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じきゃじょ 〜自転車×キャンプ×女の子〜  作者: 無限ユウキ
第1章「キャンプ×出会い×つきもの」
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4話

「──と、いうことがあって」

「貴女を見つけたんです」


 2人の経緯を聞いて、腰に折り畳み式のノコギリをぶら下げたキャンプ少女は、


「ふーん。それは災難だったね」


 本当にそう思っているのか怪しい口調で、2人に言いました。

 まるでどこかの漫画のような話に、半信半疑なのです。


「はい。ココアだけど」


 話を聞きながら準備していたココアを2人に差し出しました。余計にカップを持っていてよかったです。椅子は1人分しかないので芝の上に直接腰を下ろしてもらうしかないのですが。

 硬い地面でお尻が痛くなってしまうよりはいいでしょう。


「どうも」

「ありがとうございます」


 受け取った2人はふーふー、とゆっくりと冷ましつつ飲んで、ほっと一息。両者とも一波乱あったようですから、落ち着けたようでなによりです。


「薪、運ぶの手伝ってくれてありがとう」


 小さく頭を下げると、2人は手と首を振りました。


「あれくらいお茶の子さいさいだよ」

「こちらこそ、お願いを聞いてくださってありがとうございます」


 丁寧に頭を下げてお礼を言ってくれました。


「まあ。困ったときはお互い様って言うし」


 キャンプ少女がそう言うと、2人して笑みをこぼしました。


「なに」

「ううん、なんというか」

「私たち、気が合いそうだなって思いまして」

「そう」


 3人して同じことを言っているわけですから、きっと相性はバッチリでしょう。


 そして『お願い』とは、スマホを少しだけ貸して欲しい、というもの。2人ともどこかに連絡をしたいのですが、自分のスマホは色々あって使えなくなってしまったのです。


 しかしすぐにスマホを貸さなかったのは、貸せなかったから。キャンプ場まで戻らないとギリギリ電波が入ってこないのです。

 ならばついでに集めすぎた薪を運ぶのを手伝ってもらおう、という魂胆でした。

 歳も近そうだったので、頼みやすかったのもあります。


「それにしても、こんなところでもココアって飲めるんだね」

「お湯注ぐだけだし」


 1杯分に小分けされている袋が売っているので、それを荷物の片隅にでも忍ばせるだけ。必要な分だけ持ってくればいいので嵩張(かさば)ることもありません。

 お湯を沸かすのも、カセットガス缶をセットするコンパクトバーナーがあるので、簡単に沸かすことができます。


「キャンプってしたことないから分かんないや。最近のキャンプは凄いんだね」

「まあ」


 いつものように適当に返事をしました。


 少女がやっているのはただのソロキャンプで、別に凄いところなどありません。ただただひたすらに地味です。

 だからカメラを持ち込んで撮影をして、やることをあえて増やしたくらいです。


 最近のキャンプが凄いというのなら〝グランピングキャンプ〟というものがあって、テントも食材もすでに用意されていて、手ぶらで贅沢なキャンプができるサービスなんかがあります。

 もちろんお値段の方も豪華仕様になっているのでそう簡単には手が出せませんが、いつかは体験してみたいと思っています。


 フラれた少女が、辺りを見回してから聞きました。


「お一人なんですか?」

「そうだよ」


 見れば分かるだろうとばかりに両手を広げました。


 薪を集めている間に、他の2組のキャンパーは撤収したようで、貸切状態になっていました。迷子の2人がいなかったら、本当の意味でお一人になっていました。


「スマホだよね。はい」


 ポケットからスマホを取り出して、ロックを解除してからフラれた少女に手渡しました。


「あ、ありがとうございます」


 それを受け取り電話のアイコンをタップしてから動きが固まってしまいました。


「どうしたの?」

「電話番号、変わったの忘れてました……」


 ガックリとうなだれてしまいます。新しい電話番号を覚えていないのでしょう。


「お先にどうぞ」

「それじゃお言葉に甘えて……」


 フラれた少女から落ちてきた少女改め──自転車少女にスマホが移り、しかし同じように固まってしまいました。


「しまった、僕も家の番号覚えてない! 家族の携帯……覚えてないよぉ!」


 誰も家の人に連絡ができなくてまさかの手詰まり。


「とりあえず宿にはキャンセルの連絡しておこう……」


 少しだけネットを使わせてもらって、利用する予定だった宿の電話番号を調べてキャンセルしました。


「わざわざキャンセルしなくてもここまで来れれば行けたのでは?」


 フラれた少女は素朴な疑問を口にします。


 道に出られれば何とかなるかも、と言っていました。キャンプ場まで来れば道に出るのも簡単ですから、自転車にまたがって小旅行なり何なり再開するのは容易でしょう。


 ですが、自転車少女は残念そうに首を振りました。


「いや、実は今更になって膝が痛み出してきちゃって、大人しく迎えに来てもらって帰ろうかなって思ったんだけど──」


 ──電話番号が分からなかった、と。


 一度アドレス帳に登録してしまえば終わりですから、わざわざ記憶しておこうとする人は少ないでしょう。


(しょうがない)


 キャンプ少女は内心で嘆息して、ひとつ提案しました。


「2人とも明日のお昼まで時間ある?」

「え?」

「どういうことですか?」

「ウチの親が迎えに来てくれるから。送ってもらえないか頼んでみる」


 2人はスポットライトを浴びたかのようにパッと表情を明るくしました。


「僕はもともと1泊してから帰る予定だったから大丈夫!」

「私も、両親共働きで家にいないこと多いので問題ないです」

((それはそれで問題あるのでは))


 と2人は思いましたが、家庭の事情は人それぞれ。深く考えないことにしました。


「決まりだね」


 1人きりだったキャンプに2名ほど飛び入り参加が決定しました。


「ソロキャンプもいいけど、誰かと、ってのも実はやってみたかったんだ。家族は誰も来たがらないし」


 キャンプ少女はコンパクトチェアに座りながら、姿勢を正しました。


「そうと決まればひとまず自己紹介。ウチは木葉(このは)このみ。見ての通りキャンプとカメラが趣味。以上」

「あ、じゃあ次は僕! 僕は和氣(わき)わかな。趣味は自転車と食べること! 体力には自信あるよ!」

「えっと、私は宇賀神(うがじん)うるかと申します。趣味は……お料理とかでしょうか。あと音楽を少々」


 大いなる偶然と、少しの奇跡で一堂に会した3人は、個性豊かなメンツでした。


 芝の上に横倒しに置かれた自転車を見て、キャンプ少女──このみが言いました。


「自転車、興味あるんだ。よかったら教えてくれる?」

「本当?! いいよいいよ! 実は僕もカメラに興味あったんだ! いろいろ教えてよ!」

「いいけど、その前にやることたくさんあるから、手伝ってもらうよ」

「もちろん! 力仕事なら任せて!」

「私も、えと……お、お料理なら!」

「うん、それじゃあ和氣さんは薪割りと水汲み──は、ウチが行くか。宇賀神さんは火起こ……下ごしら……えっと……適当に何か1曲」


 自転車少女──わかなは膝が痛むらしいので座ったままでもできる薪割りを頼み、歩く必要がある水汲みは自分で行くことにしました。


 フラれた少女──うるかには、火起こしは素人には難しいですし、料理の下ごしらえも勝手が分からないとやり辛いでしょう。迷った挙句に、BGMでした。


「わかりました!」

((わかっちゃったんだ))


 半分冗談でお願いした1曲なのに、真剣な表情で握りこぶしを作って頷きました。

 そしてアカペラで紡がれる歌声は美しく、まるで天使の声でした。


「へぇ……上手いもんだね」

「お褒めにあずかり光栄です」


 照れ臭そうにはにかむうるかに、同性の2人ですらきゅんとしてしまいました。


「さて、心が浄化されたところでウチは水汲み行ってくる。はい斧。薪割りいい感じに頼んだ。大きい薪を下に敷くとやりやすいよ」

「いい感じ?! キャンプしたことないんだけど?!」

「そんじゃー」

「木葉さーん?!」


 背後に手を振りつつ水道があるところまでこのみは水汲みに行ってしまいました。


 手渡された無骨な斧を片手に、固まるわかな。

 ずしりと、その重みが腕にのしかかります。


「が、頑張りましょう? 私も精一杯応援しますから!」

「……ええい、こうなったらヤケだ! やったらー!」


 言われた通り薪を地面に並べて、その上に大きい薪を置いて斧を振り下ろしました。


 カツーン!

 見事に、下に敷いた薪に当たりました。


「いきなりは難しいよー!」


 わかなの悲鳴が少し賑やかになったキャンプ場に響きました。

 いきなり斧はマジで難しくて危ないので気を付けましょう。女の子ならなおさらです。斧よりも鉈の方が使いやすいから最初はそっちがオススメ。

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