イーチェの気持ち
ずっと…動けなくて…ただただ身体中が痛くて叫んでいたと思う…。痛みが薄れたと思ったら、知らない人…に背負われていた。背負われている間はボウッとして何も出来なかった…。途中でマオと名乗られて名前を聞かれたけど、答えるのも面倒だった…。何度目かに目が覚めたら、何かに包まれていた。怖い…マオじゃない…あの日からずっと、恐い夢ばかり見ていた。また、痛い事イヤな事をされるのか。あの苦しみを受けるのか。
あの、苦しみ…
そう思った瞬間に、イーチェの心のタガが外れた。自分を包むモノが自分を攻撃しているのかと、がむしゃらに暴れた。
暴れて暴れて…それでも自分を包むモノは無くならなかった。手足を動かすのも辛くなった頃、声が聞こえてきた。
「大丈夫よお。一緒にいるからねぇ。怖かったねえ」
囁くような声が、途切れる事なくイーチェの耳に届く。もの凄く怖かったモノが、僅かずつ暖かい温もりに変わっていく。
イーチェは、仁の優しく暖かな愛情に包まれた。その暖かさに包まれて、赤子の様な眠りに付いた。
次に目を開けた時、恐いモノは無くなっていて暖かいモノだけが感じられた。
目の前の布をギュウっと握り締めたら、優しく身体が揺らされた。
「起きたのぉ?どっか痛い所ない?お腹は空いてないかしらぁ?」
恐いモノの中で聞こえて来た声だった。
すごく優しい声…自分は声の主に抱っこされている様だ。見上げると、朧げに覚えている母のように優しく笑う顔があった。
「大丈夫?あたしは仁って言うの。ずっとうなされていたから、抱っこしていたのよぉ。マオちゃんもベッドで寝ているから、スープ飲んだら一緒にもう少し寝てなさいねぇ」
そっと下ろそうとしたが、必死にしがみついた。離れるのが怖かったからだ。
「困った子ねえ」
笑いながら抱き直される。炉にかけていた鍋から器用にスープをよそい、そのまま椅子に座ってスプーンに掬ったスープをフウフウと冷まして近付ける。
「はい。あーん」
イーチェはジッと仁を見てから口を開ける。
「美味しい?」
コクリと頷くと、嬉しそうにしながらスープを飲ませる。
一杯食べ終わると、また眠くなった。
仁はずっと抱いていてくれて、優しい歌を歌ってくれた。異国の言葉なのか意味はわからないが、安心する。
イーチェにとって仁は、長く続いた恐怖を打ち消してくれた大切なヒト。そして安らぎを与えてくれた人になった。




