21話
ここは、じきゃじょ高校2年3組の教室。机をくっつけてお弁当を突き合う3人の少女がおりました。
「金が無い!」
「藪から棒」
女子にしては長身でボーイッシュなショートカットの少女──和氣わかなのいきなりで不躾な発言をお許し下さい。
どうやら、いきなりそんな発言をしてしまうくらい、現在の彼女のお財布事情は寂しいようです。
読書をしながら適当に突っ込んでおいたのは、短めの髪をポニーテールに纏めた小柄な少女──木葉このみ。読みながら食べながら突っ込むという器用な事をやってのけます。
お金が無いという気持ちは分からないでもないですが、わかながそんな発言をするなんてちょっと意外だと、このみは不思議がりました。
「わかなさんはアルバイトはしていないんですか?」
至極ごもっともな質問をしたのは、平均的な身長でサラサラなロングヘアーの美少女──宇賀神うるか。
いつもの仲良し3人組です。
お金が無いのであれば、アルバイトをして稼ぐなり、家事を手伝って親からねだるなりして、必要な費用を工面するのが学生です。
大変ではありますが、手っ取り早くかつ収入が見込めるのはやはりアルバイトでしょうか。
高校生という立場上、出来るアルバイトは限定されてきますが、お小遣いだけではやっていけない人はこぞってアルバイトをしています。
「うるかぁ……スパッと儲かる方法知らない?」
恵みをねだるようにうるかの腰にしがみつくわかな。一体何事かとクラス中からの視線が集まります。
わかなの痛々しいそんな姿を目の当たりにして、真剣に心当たりを探すうるかでしたが、表情は晴れませんでした。
「ごめんなさい……存じ上げないです……」
「いや、そんな真面目に答えなくていいから」
このみは読んでいた本をパタリと閉じて、腰にしがみつくわかなの頭にコツンと背表紙を当てると「わーお」と驚いた表情に変わりました。
「わかなもその辺にしとき」
「はーい」
軽く返事をして、わかなは飄々とした様子で立ち上がって席に戻りました。
どうやらわざとふざけていたようです。
「で、急にどうした」
改めてこのみが聞きました。
「いやーお金が無いってのは事実なんだよねー」
わかなは後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべました。
彼女の趣味は自転車に乗る事です。〝テルフ〟と名付けられた相棒に跨がって色々なところに行っています。
そんな趣味の都合上、何かと入り用になるのでしょう。
「実はさ、このみが投稿してるキャンプ動画あるじゃん? あれ見てたら僕もキャンプやってみたくなってさー」
「マジか」
「マジマジ」
思いもよらぬ告白にこのみの目が点になりました。
自転車馬鹿な部分があるので、他の事にうつつを抜かすような事はないと思っていたのです。
それにキャンプに興味を持ってくれるような人がいても、実際に行動に移すところまで行く人はなかなかいません。
そんな中で、わかなは行動に移そうとしたものの、『お金』という絶対に回避出来ない壁にぶち当たってしまい、それ故の発言なのでした。
「そういえば、私も自転車は買いましたけど、キャンプ道具はまだ買ってないんですよね」
「うるかの家はキャンプとか行かないの?」
わかなが聞きました。
キャンプに行く家庭であれば、家に使えそうなキャンプ道具があるかも知れません。それを使い回せば多少は節約出来そうですが、うるかは首を横に振りました。
「私の家は両親が共働きなので……」
「あ、そういえばそうだっけ……」
うるかの両親はお仕事で家を空けている時間が多いです。当然、キャンプに行っている余裕は無いでしょう。
「それに私もお金がありません……どうしましょう?」
((お金無いのか……!))
20万円の折り畳み自転車を買ってくれるくらいですから、キャンプ道具だって頼めば買ってくれそうだし、お小遣いも結構貰っているんじゃないかという気がする2人でしたが、家庭の事情は人それぞれです。
自転車ショップ〈サイクルンルン〉でうるかの父親に会った事があるこのみですが、身なりも良く、優しそうな印象を持ちました。
品行方正、才色兼備な娘の頼みとあらば二つ返事で了承してくれそうなものですが──うるかは心優しき少女でもあります。親の負担になるような事はなるべく控えたいのでしょう。
お金に困っていると言う2人に、このみが会心の一撃を放ちます。
「ウチのバイトで良ければ紹介するけど」
「「ぜひ!」」
即答が返ってきたのでした。
***
「わかな、3番テーブル片付け。うるか、ミートスパ2」
「オッケー!」
「分かりました」
テキパキとこのみは2人に指示を出しました。
お揃いの制服に着替えて、3人は近所のファミレスでアルバイトをしていました。
このみの紹介という事もあり、一応面接はしましたがほぼ形だけで呆気なく採用。
そして2人とも要領がよく、あっという間に仕事を覚えてしまって、店長も大喜びです。
このみも仕事の負担が減って大助かりでした。
「いらっしゃいませ。何名様ですか」
このみはこのみで新たにやって来たお客さんの接客へ向かいます。
飲食業の接客としては明るさに乏しいこのみの態度ですが、他の仕事も平均以上にこなせるので貴重な戦力として重宝されていて、そこは目をつぶってくれています。
「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンでお呼び下さい」
お客さんを席へ案内して、マニュアルに書いてある文字を一字一句なぞるように言うと、軽く頭を下げてからこのみは下がりました。
「ふぅ」
少し呼吸を整えてから、視野を広くするように店内全体へ意識を向けました。
ホールの仕事を任されているわかなは、片付けた食器が乗っているトレーを片手に持ちながらピンポーンという音に「ただいまお伺いしまーす!」と元気よく声を上げていました。
持ち前の体力と俊敏性、そして何よりも爽やかな笑顔が早速猛威(?)を振るい、お客さんの心を掴んでいました。
手足も長いので、いつもテーブルを拭くのに苦労しているこのみは少し羨ましく思いました。
(良き良き。うるかの方は大丈夫かな)
そう思い、うるかが担当している厨房を覗き込みます。
物覚えの良いうるかは、マニュアルをあっという間に暗記してしまったので淀みなく、先程のオーダーのミートスパゲティを作っていました。
厨房での仕事は出来合いのものを温めたり盛り付けたりするくらいで、覚えてしまえば簡単な内容ばかりですので、うるかであれば何も問題はないでしょう。
それにうるかは料理が趣味でもあります。すでに培われているスキルが遺憾なく発揮されていました。
「このみさん、お待たせしました」
「ん」
出来上がった料理をトレーに乗せ、このみはお客さんの待つテーブルへと危なげなく絶妙なバランス感覚で運んで行きます。このみの謎のバランス感覚はこういった場で身に付いたものなのかも知れません。
「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」
2人には負けていられないと、このみも出来る限りの笑顔を浮かべたのでした。
今回は3人のお財布事情についてのお話。
自転車もキャンプも、どちらもお金がかかる趣味です。高校生である3人がどうやって道具やら何やらを買う資金を調達しているのか、という疑問をこれで少しは解消出来るかな、と。
高校生のアルバイトと言えば何だろうという事で、コンビニかファミレスの二択になり、それぞれの個性を活かせるのはファミレスかなって事でファミレスを採用しました。それプラスお小遣いってところですかね。
実はこのみは新聞配達のバイトもやっていて、だから自転車に重い荷物を積んでも大丈夫……みたいなのも考えたんですが、高校生が新聞配達……うーん? ってなったんでこの設定は保留。裏設定的な扱いにしておきますかね……。
キャンプに行く時間を確保するのも難しくなりそうだし、時間のやりくりって難しいですね。




