5話
水汲みから戻ってきたキャンプ少女──このみの手には水の他にも、なにやらビニール袋がぶら下がっていました。
「おかえりなさい」
「ただいま」
出迎えてくれたフラれた少女改め、音楽少女──うるかは健気にも薪割りを応援していました。
応援ソングで。
「木葉さん、薪割りこんな感じでどう?!」
「うん、いい感じ」
大きかった薪も斧によってちょうどいいサイズになっています。
このみが合格を出すと、ガッツポーズを決めました。
「よし!」
「じゃあ次はその薪をアレにいい感じにセットして」
「いい感じ?!」
またしてもアバウトな指示に驚愕を隠せない自転車少女──わかなでしたが、吹っ切れたのか「やったらー!」とヤケクソ気味に薪を抱えて、アレと指差された焚き火台へ向かっていきました。
その様子を眺めてから、次にうるかへ視線を移します。
「宇賀神さん、仕事増えそうだよ」
「え? どういうことでしょう?」
「これ、管理人さんからもらった」
差し出したビニール袋の中には、肉や野菜などの食材が入っていました。
お得意様へのサービスだそうです。1人分の食料しか持ってきていなかったので、ありがたい限りです。
「火は一口しかないし、こんな感じで調理器具も小さいのしかないけど、いけそう?」
食材とクッカーを交互に見つめて、うるかは頷きました。
「はい、大丈夫です」
「ん、それじゃあ宇賀神さんは料理担当で」
頼もしく言い切るうるかに料理を任せてみることにして、食材と、持ってきた食材用の刃物などを渡しました。
「和氣さん、火起こしはコツがいるからウチがやるよ」
「助かる! それも『いい感じに』って言われるんじゃないかってヒヤヒヤしてた」
「そこまで鬼じゃない」
「見てていい?」
「お好きに」
わかなからバトンタッチで焚き火台の前にこのみは立ちました。
キャンプをやったことがないと言いながら、ちゃんとピラミッド型に薪が組まれていました。あとは隙間に小枝や枯葉などの燃えやすいものを敷き詰めれば、恐らく簡単に火は着くでしょう。
(良き良き。火起こしまで任せてもよかったかもな)
鬼がいました。
このみはチャッカマンを右手に、指し棒のように伸び縮みするふいごを左手に構えます。
ガンアクションをするようにチャッカマンを無駄にクルクルと回して、いざ点火。
乾いた薪がパキパキと音を立ててゆっくりと火に包まれていきます。
「慣れたもんだね。プロみたい」
「プロならチャッカマンじゃなくてもっと原始的な方法で火を着けて欲しいね」
その方がプロっぽいとこのみは思いました。
木の棒を回転させて摩擦熱で火起こし、とまでは言いませんが、メタルマッチを用いるくらいはして欲しいです。
メタルマッチとは、強力な火打ち石と思っておけば問題ありません。
「さて、2人には不便をかけるけど、そこは我慢してもらうからね」
「不便?」
「と、言いますと?」
「木の隙間から微妙に屋根見えるでしょ? トイレはあそこね」
結構な距離がありました。無いよりはマシと思うようにしましょう。
「で、寝袋もないし、椅子もない。夜は寒いかもしれないからずっと焚き火のそばにいた方がいいかもしれない」
3人でテントに入っておしくらまんじゅうしながらなら暖かいかもしれませんが、それで眠れるかは分かりません。
「つまり、代わり番こで火の番をする」
嫌な顔のひとつくらいはされるものかと思いましたが、このみの予想は裏切られる形となりました。
「なにそれ! なんか冒険みたい!」
「私もそういうのちょっと憧れてました!」
ウキウキと目を輝かせて、2人は意気込んでいます。
(嫌々付き合ってもらうよりはいいか)
どうせ今晩だけだし、とこのみも覚悟を決めました。
焚き火を囲み、うるかの作った絶品料理を3人で突いて舌鼓を打ちながら、自分の好きなことについて語り明かし、楽しい夜が更けていきました……。
***
「本当に駅まででいいのかしら?」
運転席に座っているこのみの母親が、助手席の窓から顔を覗かせて、心配そうに聞きました。
うるかはお上品に頷きました。
「はい。これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきませんので」
「迷惑だなんて思ってないけど……あなたも?」
隣に立っているわかなにも同じことを聞きました。
「はい! こんなときのために輪行袋持ってきてるから大丈夫です!」
輪行袋とは、自転車を入れる袋のこと。
自転車をそのまま電車や飛行機に乗せることはできないのです。輪行袋という袋に入れることによって、持ち込みが許されます。
「「お世話になりました」」
「気を付けて」
頭を下げる2人に、助手席から手を振るこのみ。
ブゥーン、とエンジン音を上げて発車して、やがて2人は見えなくなりました。
見えなくなっても、このみは頬杖をついてサイドミラーを見続けていました。
「……あれでよかったのかしら」
心配性の母は未だに心配しています。自分の娘と同い年くらいでしたから、それも無理はありません。
チラリと娘の横顔を盗み見て、意外そうに母は言います。
「それにしてもこのみが誰かと一緒にいるなんて珍しいなってお母さんビックリしちゃったわよ」
「まあ、キャンプに出会いはつきものだから」
「そういうものかしら」
「そういうものだよ」
こうして、春休みは終わりを迎えたのでした。
***
いろいろあった春休みも終わりまして──
進級し、高校2年生になりました。
(木葉、木葉──あった。3組の15番か)
外に張り出されたクラス分けの紙を確認し、場所の変わった下駄箱と教室に違和感を覚えながらも、このみは自分の席に着席しました。
「わーお」
先生が来るまで読書をして時間を潰していたら、頭上から驚いているのかいないのかよくわからない、驚いた声が降ってきました。
「あ」
視線を文字から持ち上げてみたら、そこには先日見たばかりの、美男子と見紛う少女が立っていました。
和氣わかな。先日のキャンプに飛び入り参加してきた自転車が趣味の少女でした。
「やっぱり木葉さんだ! 同じ学校だったんだね! 驚いた!」
顔を寄せてくるわかなの圧力に負けて首を引きつつ、小さく頷きます。
「……和氣さん。よろしく」
「うん! これからよろしくね!」
まさか同じ学校で同じクラスになるとは思っていませんでした。これが運命というやつか、なんて読んでいた本に感化された感想を抱いていたら、先生がやってきました。
「みなさん席についてください」
小さく「また後で」と言い残して、わかなは自分の席に駆け寄っていきました。
「ホームルームを始める前に、転校生を紹介したいと思います」
新しい担任の先生の発言に、クラス内は沸き立ちました。
「どうぞ、入ってください」
そして遠慮がちに教室に入ってきたのは、またもやつい最近見た気がする、清楚な美少女でした。
宇賀神うるか。音楽が趣味で、料理が得意な女の子らしい少女。
「わーお」
教室のどこかから、先ほどと同じ驚いているのかいないのかよくわからない、驚いた声が聞こえてきました。
「宇賀神うりゅか──うるかです。よ、よろしくお願いしましゅ……」
((噛んだ。かわいい))
顔を耳まで真っ赤に染めるうるかを見て、2人は思いました。きっと教室中の誰もが同じことを思ったことでしょう。
運命の悪戯とは、時には気を利かせてくれるものなのかもしれません。
こうして改めて、3人は同じ場所に揃ったのでした。
第1章「キャンプ×出会い×つきもの」──完。
「プロみたい」発言はゆるキャン△リスペクト!
焚き火をすると乾燥するので保湿クリームがあるといいっていうのはホントです。女の子ならお肌にも気を使おう!
文字数やらの都合でうるかちゃんのお料理とか後半部分結構カット。まぁ、またそのうち書くタイミングがあるでしょう!
正直ここまで困っている人の面倒を見ることは無いと思いますが、近所のキャンパーさんから差し入れをもらうとかはあるあるかと。
唐突な未来予知ムムムン!
第2章は「未定×未定×未定(仮)」何にも決まってなくてオワタ\(^o^)/
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6月25日追記:2章の終わりが見えてきたので近いうちに更新できるかも?