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じきゃじょ 〜自転車×キャンプ×女の子〜  作者: 無限ユウキ
第5章「焦り×克服×バランス感覚」
18/36

18話

 辛い場面もありましたが、楽しい楽しいサイクルイベントも終わりまして、その2日後の平日。


「イタタタ……」


 じきゃじょ高校2年3組の教室を目指して、1人の女子生徒がギクシャクとぎこちない動きをしながら廊下を歩いていました。

 まるで油が切れて今にも壊れそうなロボットのようです。


 すれ違う生徒達も何事かと彼女に視線を送りますが、声を掛けようとはしません。

 誰もが一度は経験した事がある〝筋肉痛〟に悩まされていると察した人が(ほとん)どだからです。


 彼女の名前は宇賀神(うがじん)うるか。平均的な身長にサラサラなロングヘアーの、おっとりとした印象を受ける女の子。

 春休み明けに転校してきて、その見目麗しさと物腰の柔らかさから校内で注目の的になっている存在です。


 それ故に、声を掛けられない人もいました。


 ──そう、いつの間にやらファンクラブが結成され、謎の圧力がかかり声を掛けにくくなってしまったのです。


 何処(どこ)の馬の骨とも知れない輩が接近しようものなら、どこからともなくファンが現れ、物陰からの鋭い眼光で追い払われてしまうのです。

 そしてファン同士も牽制し合っているので、うるかに声を掛ける事が出来る存在は少ないです。


「や、やっと教室です……」


 うるかは扉を開けて教室の中へ入りました。


 いつもはもう少し余裕を持って登校出来ているのですが、歩く速度が著しく低下しているので遅くなってしまいました。

 それを見越して早めに家を出ていなかったら遅刻していたかも知れません。


「おはようるか」

「おはようございます」


 軽く手を上げて挨拶をしたのは木葉(このは)このみ。小柄な体型で髪を短いポニーテールに纏めた、いつも気怠げな印象の女の子。

 この時間はよく本を読んでいて視線が下がっているのに、どうしてか教室にやってきた事をいつも察知するのです。実は視界がほぼ360度になる〝白眼(びゃくがん)〟の使い手なのかも知れません。


 今も視線は文章を追いかけ続けています。


「このみさん、その挨拶どうにかなりませんか?」


 ムスッと頬を膨らませて不機嫌そうにうるかは怒りました。全然怖くありません。むしろ余計に可愛らしいくらいです。


「ウチはいいと思うんだけど。挨拶できて、名前も覚えられて一石二鳥」


『おはよう』と『うるか』を繋げた呼び方に本人はご不満の様子。


 そこへ、元気よく新たな影が現れました。


「おはようるか! このみも!」


 彼女の名前は和氣(わき)わかな。女子の中では長身でボーイッシュなショートカットの、天真爛漫な印象の女の子。

 運動神経抜群で、女子からの人気がとてもありますが、勉強の方はちょっぴり残念です。


「おはよ」


 今日も今日とて絶好調なわかなの挨拶に、このみはいつもの読書しながらのローテンションで応えます。


「もう、わかなさんまで……おはようございます」

「ありゃ? うるか、ご機嫌斜め?」


 プリプリ怒っているうるかを見て、わかなは首を傾げました。


 物腰柔らかでおっとりとした性格のうるか。普段怒ったりする事はまずないので珍しい光景に感じたのでしょう。


「『おはようるか』って繋げた挨拶嫌なんだって」


 このみが代弁してあげました。


「えー、僕はいいと思うけどなぁ。挨拶できて名前も覚えられるし」


 このみと同じ事を言ってます。

 既に仲良し3人組の間柄なのに今更名前を覚える工夫をしても、とっくに覚えているのであまり意味がないようにも思えます。


 このみは本から視線を外さずに言いました。


「ウチが勝手に分析するに、挨拶が嫌なんじゃなくて、筋肉痛にイライラしてるだけと見た」

「「なるほど」」

「何故にうるかまで」


 わかなと一緒にうるかも納得したように手を打ちました。このみの分析は間違っていなかったという事でしょう。


「とりあえず私も、今度から機会があったら『こんにちわかな』って挨拶しますね」

「もしかして根に持ってる?!」


 うるかは意外と根に持つタイプのようです。


「じ、じゃあ僕も機会があったら、えーと……『わんばんこのみ』って挨拶する! これでみんなおあいこ!」

「それ死語」

「わーお」


 実際に「わんばんこ」なんて挨拶をする人はもはや絶滅してしまいましたと言っても過言ではないでしょう。

 お得意の驚いたのか驚いていないのかよく分からない、驚いた声を上げたわかなだったのでした。


 うるかが「それはともかく」と話題を無理やり切り替えます。


「いつも自転車に乗っているわかなさんはともかく、このみさんは大丈夫そうですね、筋肉痛」

「まあ」


 このみは小柄で静かで読書好きで、そうと知らない人から見たら体力が無さそうに見えますが、彼女の趣味はキャンプ。

 重い荷物を持って歩いたり、足場の悪い山の中に入って薪を拾い集めたり、斧を何度も何度も振り下ろしたりで、体力と根性は人並み以上に秘めていて実はポテンシャルが高かったりするのです。


「私も何か体を動かす事をした方がいいんでしょうか?」


 うるかの趣味は料理と音楽。あまり体力と関わりがあるジャンルではありません。それ故に、筋肉痛に悩まされているのです。


「別に、焦らなくてもいいんじゃない」

「そうだよ! 変に焦っても逆効果だし、これからこれから!」


 2人は励ましの言葉を掛けてあげました。これから体力を付けるために運動をするとしても、筋肉痛のままではどうしようもありません。

 まずは焦らず、筋肉痛を治してからでしょう。


「そうですね……そうします」


 2人の言葉に頷いたうるかだったのでした。




   ***




 と言うわけで、気合いと根性と若さの力で筋肉痛をあっという間に治したうるかは、週末に自転車で遠出をしてみる事に決めました。


 素直に家で筋トレや、近所でランニングなどをしてみても良かったのですが、筋肉痛の原因は自転車なので、自転車にたくさん乗れば必要な筋肉が鍛えられて体力も付いて、一石二鳥なのではと考えたのです。


「それじゃ、行ってくるね」


 玄関までお見送りをしてくれるミニチュアダックスの愛犬、ホット君の頭をなでなでして、自宅を後にします。

 休日にも関わらず両親は仕事で留守、自転車で少し遠出をしてくると予定は事前に伝えてあるので、家政婦さんとホット君が留守を守ってくれます。


 父親が買ってくれた折り畳み自転車を展開する練習の意味も込めて、なるべく畳んだ状態で玄関の脇にしまってあります。

 それを取り出しまして、いざ展開です。


「まずはここのロックを外して座るところを伸ばして──」


 確認のために口に出しながら作業を始めます。


 シートポストのQR(クイックリリース)を開けてサドルを引き延ばしました。

 次に、サイドに引っかかるように付いている前輪を取り外したら一旦脇に置いておき、フレームに付いているハンドルを取り外して元の位置に差し込んだらQRをしっかりと締めます。


 これが緩いと走行中にハンドルが変な方向に曲がってしまうので気を付けましょう。


「よいしょっ」


 フレームのトップチューブを掴んで持ち上げると、フロントフォークに挟まっていた後輪がグルリと半回転して自転車としてあるべき位置へ。

 これで一気に自転車っぽくなりました。

 あとは脇に置いておいた前輪を取り付ければ──


「完成です!」


 しっかりと各種、QRの締まり具合を確かめて問題ない事を確認して、うるかは折り畳み自転車に跨りました。


「いざ! 出陣です!」


 目的地は、サイクルイベントの時に行った山の頂上にある売店。

 そこの絶品ソフトクリームをもう一度食べる事。

 うるかは力強くペダルを踏みしめました。

 未だに思い付かない高校名……もういっその事このままいってしまおうかなと考え始める始末です……。


 自分は自転車で筋肉痛になった事がないので「筋肉痛になるよな……?」と首を傾げながら自信なさげに書いてます。なる……よね?


 うるかの折り畳み自転車の展開手順は本当はもうちょっと細かいのですがざっくり省略。最低限の事は書いてあると思います。

 細かく書きすぎても逆に分かりにくかったし文字数の関係もあったのでこれくらいが丁度良いかなーと。

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