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『まだ、まだだよ。だから、待ってて――。』

 最近、不思議な夢を見るようになった。

 だけどそれがいったい何なのか、所詮夢と切り捨てられない何かがあった。

『……次のニュースです。最近何かと話題になっている彗星ですが、来週には地球に最も接近し、肉眼でも観測できるでしょう。ではここで専門家のお話を――』

『もうすぐだよ。もうすぐ……会えるね』

 懐かしい声が遠くのほうから、日を追うごとに少しずつ声が明瞭になっていく。

 そしてもうひとつ思い出すことがある。

 「ねえ、ゆかりはどこに行ったの?」

 それは幼き日のこと。まだ死というもが理解できていなかった頃。

 「ゆかりはね、お星様になったの。お星様になって空の上からきっと見守ってくれているわ」

 「お星様? じゃあぼくもお星様になりたい! お星様になってゆかりと一緒に遊ぶんだ。ねえ、どうやったらお星様になれるの?」

 子供の頃の無垢な質問に母がどう答えたのか、覚えていない。

 星になったと言うのが死んだという隠語だと知るのは小学生の高学年になってからだ。

 『おはようございます。今晩はいよいよ彗星が地球に最も接近する日です。今日に合わせて各地で流星を見るイベントが予定されています――』

 普段夜空など見上げない人たちがこぞって夜空を見上げ、空に向けて指をさす。横切るだけのはずの流星がまさか落下してくるとは誰も想像してなかっただろう。

 もちろん家のリビングのソファーでごろごろと過ごしていた星見ほしみ えんもその内のひとり。ただ大多数の人たちと違った事は彼のいた家をめがけて流星が落ちてきた、ということだけだ。


   ☆★☆★☆★


 ドサッ、肩の辺りに強い衝撃を感じてはっと目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたのか、窓の外は暗くなっており、やたらと明るい月の光が部屋の中に優しく射し込んでいる。

 「や、おはよ。お兄ちゃん」

 耳元から女の子の声がした。最近どっかで聞いたことある声のような気がするが、どこで聞いたのか思い出せない。

 さっきの衝撃は女の子は後ろから飛びついたようだ。その女の子はヒョイヒョイっと周って俺の隣に腰を下ろした。

 見た目は同い年か、1つ年下ぐらいだろうか? ゆかりが生きていればこんなぐらいだっただろう。

 ……ん? 今、俺のことお兄ちゃんて言ったよな? ってことは……?

 「……ゆかり? なのか?」

 「ピンポンピンポン、大せーかい、久しぶりだね、お兄ちゃん♪」

 楽しそうにはにかみながら、手を叩いて喜ぶ女の子、もといいゆかり。

 半信半疑だけど否定しても話が進まないのでゆかりだとしよう。

 「……って、死んだはずのゆかりが居るって事は俺も死んだ?」

 「いや、死んだわけじゃないんだけど、ホントごめん、うれしくてつい、ね?」

 手を合わせて、チロッっと下をだしてさらにはウインクのおまけ付だ。

 「でも、大丈夫! どーんと大船に乗ったつもりでまかせといて!」

 ボンボンと自分の胸を叩く。いや、ゴンゴンのほうが近いか、まあどっちでもいっか。しかし結構強めに叩いてたけど痛くなかったのか? あ、むせてる。

 「ゴホゴホッ、ふう。……さて、気を取り直してっと」

 「なに……うおっ!」

 何するのか、と聞こうとしたら急に俺に覆いかぶさってきた。というより、ゆかりのほうが身長が低いから飛び掛ってきたと言うほうが妥当だろう。妹は痴女になってしまったのか。

 そしてそのまま俺のファーストキスが奪われた。妹に。

 「な、なにを……」

 「大丈夫、あたしに任せて。目つぶって、力抜いて」

 ゆかりが言い終わると、俺に反撃の隙も与えずまたキスされた。セカンドキスも奪われた。妹に。

 そしたら、みるみるうちに睡魔が襲ってくる。まぶたが重くなってきて、頭が回らなくなってきた。まどろみの向こう側でゆかりの声が聞こえる。

 「わたしとひとつになろ? 恥ずかしいけどお兄ちゃんにならわたしの全部、見せてもいいから。緊張しないで、わたしを受け入れるだけでいいから……。おやすみ、お兄ちゃん。またね?」


   ☆★☆★☆★


 ちゅんちゅんと電線に止まった小鳥がにわかに騒ぎ出した頃。

 目覚ましがセットした時間になった途端、けたたましく電子音が鳴り出し、早く起きて止めろと言わんばかり鳴り響く。

 のそのそと布団から手を伸ばして、勢いよくバシッと手を目覚まし時計に振り下ろす。

 小さくあくびをかまし、うーんと背伸びをする。

 「うん?」

 ちらっと視界の端に男としてはありえない箇所にふくらみが2つある。

 「うん??」

 手を伸ばして軽くわしわしすると、ちゃんとさわった感覚があるので詰め物の類では無さそうだ。

 手を離し、あるはずの下半身のふくらみを確認するが

 「……ない」

 それから手が小さい事に気づいた。手だけじゃなく全体的に少し縮んでる。元々そんなに大柄な体ではなかったが、いつも見てるし、使っているから小さな変化だったが気がついた。

 もういちど自分の体を見るように視線をゆっくり見下ろしていくが、やはり見慣れないものがあって、見慣れたものがない。ふうっと息を吐いてから

 「夢か」

 そうだ、きっとそうだと現実逃避的な判断してもう1度目を布団をかけて寝直す。

 しかし空気の読めない目覚まし時計の電子音が鳴り響き、再び手を叩きつけて止める。起こしてあげたのに叩かれる目覚まし時計からしたら理不尽きわまりないだろうが、こっちからしたら夢だと結論付けて寝直そうとした矢先にだったからなおのことだ。

 仕方ないのでもう1度体を起こして、3度目の正直とばかりに自分の体を見てみてもさっきと変わっていないので、そろそろ現実として受け止める覚悟しないといけないかなと思い始めた。


 朝起きたら尿意が来てしまうのは自然の摂理だろう。なにせ数時間の間寝ている時に体外の排出することができないのだから。しかしなぜか分からないけど今は異性になっている。普段見れないところを見たり触れたりする必要があるのだ。

 第3者の思春期真っ只中の愚兄諸君からしたら泣いて喜ぶのだろうが、当事者になってしまったら恥ずかしさで一杯だ。幸いにも今日は特に用事もないし時間はたっぷりある。その間に何か良い解決方法が思い付くかもしれない。

 だがやはり生理現象には勝てなかった。スッと脱いでパッとすれば大丈夫だろうと思い直して急いでトイレに向かった。


「はあ、生々しかった……」

 バタンと扉を締てから、はぁとため息がこぼれる。

 一難去ってまた一難とは昔の人もよく言ったものだ。時代は変わり現代になっても世間ではそういったことが往々にして起こる。

 インターホンがどこかのコンビニと同じ電子音を奏で、誰かが来訪したことを知らせる。一瞬、玄関を開けようと動きかけたが「この格好で?」と思い直してブレーキをかけて、おとなしく居留守を使うことにした。

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