弱音は吐けないのだ。


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