ソケネの動き
「…あんたは上に立つべきだな」
強い決意を見せるサマエルに、ネイサンが言う。
「あん?」
「全ての事が終わったら、あんたはこの地の王になれよ。口添えはするぞ?一度この地の面倒を見たんだ。復興するまで見届けるべきだろ」
「冗談じゃない。そんな面倒に巻き込まれてたまるか。それに、オレたちは核に戻って眠りにつく可能性の方が高いんだぞ?最悪、消滅するからな?」
二人は目を合わせ、薄く笑う。
「だが…そうだな…。ジンが来るなら考えても良いぞ」
「バカ言うな、あいつは俺の弟子だ。やらんぞ」
「なんだ…相思の仲なのか…」
少し…いや、だいぶ残念そうに呟く。
「はあ?」
こいつは何を言っているんだ?と眉を上げるネイサン。
「まぁ、あんたは鈍いようだし。全ては事が済んでからだな」
意味ありげな笑みを浮かべて、また一口 酒を含むサマエル。
「しかし、どうするかね…。ソケネを捕えて明日で三日目になる。アメカーヤの民も今はまだソケネの影響下にあるからいいが、直に統制が取れなくなってアメカーヤ兵と同じようになるだろう」
サマエルが懸念する。
「兵士たちは目的があったろう?民はどう動くと思うんだ?」
「目的なぞ、無い。ただ何の感情も無く、敵味方関係なく殺し合うだけだ…」
しばし沈黙。と、そこに仁からの念話が入る。
『せんせー、お話中にごめんなさい。ソケネの所に来て下さい』
「ジンからソケネの所に来てくれと念話が入った。行こう」
「何だ?」
「わからん」
二人が急いでソケネの所に行くと四将が倒れていて、仁はソケネの結界を点検していた。結界自体は機能しているよう見える。
「どうした?」
ネイサンが問うとユキが答えた。仁は集中しているようだ。
『あのねー、ままがイヤな感じがするからって見に来たら四人共ヘンだったの。ままがなんかしたら倒れちゃった。助けようと思ったけど、そのままにして…えっと…一位に確認してもらってって。ままは結界の点検をするから、せんせたちに説明してねって』
言葉足らずは相変わらずだが、一応の状況は分かった。
サマエルは四将の状態を確認する為に動き、ネイサンは仁の方に移動した。
仁は真剣な面持ちで結界に向かい、何かをしては考えるような仕草をするのを繰り返している。とても細かい作業をしているのは分かるが、何をしているのかまではわからない。ネイサンは「そういえば、ジンが魔法を構築するのを見た事が無かったな…」と興味深く観察している。
『この離れに怪しい者はいないな。四人は魔力の乱れが少しあるが…気を失っているだけのようだ。…二位は無事か…?』
魔法を使って四将の状態を把握したサマエルが、言いながらネイサンの横に並んだ。仁の真剣な様子を見ながら、二位に念話を飛ばして様子を聞くも何もなかったようで安心する。
仁が憮然とした顔でソケネから離れたのは、結構な時間が経ってからだった。
ネイサンとサマエルが待っていたのに気が付いても、珍しく笑みも見せない。
『結界に干渉されました…』
万が一に備えて、言葉にせずに念話を入れる。二人も仁の意図を汲んで念話で答えた。
『どういう事だ?』
『少しずつ、少しずつ、外から結界に干渉して破ろうとした痕跡がありました。この魔法陣が無ければ、すぐに気が付けたんですけど…』
仁は忌々し気に魔法陣を見る。
『ここ、見て下さい』
魔法陣の奥側を指差す仁。見れば、そこには針の先ほどの小さな水晶の欠片。
その欠片からじわりじわりと針先の細さで僅かずつ黒い魔力が滲み出ているのが見て取れる。そして、それが魔法陣を形作る外輪を一周する形で浸潤していた。これが干渉するモノを隠していたようだ。
サマエルは額に眉を寄せて、ここにソケネを置いて四将が魔法陣を張った所から思い出してみる。
自分の見ていた範囲では魔法は正しく発動されたし、不審な行動を取った者もいなかったはず。既に発動されている魔法陣を壊さずに干渉するのであれば、破るよりも大きな魔力と時間を有する。しかし、この黒い魔力は魔法陣の縁を囲みこんで新たな魔法陣として作用している。
と、なると。
この水晶は時止めの魔法を発動させた時には、既にここにあったという事になる。最初から時間を掛けて結界に干渉するつもりでなければ、こんな裏技的な魔法は使えない。
外部の者が侵入した可能性?…今夜ここにオレが居ないと知り、尚且つ四将と同格以上の魔力を使う者など城内にはいない。更にこの離れに出入り出来るのはオレが承認した者だけにしてある。
…この四人の内の誰か、か…
『今は結界と魔法陣は完全に切り離しています。この魔力がどこから供給されているか調べたいから、魔法陣はそのまま手を付けてませんけど…』
サマエルは水晶の欠片と滲み出る魔力を見るが、すぐに微妙な顔で顎に手をやる。ネイサンも渋い顔だ。
『この魔力はソケネのモノだ…』