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異世界はOKAMAの夢をみるのか  作者: ぶんさん
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マオ、イーチェを救出

十日前、マオはハーピィの調査依頼を受けてミナクルと接する隣国セファとの国境近くの岩山に行っていた。


今回の調査依頼は、その周辺での目撃情報が増えたモンスターを確認・報告するものだった。討伐となれば高ランクパーティーに依頼されるが、調査なら実力ありと認められていれば個人でも出来る。


「えっ!マオちゃん、強いの?」


「マオは中ランクの中だ」


「殆ど魔法特化なんだけどね」


「すごいのねぇ!」


その調査自体は順調に終わり、あとはギルドに報告すれば依頼完了だった。

マオは帰路に着くが、その岩山に変な魔力溜まりがあるのに気が付いた。


「魔力溜まりってなあに?」


「高密度な魔力が一ヶ所に留まっている所。高ランクモンスターが長く居る場所やダンジョンが出来る場所に出来やすいって言われてる。でも、あの岩山はどっちにも当てはまらないはずなの」


マオは一応、様子だけは見ておいてギルドに報告しようと思った。

魔力を感じる方へ注意深く進むと、それは周りから見えない角度にある横穴から感じるようだった。

近付くと異様な匂いがする。卵が腐ったような死肉を腐らせたような…呼吸が苦しくなる位の臭気。


もしかしたらアンデッド系のモンスターがいるのか…?


「もし居たら報告しなきゃだし…風魔法で自分の周りに流れを作って、息出来るようにしてから中に入ったんだけど…」


慎重に進むがモンスターは出て来ない。なのに気持ち悪さはどんどん強くなる。


もうこれ以上は無理だな…と思う所まで進んだ時、ぼんやりと何かの揺らめきを感じた。

更に慎重に進むと、奥の方に大きな魔法陣があって そこからもの凄い瘴気が吹き出していた。その瘴気は陣の中心にある“何か”に吸い込まれて行き、黒い魔力の渦となって吐き出されては上の方に消えていく。


中心にあるモノがなんなのか気になって目を凝らすと簡易な台があり、その上に小さな少女が体を弓なりにして苦しんでいる様が見えた。


「もうね、酷い状態だった。魔法陣のせいか何も聞こえてこないけど、遠目でも涙を流して悲鳴を上げているのが分かって…」


マオは辛そうにイーチェを見た。

仁とネイサンもイーチェを見る。


「それで…気が付いたら、後先も警戒も全部吹っ飛んじゃったみたいで…」


てへっと舌を出す。


「…そうか…。お前は相変わらずのようだなあ…」


「痛い痛い痛い!先生、勘弁!だって、同族のちっちゃい子が酷い目にあってたんだもん!キレたっておかしくないでしょ…あー!イタイー!」


ネイサンの手がマオの頭を鷲掴みにしている。涙目になったマオを放したネイサンは、ため息を付いた。


「…気持ちはわかるがな…そうやって衝動的に動くなと教え込んだはずだぞ?」


「ごめんなさい…」


「それで?」


「…思いっきりな浄化魔法を使った結果、魔法陣が微かに揺らいだから…飛び込んでこの子を抱えて外に出たの…」


「お前なあ…自分まで取り込まれてたらどうしたんだ?」


「…ごめんなさい…」


そこまでは、良かった。

けれど、外に出たと同時に空間が開いて数人の男が現れた。マオは咄嗟に岩の裂け目に飛び込んで息を殺す。

少女は気を失っているが、呼吸はしっかりしている。


「空間魔法の遣い手?男の?」


「はい。男が三人でした」


その男たちの会話から、穴の中の魔法陣は男たちが描いたものだと分かった。


「獣人が居ない。まだ数分前だ。この辺に居るぞ」


中の様子を見てきた男が告げると、偉そうな男がすうっと目を細めた。


「ちっ。面倒な…」


「あの獣人が一人で逃げられるはずがない…何者が?」


「だから多重結界にしろって言っただろうが」


「ここには、あいつがいる。規模を大きくすればすぐに気付かれる」


「拘束を甘くしすぎたか?」


「…いいから、探すぞ」


このままではマズイと思ったが、今動くのは更に状況を悪くすると感じてジッと身を潜める事に専念した。穴からあまり離れていないのが幸いしたのか、男たちの探索が少しづつ逸れていく。


周りが薄暗くなり、自分の手元も見えなくなる頃になって ようやくマオは動いた。少女はぐったりとして動かない。自分のローブで少女を包み背負うと、落ちない様に体を布で縛る。


そして、ゆっくりと音を立てないよう気配を悟られないよう細心の注意を払って岩山を降りた。


月のない夜で良かった…。


あと少しで岩山を降り切る、という時に マオは一瞬気を抜いた。


抜いてしまった。


「う…わぅっ!」


四方から刃が飛んでくる。少女を背負ったままでは動きも鈍るが、助ける為に連れ出したのに置く事は出来ない。


マオは走った。魔法が飛び、矢も飛んでくるが皮一枚で何とか避ける。


少女にはいくつかの攻撃が当たってしまったかもしれない。ローブを着せておいて良かった。見た目は地味なローブだが、ネイサンのお古だけあって防具としては優秀なのだ。マオ自身、何度もローブに助けられている。


不思議な事に岩山から先へは追いかけて来ないで、攻撃だけが襲ってきた。


先生なら何とかしてくれるだろう…ギルドよりは学舎の方が近い。もし先生がいなかったらギルドまで頑張ろう。そう決めたマオは普通なら三日間掛かる距離を二日間、ほぼ不眠不休で移動し続けたのだった。


「先生…」


話し終えたマオが不安そうにネイサンを見る。


ネイサンは怖い顔をしていた。

居るはずのない空間魔法の遣い手がいて、この国の誰かを警戒した計画が国境付近で行われた。瘴気を呼ぶ、禁忌の法術を。


誰が、何の為に。


それだけの遣い手…マオの存在も知られている…。と言うよりも、何故マオを捕らえなかったのか…?わざと逃した様にしか思えないが、何のために?

違和感が凄い。思っていた以上に急ぎの案件な気がする。


しゅん…と下を見たマオにネイサンが言う。


「相手がマヌケで運が良かったな、マオ。ギルドに行くぞ。向こうでもう一度話すんだ」


「あ…。はい!先生…」


良かった…先生が信じてくれたなら安心だ…。


マオはさっと立ち上がって身支度すると、ネイサンに続いた。


「ジン、念の為にお前はイーチェと二階にいるんだ。俺が戻るまで絶対に二階から出るな。良いな」


「はい」


ネイサンの真剣な顔にポッとしつつ返事をすると、イーチェを抱き上げる。


「いっちゃん、オネエサンと一緒にいましょうねぇ」


イーチェは嬉しそうに仁の首にしがみつく。


あん…。なんて可愛いのかしらぁ…!


「不思議…」


「え?」


「イーチェ、わたしに対してもずっと人見知りしてたのに。なんでそんなに懐いてるのかな」


仁は首を傾げる。


「そうなの?ここに来た時に怖がって癇癪起こしたのを宥めたからかしらねぇ?」


「…ジン…ねーちゃん、あったかい…」


ねーちゃん!イーチェがそう呼んだ事にホクホクした顔になる仁。


「…なんで、オネエサン?」


「…俺に聞くな。行くぞ」

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