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じきゃじょ 〜自転車×キャンプ×女の子〜  作者: 無限ユウキ
第6章「バイト代×プンプン×出直します」
23/36

23話

 突然誰かに話しかけられて、そちらを見るとそっぽを向くように腕を組んで唇を尖らせている女性店員さんがいました。


「別に、わたしが詳しく教えてあげなくもなくってよ? プンプン」


 そしてなんと驚く事に、その女性店員さんは自転車(サイクル)ショップ〈サイクルンルン〉に勤めている女性店員さんと瓜二つだったのです。


 しかし明らかに違う点があります。強烈な『ルンルン』という語尾が『プンプン』になっていますし、目がチカチカするようなパステルカラーの格好ではなく落ち着いた色合いの服装ですし、いつもニコニコ満点笑顔が語尾のような怒り顔になっています。


 本気で怒っているわけではなくて、照れ隠しに怒っているような、そんな印象を受けますが、店員としてはマイナスな印象になってしまうでしょう。


 しかし不思議な事に、3人は悪い印象を抱きませんでした。

 それよりも驚きの方が大きかったからです。


 わーお、とわかながいつもの驚いたのか驚いていないのかよく分からない、驚いた声を上げてから聞きました。


「て、店員さん……ですか?」

「そうだけど? ジロジロ見ちゃってわたしの顔に何か付いてるかしら。プンプン」


 服装を見ればここの店員である事は一目瞭然なのですが、聞かずにはいられませんでした。


 3人とも気持ちは同じです。

 もしかして〝あの人と同一人物なのではないか〟と。このみなんかは密かに双子説を唱えていましたから、なおさら気になるところです。


 わかなは頷きながら言いました。


「はい、見覚えのある顔が付いてます」

「ナンパなら間に合ってるわ。プンプン」

「いや『僕達、どこかで会った?』みたいなこと言ってるんじゃなくてですね──!」

「〈サイクルンルン〉という自転車屋さんでお見かけした店員さんにそっくりなんです」


 わかなが相手をすると話が進まなそうと即座に判断したうるかが割って入りました。

 ナイス判断です。


「自転車屋さん? もしかしてお姉ちゃんに会った事あるのかしら」

「あ、やっぱり姉妹だったのですか? とてもそっくりです!」

「確かに双子だけど、わたしはそうは思わないわ。プンプン」


 不機嫌そうに店員さん(妹)は言いました。似ていると思われる事を良く思っていないのかも知れません。


(マジでか……!)


 このみは心の中で激しく手を打って驚きました。本当に双子だとは思っていなかったのです。それでも店員さんの謎の瞬間移動じみた動きは依然謎のままですが。


 そして同時に、悪い印象を抱かなかった理由が何となく分かったような気がしました。

 あの人の妹であるならば、悪い人ではないと、そう思えたのです。


「お姉ちゃんとわたしのどこが似てるのよって感じ。プンプン」

(((ありとあらゆるところがそっくりです)))


 3人は心の息を合わせました。それほどまでに姿形や声がそっくりなのです。言葉遣いと雰囲気が少し違うくらいで。


「お客さん、もしかしてお姉ちゃんとこのお得意様かしら?」

「いえ、最近知り合ったのでお得意様というほどでは」


 うるかが両手をフリフリして否定します。


「でも、『最近若い子がよく店に来てくれて嬉しいルン』って話してたわ。多分お客さんの事ね」


 姉の声真似をする店員さん(妹)ですが、そのまんまでした。まるで本人としか思えません。

 家族の知り合いという事が分かったからか、少しずつですが言葉が砕けてきました。


 やはり双子の姉妹、あっという間に距離を詰めてきます。


「わたしはお姉ちゃんほど優しくはないわよ。覚悟しておくといいわ。プンプン」


 何をどう覚悟しろと言うのでしょうか。この独特のペースがそっくりと言われる要因なのではと3人は思いました。


「それで、今日はどんなご用件かしら? プンプン」


 お仕事モードに切り替わった店員さん(妹)が腕を組んでそっぽを向きながら言いました。いちいちそっぽを向くのは癖なのでしょう。


「初バイトで初給料を貰ったのでキャンプ用品を見に来たんです!」


 嬉しそうにわかなが言います。初めてのお給料の影響でテンションが上がっているようです。


「私とわかなさんが初心者で、このみさんは経験者なのでいろいろ教えてもらおうかと思いまして」

「なるほどね。どおりで貴女(あなた)は商品を見る目が違うと思ったわ」


 このみが経験者である事は察しが付いていたようです。まるで名探偵のように店員さん(妹)の目がピカーン☆ と光りました。近くのランタンの光が目に映っただけでした。


「お店がこの広さだし、大抵のお客さんはキョロキョロする。でもそうじゃなく、貴女は鋭く切るような視線だったわ!」

「ウチそんな目してた?」

「ごめんなさい、色々と圧倒されて見てませんでした」

「僕も同じく」


 2人は見ていなかったようですが、いつも気怠げな目付きのこのみも、そんな目になっていました。


 わかなとうるかは知りませんが、実はこのみには昔から欲しいと思っているテントがあるのです。

 無意識のうちにそれを探していた結果、目付きが変わっていたようです。


「店員さん、この2人にオススメの商品とかあったら教えてあげて下さい」


 本当はこのみが色々と教えてあげる予定でしたが、これだけお店が大きいとどこに何があるのか分かりません。初めて訪れた場所ですし、ここは商品を把握している店員さん(妹)に任せた方が良いでしょう。


「わ、わたしは忙しいんだけど? そこまで言うなら教えてあげなくもないわ。プンプン」


 何だか嬉しそうなトーンで言う店員さん(妹)。態度と言葉がチグハグですが、その道のプロが教えてくれると言うのなら、教えてもらおうではありませんか。


「2人はどんなキャンプがやりたいのかしら? プンプン」


 どうでも良いですが、「プンプン」と言いながらも決して怒っているわけではない事を一応ここに記しておきます。念のため。


「私はお洒落なキャンプと美味しい料理がやってみたいです!」

「うーん、僕はお手軽というか、身軽な感じにしたいかなぁ」


 うるかは料理が趣味ですし、飛び入りキャンプをした時も料理を担当して最善を尽くしていましたが、心残りがありました。

 わかなも自転車にあまり荷物を積み込めないという都合上、極力荷物は減らしたいという風に考えています。


「2人ともちゃんと考えてたんだ」


 表情はあまり動かさず、平坦でありながら驚いたようにこのみが言いました。


 キャンプの先輩であるこのみに言われて、2人はまんざらでもない様子で胸を張ります。


「ふふん、まーね!」

「このみさんに任せっきりにするわけにはいきませんから」


 何事にも言えますが、やりたい事を事前に決めておくと物事はスムーズに進みます。2人とも事前にキャンプについての下調べは軽く済ませていたのです。


 要望を聞いた店員さん(妹)は「なるほどなるほど……」と小さく頷きました。


「だそうです。いけます?」


 このみが店員(妹)にパスすると、当たり前でしょと言わんばかりに腰に手を当てました。


「このわたしを誰だと思ってるのよ? いけるに決まってるでしょ。プンプン」


 そう言いながら店員さん(妹)は自分の背中側に手を回すと、テントの入った箱が2つ現れました。


 慌てて商品棚を確認すると、2つほど、抜けたと思しき隙間が生まれている箇所がありました。

 決して小さくはない箱を2つも背中に隠せるとは思えません。


 まるで手品です。いいえ、もはや大魔術の域に達しようとしています。


「どうなってんの……」


 この姉妹には驚かされてばかりの3人でした。


「お洒落な貴女にはこれ。身軽な貴女にはこれなんかどうかしら。プンプン」


 そう言って割れ物を扱うように丁寧に2人に手渡したのは全くタイプの違うテント。


「試しに設営させてあげてもいいけど? プンプン」


 キャンプ用品店〈キャンプンプン〉には商品を試す事が出来るスペースが設けられています。広大なスペースを持つお店ならではの気前の良すぎるサービスでした。


「いいんですか」


 このみが聞くと、店員さん(妹)は首が折れるんじゃないかと心配になるような勢いでそっぽを向きました。


「か、勘違いしないでよね! わたしはただキャンプ用品を買って欲しいだけなんだからねっ!」


 なんとも商魂たくましいツンデレさんがいたものです。

 やはり血は争えないものなんだな、と3人は思いました。

 新たに登場した店員さん(妹)は「プンプン」という語尾からツンデレにしよう! と最初から考えていたのですが、ツンデレというキャラは好きなのに書いた事がないという事実に気付き、こんなんでよかったっけ? ってなりながら書いてます。


 個人的な印象ですが、下の兄弟姉妹は上と比べて常識人、と思っておりまして、だから語尾は少し弱めと言いますか、少なめになってます。

 語尾が強烈であるという自覚はあるという証拠ですね。

 女性店員さん姉妹の名前、決めた方が良いかなぁ……。


 あとテントのお試し設営ですが、流石に実際にお目にかかった事はありません。ただ、店員さんによる設営の実演、みたいなものなら見かけた事があるので、それを勝手にバージョンアップさせました。

 試しに寝袋に入れさせてもらえるとか、あるんですかねー?

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