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異世界はOKAMAの夢をみるのか  作者: ぶんさん
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仁、結界を張る

ネイサンたちが学舎に戻ったのは、朝方だった。


マオはネイサンに話した事をギルドマスターたちにも話すだけで良かったので、話した後はネイサンたちの話が終わるまで仮眠を取らせてもらっていた。


その間に何があったのかわからないが、学舎には結界が張られていた。


「こいつは…なんだってまた…」


この結界はネイサンでもルアフでも無い。


だが…


ネイサンには誰がこの結界を作ったのかわかっていた。わかっていたが、どうしたものか。


「先生、これ…こんなに高度な結界、誰が張ったんですか…」


近付くまで分からなかった…マオが触れると、ビリッとした刺激があった。顔をしかめたネイサンが、あえて結界に触れる。


ふぉん…


なんの抵抗も無く、その結界は消えた。

驚くマオ。ネイサンは顔をしかめたまま学舎に入ると二階に向かった。マオも続く。


「せんせー、お帰りなさい!」


ホッとした顔の仁が迎えた。

イーチェとユキはベッドの上で仲良く寝ている。


「マオちゃんもお疲れ様ねぇ。…もう下に降りても大丈夫ですか?」


「ああ。話もあるから来い」


仁はチラッとユキたちを見て、微笑んでから後に続いた。下に降りた仁は早速、お茶の支度をする。ネイサンの様子から、紅茶よりもコーヒーに近い飲み物の方が良いかしらね…と豆を挽く。


二人にカップを渡して仁も座る。


「あの結界はなんだったんだ?」


開口一番に聞くネイサン。


「結界…?」


「わたしたちが戻った時、学舎に結構強い結界が張られていたの。でも先生が触れたら消えた」


仁は少し考えてから「あ!」と手を叩いた。


「ごめんなさい。たぶん、あたしです」


「…どうやってだ」


ネイサンが昨夜と同じ様な鋭い目を向けてきた。ドキンッと心臓が飛び上がるが、平静を保つ努力をする仁。


「あの…せんせーたちが出てしばらく経ってから、いっちゃんが”イヤな予感がする”って言って怖がるから…。いっちゃんに教えてもらって悪いモノを寄せないように魔法を使いました…」


「えっ?教えてもらってって…え?じゃあ、もしアレがジンの張ったものなら初めて作ったのがあの…」


マオが驚いて声を上げるが、ネイサンが手を上げてそれを止めた。


「…ごめんなさい…」


「どんな魔法を使ったんだ」


ネイサンが怖い。やっぱり怒られる…何をやらかしてしまったのかしら…仁は緊張で背中に汗が流れるのを感じた。


「えっと…いっちゃんの言う通りに…」



せんせーたちが出て、少しの間は落ち着いて話をしてたんですけど…いっちゃんが「怖い人が来る予感がする」と言い出して。


仁が大丈夫だからと落ち着かせようとするが、身を抱いて震えている。

どうしたら良いのか…ユキも心配しているが、打てる手が無い。


「まま!ルアフみたく結界張っちゃえば良いよ!」


ユキが名案でしょ!と仁に言う。


「なに言い出すのよう。あたし、魔法なんか一つも出来ないのよぅ?」


「えー…。でも、ルアフが…」


「教えたら、出来る、かも」


イーチェが言った。


「二人共、何言ってるのよぉ…」


「わたしが、張ったら…あの人たち、気がついちゃう…」


そういえば、冒険者カードを貰った時に魔力の質が違うから他人は持てないと聞いた気がする。そういうのが分かる人も居るのだろうか。


仁は困った。困っている内に、イーチェの顔色が更にひどくなる。


「わたしの…魔力を追って来たのかも…」


魔力量があると、そういう事もあるのか…。仁は眉を八の字にする。


「ままー」


ユキも心配そうに仁を見ている。

仁はネイサンの顔を思い浮かべてため息をついた。


「…いっちゃん、あたしは何をすれば良いの?」


イーチェは、獣皮紙とペンを借り、震える手を必死に抑えながら魔法陣を描き上げると仁に渡す。イーチェのような幼い子が緻密な図を描き上げた事に驚く仁。


「これを床に置いて…」


「こう?」


「…本当なら、いろいろ手順もある…けど、ねえねなら…」


イーチェは探るような目を仁に向け「うん」と小さく頷く。イーチェには、仁にはわからない何かがわかるようだ。


「ねえね、想像して…。わたしたちを守る為の…空間を…」


仁は目を閉じ、イーチェとユキを守る為の 学舎を覆うような大きなドームを思い浮かべた。それだけでは足りない気がして、丸い球体をイメージして学舎の下まで意識した。

それから、せんせーたちが戻ったらどうしよう?と考えた。ルアフの結界は外から来る人を全て弾いてしまっていた。


「うん…。せんせーが帰ったら消える様にする…」


じっと仁の様子を見ていたイーチェ


「…出来た…?」


「ええ」


「想像したものを…魔法陣の上に想い描いて…わたしの、言う通りに、唱えて」


イーチェの言う事に理解は及ばなかったが、言われた様にする。


『完全防御』

『…完全防御』


魔法陣が、ぽぽぽと光を帯びて周囲に飛び散った。と、同時にイーチェが驚いた顔で窓に走る。


「すごい…!こんなにキレイに出来るなんて…」


「…いっちゃん?」


「これなら、わたしの事なんか見つからない!すごい!出来るだろうとは思っていたけれど…!」


イーチェは興奮して仁に抱きついた。


「ねえね、大丈夫?気分悪くなったりしてない?」


「え?…うーん…?別に何ともないけどぉ」


イーチェの顔から驚きが消えて、まじまじと仁の顔を覗き込んだ。


「なあに?」


「…もし、わたしがこれだけの魔力を使ったら…物凄く疲れる…」


「そうなの?あたし、本当に良く分かっていないのよねぇ」


「まま、すごーい!」


ユキまで仁を褒めまくる。困る仁。


あたし…やっぱり、せんせーに叱られるかしら…

こっそり、大きなため息をつく仁だった。



「と言うわけで…あたし自身は全然わかってなくて…」


せんせー、ごめんなさい


座ったまま、テーブルに額を付けるように頭を下げる仁。


呆れて物も言えないネイサンと開いた口が塞がらないマオ。


ネイサンにしてみれば、仁があの結界を作るのは可能だと考えていた。しかし、それがこんなにも安易に語られるとは思っていなかった。もっとこう…「イーチェの為に必死で頑張りました」と言われれば納得もいったのだが、この軽さだ。脱力もする。


「その魔法陣は…」


「消えちゃいました…」


頭を軽く振ったネイサンは、立ち上がって窓を開ける。

仁が「あ」という顔をするが、目で制される。


窓を背に寄りかかり、仁とマオを見る。知らなければ、ちょっと空気を入れ換えたいようにしか見えないだろう。


窓に凭れて腕を組んでいる…そんなさり気ないポーズなのに、なんて様になるのかしら…


こんな時でも、やはりポーッとしてしまう仁である。

しばらくすると、ルアフが現れた。仁はムッとしたが、マオが気付いていないようで何も言えない。


「ジン、先生は怒ってるんじゃないと思うよ?」


仁の様子を見てマオが言う。


「マオちゃん…」


アレが見えないの…?


仁が何も出来ないのを見て取ったルアフは、ネイサンの頭を抱いてピッタリと寄り添うと手を振って挑発したりと楽しそうにしていた。


その水面下では。


『…大丈夫?相当、疲れてるわね?』

『…正直、参っている。ジンもだが、イーチェという子供をどうしたもんかとな…』


ネイサンはルアフに事の経緯を話した。


ルアフが一瞬いなくなり、戻ってくる。


『あの子は巫女だわね』

『巫女?なんの?』

『さあ。でも、なかなかの魔力だし訓練されている。それに…』


ルアフは言葉を切って、遠くを見る目をする。


『追われていたのは確か。だいぶ離れているけど、魔力を追って転移魔法が使われた』

『…転移…空間魔法…ジンの結界で見失ったのか?』


『それだけじゃない。今後も魔力を辿って後は追えないはず』

『は?何でだ?』

『ユキと同じ。あり得ないけど、混じってる』


はあ…ネイサンは額に指を当ててため息を付いた。


『…でだ。岩山にはマオも連れて行く。その間だけで良い、ジンとイーチェを守る術はないか』

『無理』


即答されて唸るネイサン。


『意地悪じゃないの。アレが絶対に魔力を使わないなら、ある。でもアレは分かってないから』

『ダメか』


『…おかしいとは思わない?ネイサンの言う通りなら、相当の魔力が使われたはず。なのに、私たち精霊もモンスターも獣すら気にしなかった。私なんかもう三回もアレの魔力に触れているのに…それでもよ?』


確かに、ずっとギルドにいたがモンスターが暴れ出した話は聞かなかった。大きな魔力が動けば、通常なんらかの余波があり敏感なものは騒ぎ出すはずなのだが。


『参ったな…ギルドに連れて行くわけにもいかんし…』


額に当てていた手を、口元を隠す形に変えて見るとも無く仁を見る。

目が合った瞬間に顔を伏せる仁。マオが不思議そうに仁を突ついている。


『…心配ない』


周囲の様子を伺うように仰いでいたルアフがネイサンに告げる。


『あのチビが、ネイサンの家に向かってる』


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