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じきゃじょ 〜自転車×キャンプ×女の子〜  作者: 無限ユウキ
第2章「自転車×買い物×金銭感覚」
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6話

 高校2年生へと進級して下駄箱の場所が変わり、クラスの場所が変わり、担任の先生が変わり、クラスメイトが変わりました。

 前の学校からの知り合いや部活など、顔見知りの人ですでに小規模のグループが出来上がっています。

 学校では、こうしたコミュニティが自然と形成されるものですが、それに加われないと肩身の狭い思いをしてしまいます。


 じきゃじょ高校2年3組では40名ほどのクラスメイトがいますが、若干1名ほど絶賛売れ残り中でした。


 少し小柄で、セミロングの髪をポニーテールにまとめた木葉(このは)このみです。彼女はキャンプとカメラが趣味というアウトドア少女。

 反面、学校では随分と大人しいようです。


 頬杖をついて気だるげな視線を落とす先には1冊の本。

 どうやら読書中のよう。周囲の喧騒など全く意に介していません。肩身の狭い思いをするどころか、自分の世界に入り込んで、のびのびとしている気さえしてきます。


「このみ」

「んー?」


 声がかかりましたが、このみは本から視線を上げないままに、適当に返事をしました。


 声の正体は和氣(わき)わかな。女子の中では長身で、ボーイッシュなショートカットの少女。彼女は自転車が趣味で、食べることが大好きなスポーツ少女です。

 春休みのキャンプで偶然知り合って仲良くなり、あっという間に下の名前で呼び合う仲になりました。


 ちなみに、クラス内の喧騒の一因でもあります。女子からの人気が不思議と高く、いつも数人に囲まれて楽しそうにお喋りしています。

 そんな輪の中から抜け出して、わざわざ何の用でしょうか?


「今日の放課後って予定ある?」


 前の席が空いていたので、わかなは椅子を引いて座りながら聞きました。


「特には」


 このみは簡潔に答えます。


「ちょっと付き合ってほしいんだけど、いいかな?」


 付き合ってと言っても、もちろん『恋仲になろう』というお話ではありません。下校時に寄り道をするから付いてきてほしい、というお話です。


 脳内スケジュールを確認して、そこは空白だったので、


「いいよ」


 と返事をします。

 わかなは小さく「よっしゃ」と呟いてガッツポーズを決めました。


「あの、何の話をしているんですか?」


 そこへやって来たのは、平均的な身長でサラサラロングヘアーの宇賀神(うがじん)うるか。彼女も春休みのキャンプを一緒に過ごして仲良くなりました。音楽が趣味でお料理が得意な、女の子らしい女の子です。


「放課後に寄りたいところがあって、一緒にどう? って話だよ」

「ちなみにだけど、どこに行くの」


 このみが聞いてみると、ニヒヒと白い歯を見せてわかなは笑いました。


自転車(サイクル)ショップ! 近所に良さげなお店があるらしいんだよね。このみ興味あるって言ってたでしょ? 視察がてらどうかなって」


 確かにキャンプをしたときにこのみは『自転車に興味がある』という話をしていました。よほど嬉しかったのか、しっかりと覚えていたようです。


「わ、私もご一緒してもいいでしょうか?!」


 わかなの予定を聞くと、うるかが身を乗り出すようにして挙手しました。


「もちろん僕は構わないよ! このみもそれでいいかな?」

「いいけど、逆に大丈夫なの?」


 このみはうるかに聞きました。「大丈夫とは?」と可愛く小首を傾げます。


「校内の案内とか、近所の案内とか、名乗り出てる人いたよね。こっちまで聞こえた」


 うるかも清楚な美少女かつ転校生ということもあり、現在注目の的になっています。

 実は彼女も、クラスの喧騒の一因だったのでした。


 うるかはゆるゆると首を左右に振りました。


「お気持ちだけ受け取っておきました。地図は先生から頂きましたし、ゆっくり回りたいので」

「わかる」


 パタンと本を閉じてこのみは同意しました。

 キャンプのときに周辺の散策をよくするのですが、誰かの案内があるよりも自分の足で周り、目で見る方が楽しいからでした。


 胸に手を当て、爽やかな笑みに乗せてわかなが言います。


「移動教室は誰かに付いて行けばいいし、最悪聞けばいいしね。もし困ったことがあったら僕らも力になるから、今みたいに遠慮しないで言ってね」


 この頼もしさと清涼感が、女子からの人気の秘訣なのかもしれません。


「そういうこと」


 このみも頷くと、


「……はい!」


 どこか不安そうだったうるかの表情は、晴れやかになりました。




   ***




「あったあった」


 わかなはスマホの画面と頭上の看板を交互に見て、探し求めていたお店に到着したことを確認しました。


 ちなみに先日、事故でバリバリに壊れたわかなのスマホはあっという間に直りました。

 直したんじゃなくて新しいものなんじゃ? と疑いましたが、ちゃんと使えればどっちでもいいので早々に気にするのはやめていました。


 看板には〈サイクルンルン〉の文字がファンシーに並んでいて、随分と可愛らしいお店です。

 確かに、店頭には見えるように自転車が置いてあり、ここがサイクルショップであることを主張していますが、並んでいるのはいわゆるママチャリ。

 わかなが乗っているのは、自転車は自転車でもロードバイクであり、ママチャリではありません。


 このみは(いぶか)しげな表情になりました。


(ここ……なのか?)


 このみが言った『自転車に興味がある』も、ママチャリのことではありません。果たしてここに求めているものが本当に置いてあるのでしょうか?


 このみは疑問に思いました。


「入ってみよう!」


 言い出しっぺであるわかなが先陣を切ります。


「な、なんかドキドキしてきちゃいました……」


 続いてうるかが入っていきます。こちらがドキドキしてしまいそうな言い方でした。


(とりあえず付いてくか)


 最後にこのみが入店。油っぽかったりゴムっぽい匂いが充満しているのを覚悟しましたが、全くそんなことはありませんでした。とても清潔そうなお店です。


 そして出迎えてくれたのは──


「いらっしゃいませルン! ルンルン!」


 ──語尾がどこかのアニメで聞いたような、なんかヤバそうな女性店員さんでした。


 明るい茶系のウェーブがかったショートカットに、服装もファンシーなパステルカラーで統一されていて、目がチカチカしてきます。周囲にあるのは普通のママチャリなので、明らかに1人だけ浮いていました。


「これどうぞルン! 最近オープンしたばかりだから今後ともご贔屓(ひいき)にルン! ルンルン!」

「ど、どうも……」


 忍者もかくやというような素早い動きで3人に手渡したのは、割引券でした。

 カバンから取り出したお財布にしまいつつ、わかなが尋ねます。


「ネットでロードバイクも取り扱ってるって聞いたんですけど……」

「ルン! それなら2階がロードバイクのコーナーになってるルン!」

「ありがとうございます」


 軽く頭を下げて、ニコニコ営業スマイル満点の店員さんの横を通り過ぎ、階段を上って2階へ行きました。


「わーお」


 わかなお得意の、驚いているのかいないのかよくわからない、驚いた声が出ました。


 天井にぶら下がっているフレーム。壁一面のホイール。ショーケースにしまわれたコンポーネント。棚に見やすく陳列された細かい部品たち。

 自転車初心者のこのみとうるかには何が何だかわからなくても、詳しいわかなの目には宝の山のように映っていることでしょう。


 明らかに1階とは違う雰囲気に、3人は息を飲みました。


「凄いよここ。何でも揃いそう」

「こっちにこそ本腰入れてますからルン!」

「うわっ?!」


 いつの間にか背後にいた店員さんが、ムフフと目を皿にして怪しく笑いました。


「本日は何をお探しで? ルンルン!」

「いや、僕はお店の下見に。この子が自転車に興味あるって言うからついでに連れてきたって感じで」

「ちょ」

「なんとなんと! 自転車に興味がおありルン?!」


 店員さんの相手を押し付けられてしまいました。ターゲットがわかなからこのみへ切り替わり、視線がギュルンと音を立てるかのように唸ります。


「え、えっと……」


 困った顔で苦笑いを浮かべるこのみ。


「興味おありです! 教えてください!」


 横から割って入るように助けてくれたのは、やけに気合の入ったうるかだったのでした。

 学校で本を読んでいると話しかけられること、ありませんか? 自分は結構ありました。

 話が落ち着いて読書に戻ると「それで──」と続くんですよ。

 それを何度かループして「わざとやってるでしょ?!」って言ったら「バレた?」って。

 わざとやったんかーい。


 こ、高校の名前は(仮)ってことで、良いの思いついたら差し替えます……。朝露のように澄んだ綺麗な名前がいいなぁとは思ってるんですがね。

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