出会い
夢であると認識した仁は、改めて周りを見渡した。
「うーん。夢だと思うと、この景色ってのどかで良いわよねー。気持ちいいー」
ぐぐっと大きく伸びをした仁はニッコリ微笑んだ。
「とりあえず、歩いてみましょうか」
見れば、右は森に 左は町に向かっているようだ。仁は左を選びゆっくりと歩きだす。
暫く歩いた時に、後ろからガラゴロと何かが進んで来る音がした。
振り返ると一台の馬車が走ってきていた。「馬…六本足の馬…?夢なのにリアルねー」なんて感心していたら、横に並ばれて御者をしていた男に声を掛けられた。
「失礼。お一人と見えますが、どうかされたのですか?」
どこの映画俳優?ってくらい美形な男に声をかけられて面食らう仁。
何故か、とてつもなく心配そうに仁を見ている。自然と頬が紅くなるのを感じながら片手を頬に当て、これはどうしたものかと考える。
大体、仁自身も何がどうなってここに居るのかわからないのだ。
困った顔で チラと男を見る。 緑の瞳。肩より下に延びた薄い茶髪を無造作にまとめて無精髭。でもそれが良く似合っている。そしておそらくは皮で作られているのだろう鎧のようなものを身に付けており、ズボンも皮で出来ているようだった。シャツから覗く逞しい腕に、ついうっとりと見惚れる。ああ、王子様…。
「あのー、もしかして盗賊にやられましたー?」
少し間延びした声にハッと我に返る仁。
見れば後ろからもう一台。こちらは幌付きの荷馬車が近くに来ていた。
更にオロオロと目線を泳がせる仁。今度の男もハンサム過ぎた。もしかしてハーレムな夢なのかしら…。嬉しい。すっごく嬉しいんだけど…。
よっと荷馬車から降りてきた男も馬車の男とは形の違う皮鎧を身に付けている。金髪に紫の瞳が眩しいくらいの笑みを浮かべて仁を見ている。
思いがけない幸せと自身の説明が出来ない状態に、何故かパニック寸前の仁。そんな仁の様子を見ていたのだろう少女の声がかかる。
「エルー、ガインー、その人びっくりして固まってるみたいよ?」
「「えっ?」」
「あ、本当だ。固まってる」
深緑の髪と黒い瞳の少女が、ポンと荷馬車から降りてきて仁の前でひらひらと手を振る。
先に声を掛けてきた黒髪の少女も、同じく荷馬車に乗っていたらしい人の良さげな小太りの中年男と仁の方に向かってくる。
仁は両手の平をギュウっと頬に密着させて動揺を押さえようとするが、出来なかった。知らぬ間に涙がこぼれ落ちて、その場に踞る。
数時間後、仁は先程出会った人たちと一緒に馬車に揺られていた。
彼らは商人とその護衛の冒険者で、日が暮れない内に峠を越そうと急いでいたそうだ。この辺は暗くなれば魔獣や盗賊が出るのに荷物も馬もなく、ガタイは良いがなんの装備も無さそうな仁が気になり声を掛けてくれたのだとか。
そして人の良い商人が、事情はともかく町まで連れていってあげようと乗せてくれたのだ。
馬車に揺られながら、仁は「冒険者って…ゲームに出てくる?あたし、ゲーム苦手で殆どした事ないのに…やっぱりこれは夢…?ハーレムじゃなかったけど…」と思いながら不安な感情を押さえる事が出来なかった。
出来ないながらも自分が何故ここに居て、これからどうすればいいかわからない事を吐露した。
その結果、彼らは「この人はどうやら転移魔法かなにかで飛ばされてきたのではないか」と結論付けた。なんにしろ、この辺りでは見た事のない服を着ているし全くの身一つ。これでは放って置くのも気が引ける。
ようやく落ち着いて来た仁に、商人が言う。
「まあ、旅は道連れと言いますしな。これも何かの縁でしょうよ。わたしはね、アイザックと言います。今向かっているミナクルに店を構えていましてね。買い付けの帰りなんですよ」
穏和な笑みを浮かべる商人は、仁にも丁寧に話しかけていた。
仁は泣き腫らした顔を服の袖で隠しながら答えた。
「ご迷惑かけて…ごめ、ごめんなさい。あたし、あ…仁です」
あまの、と名字を言おうとしたが商人が名前しか言わなかったのでそれに倣った。
「オレはエル。ミナクルで冒険者やってる。で、こいつらはパーティーメンバー」
エルは他の三人を指差す。
「俺、ガイン」金髪、紫の瞳、皮鎧、長剣
「わたしはイシュア」黒髪、緑の瞳、黒地に白で刺繍されたローブ
「私はイズルですー」深緑の髪、黒い瞳、皮の胸当てにキュロット
エルとガインが剣士、イシュアは魔導師、イズルは弓術使いだと紹介される。
それぞれ仁に労いの言葉をかけてくれる。
「それで…町まではあと一日かかるのね。その後はどうするの?」
黒髪の少女イシュアが仁に聞いた。他の四人も仁を見る。
仁は途方にくれて深く息を吐いた。
「どうもこうも…。とりあえず、ここの事を知らなきゃだし…お金も無いし…」
はあー。息を付きながら、がっくりと俯く。
チラと五人を見て呟く。五人に話した事で、現状が妙に現実めいてきた。夢ならさっさと覚めれば良いのに、なんであたしはここにいるのかしらね…。遠い目をして仁は言う。
「…冒険者って…あたしでも出来るのかしら…」
「あー。どのみち最初は採取依頼メインになるし大丈夫じゃねーの」
この短時間で仁が顔と体格に依らず、ずいぶんと気弱で臆病だと認識が一致していた。
「そうね。それに頑張って依頼完了すれば、その日の宿くらいなんとかなるし」
「そうよねー。私たちも最初は貧乏で、安い宿に硬いパンで辛かったよねー」
イズルがケラケラと笑う。
「だよなあ。田舎から出て来て依頼こなしてランク上げて。やっと部屋借りて護衛依頼もこなせるようになって、なあ」
「お前らと中の下でパーティー組んでからは、けっこうトントン拍子に来れたけどな」
あはは…と笑い合う四人にアイザックも混ざる。
「何を言っているんですか。いまや〝切り取る者〟はセルゼでも一、二を争う上級パーティー。全員が高ランク上位の冒険者パーティーなんてそうそうお目にかかれませんよ。今回は皆さんの帰路に居合わせて、実に運が良かったです」
「その〝切り取る者〟っての、イヤなんだよなー」
「おや、そうなんですか?」
「そーよう。もともと私たち、〝光と風の導き〟ってパーティー名なのにねえ」
ガインのぼやきにイシュアが同意する。
「〝光と風の導き〟?それは…なんでまた…」
アイザックの問にエルが苦々しい顔で答える。
「…こいつらのせいだよ。ガインとイシュアの戦い方がもう…。せっかくの戦略も作戦も意味ナシ!最初にしっかり手綱を握っとかないと突進していくバカ共のせい!」
「え?ガインさんはともかく、イシュアさんは魔術師でしょう?」
「アイザックさん、俺はともかくって…ひでえ」
「いやだって、ガインさんは剣士だから…」
アイザックにまじまじと見られるのを感じたイシュアはそっと顔を背けて誤魔化す。
背けた顔は自然と仁の方に向く。なんとも言えない表情の仁に、こてんと首を傾げたイシュア。
「どうしたの?」
イシュアの声に、パーティー名でわいわいと盛り上がっていた四人が目を向ける。
「あのね…。あの、あたし本当になんにも知らないみたいなの。今向かっている町はどんな所?通貨は?冒険者のランクってなに?そもそも冒険者って誰でもなれるものなの?」




