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異世界はOKAMAの夢をみるのか  作者: ぶんさん
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従魔が出来た

全力疾走で仁の元へ駆けていたエルは、目の前で起きた事に唖然としていた。


今、エルの目に映っているのは倒れたボアと血の滴る剣を持つ仁。


ふしゅうぅ…と威圧感が漏れ出すような立ち姿だ。


ついさっきダンジョン内で「怖い」と泣き「無理」と剣を振るうのを嫌がったはずの仁が、高ランクの冒険者にも負けないだろう剣気で自身の三倍はあるボアを綺麗に一刀両断したのだ。


「…頭が付いていかねえ…」


エルは頭を振ると、ゆっくり仁に近づいた。


肩で息をしている後ろ姿しか見えないが、怪我はなさそうだ。


「ジン、大丈夫か?」


慎重に声を掛ける。遅れたイズルも隣にいる。


仁が目だけこちらに向けた。


「ごめんなさい…。あたし…今 動いたら気絶する…」


よくよく見れば、小刻みにガタガタ震えている。


なんだかなあ…。ぼやきたいのを我慢して、どうしたもんかと考える。イズルを見ても、やはりどうしたもんかとエルを見ていた。


「あ~。ジン。とりあえず、そこにボアがあると他のモンスターが寄ってくる。先に解体しちまうからな」


乱暴に頭をかきながら、優先順位を告げる。仁はコクコクと頷いた。


イズルと共にささっと解体を済ませ、魔石も回収する。モンスターには心臓の代わりに魔石と呼ばれる石を持っているのだ。残りの部位は適当に埋めておけば、後で他のモンスターが始末してくれるだろう。この間、約十五分。


「けっこう、大きなボアだったねー」


「おお。毛皮も牙も立派なもんだ。綺麗に首を切ってるし肉もいい。そこそこの値段になるぞ」


さて…と仁を見れば、まだ同じ格好のままだ。


「おい…」


「あー!ジンちゃん、それなによー?」


「へ?」


エルが声を掛けるより早く、イズルが仁の胸に抱かれたモノに気が付いた。

ハッとした顔で再起動する仁。ゆっくり、ゆっくりと左手を動かす。


「ぴぃあ…」


微かに鳴いたそれは、元の世界でいう猫に似ていた。ちなみに こちらには猫獣人というのは存在するが、猫はいない。


ガリガリに痩せ細って、今にも消えそうな命の叫び。

仁はいつの頃からか 何故か、こういう動物に気付く機会が多かった。


見付けてしまったら、まずは引き取り手を探すのだが その場で見付かる事は滅多に無い。

保護した猫を家に連れて帰り、父に殴られ罵られても里親を見つけるまでは頑張って自分の小遣いで賄い続けた。母は何があっても父に逆らわない人だったが、仁の邪魔もしなかった。どうしても病院費用などが足りない時は、近くの親戚にお願いして新聞配達のお手伝いをさせてもらってお金を稼いだ。


余談だが仁の父親は、仁が歩き始めた頃からなよなよした息子を嫌い やれ武道だ、やれ勉強だと自身の未熟は棚に上げて己の理想像を仁に叩き込んでいた。仁の自由など全く無かった。

確かに身体は強くなったし頭も悪くはないが、いわゆる機能不全家族の中で育ったのだ。性格が少々変わっていてもおかしくは無い。


それはさておき。


仁たちは早々に森から抜け出し、無言で歩いていた。


早くミナクルに着きたい…エルは苦々しい顔で仁の手元をチラチラと見ていた。


確かに可愛らしい獣に見えるが、自分もイズルも見たことの無い生き物だ。モンスターであれば、幼生体の可能性もある。仁が離そうとしないなら、ネイサン先生に何とかしてもらおう。きっとアレが何か知っているはずだ。さすがにイズルも微妙な顔をしてあまり側に近づいていない。


仁はと言えば。脱いだシャツを袋のように巻いてくるんだ、この小さな命を救いたい一心で歩いていた。戻ったら、この子にご飯あげなきゃ…でも、ミルクの方が良い?高いけど…仕方ない。しばらく学舎を休んで依頼をこなそう。


「あ…そうだ」


そうよ!あったじゃない!ミルク!

歩きながらゴソゴソとナップサックから陶器を取り出す仁。嬉しそうにニッコリと微笑んだ。これで今日明日は持つわね!


「可愛い子ちゃん、戻ったら すぐにまんまあげるからねぇ」


イズルは、それを聞いてひどく複雑な顔をしたのだった。




「わからん」


ネイサンはまだ学舎に居るだろうと、三人は戻ってすぐに学舎に来ていた。そして事情を聞かされて呆れ返ったネイサンは、じっくりと”可愛い子ちゃん”を見てから宣言した。


「え~。先生、ほら、もっとよく見てー」


テーブルの上の、仁のシャツをマットにして美味しそうにチャクチャクとミルクを飲む”可愛い子ちゃん”を指差してイズルが言う。


「俺が知らんのだから、強いモンスターの可能性は低い。だが、すべてのモンスターを知っているわけじゃない。変異体の可能性もあるしな…」


椅子に座る自分の前に正座している仁を睨みつけるネイサン。ハッキリと怒っているのが分かり、仁は小さくなっている。


「この、バカたれが、ダンジョン行って来いとは言ったがな、な、ん、で、余計なモンを拾ってんだ、よ!」


仁の頭をグリグリしながら力を込める。


「痛い!せんせー、痛いです!頭割れちゃいます!」


「おう、割れてみろや」


「ごめんなさい!ごめんなさい!だって、放っておいたら死んじゃうもの!気付いちゃったんだもの!」


「ぴゃう!」


「……おう」


仁の必死の答弁に重なって、ミルクを飲み干した「可愛い子ちゃん」がネイサンを見上げて鳴いた。目が合って、うっかり返事してしまうネイサン。


ハッとしてバツが悪そうに仁から手を放す。


「そう言えば先生…もふもふ好きでしたっけね…」


ちょっと遠い目で余所見するエル。


咳込んで誤魔化すネイサン。だがしかし、必死に膝に降りようとする様子に絆されて乗せてしまう。そして気持ち良さそうに丸まって寝息を立て始めた”可愛い子ちゃん”。


「せんせー、ズルい…」


ネイサンの手の平にすっぽり収まってしまう、毛糸玉のような生き物に若干の嫉妬を覚えてしまう仁である。


エルとイズルは複雑ながらも自分たちの手から離れた事で安堵し、ダンジョンでの仁の様子を逐一余さぬようにネイサンに報告するとギルドにも寄るからと出る事に。仁も一緒に出て、従魔登録をしに行く事になった。


従魔としてなら共に生活も出来るし、余程大きいとか臭いとか不潔だとかがなければ宿にも宿泊費を払えば泊まらせてくれる所が多い。だがなんの届けも出さずに飼育しているのは違反行為で、飼育しているモンスターが強制収容されても文句は言えない。


そう説明された仁は、素早くシャツを袋にしてネイサンから寝ている毛糸玉をそっと取り上げたのだ。ネイサンがちょっと残念そうな顔をして、仁をキュンキュンさせていたが。


移動しているのにも気付かないのか、プスープスーと可愛い寝息が聞こえる。可愛い過ぎて胸が痛いくらいだわっ!ニヤニヤと締まりの無い顔で俯き加減に歩く仁。


事情を分かっているエルでさえ引いてしまう位には気持ち悪い光景だった。


さて。ギルドに着いた三人は二手に別れてそれぞれの用事を済ませる事に。終わったら、そのまま解散だ。


「今回は本当にありがとうございました!」


エルたちにお礼を言ってから仁が向かったのは、冒険者登録した受付。新規の登録は、大体ここで行える。いつもの受付嬢ルツが居た。


「あら、ジンさん。どうしたの?」


ニコッと笑いかけてくる。仁は疲れた笑みで答えた。


「あのね、従魔登録をしたいの」


「従魔?ジンさん、テイム出来たの?」


「テイムっていうか…保護したっていうか…」


そっとシャツを広げて、まだ寝ている”可愛い子ちゃん”を見せる仁。


「やっ…!何?この可愛いの!」


「ダメよう?寝てるんだからぁ」


鼻息荒く手を出そうとしたルツだったが、仁に優しく止められて諦める。


「ああ、残念!今度、絶対に触らせてね!」


「この子が嫌がらなかったらね」


二人で目を合わせてクスッと笑ってしまった。


「従魔登録は、この用紙にその子の名前とテイマーとしてジンさんの名前を書くだけよ。書類を受理したら登録証明の魔道具を渡すから、それを付けてね。あなたの従魔だって言う印だから」


「はーい」


仁はペンを受け取ると、「ん…名前…」とちょっと考えてからスラスラと記入していった。最初の冒険者登録では文字も書けなかった仁が迷う事なくペンを走らせる様子を、ルツが微笑ましく見ている。


「なによぅ?」


「いいえー。しっかりお勉強したんだなって」


「…うふ。もちろんよぅ」


少し恥ずかし気に笑うと、用紙を渡す。


「んーと。ユキ、ね。変わった名前ね」


何か意味があるの?と続けるルツに、仁は寂しそうに笑っただけだった。


ちゃんと記入されているのを確認された後、仁のギルドカードを以前使った物とは少し違う魔道具に置く。対になる位置に黒い従魔用の飾りと少し切り取った毛が置かれる。細い犬用の首輪のように見えるが、登録した従魔に合わせて丁度良い大きさになる便利な魔道具だ。


「ジンさん、前と同じく魔力を流して」


頷いて、そうっと手をかざす。ポウっと光って消えるのは前回と同じだった。違うのは、仁のカードに従魔の情報が記された事。そして黒かった魔道具が淡い赤色になった事か。


「あら、可愛い色になったわね!これね、テイマーと従魔を繋ぐ大事なモノなのよ。色が変る事はあまり無いけど、変わった時は互いの関係がとても深い証になるのよ」


「関係が、深い証…」


出会ってからホンの数時間なのに、この子はあたしを信頼してくれてるの…?

くすぐったい気持ちに嬉しさが込み上げてくる。


ああ、この子を助けられて本当に良かった…!


とても暖かい気持ちを抱いて宿に戻る仁。無事に女将さんから承諾を得て、初めての夜を…この世界に来て初めての家族との夜を過ごすのだった。


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