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じきゃじょ 〜自転車×キャンプ×女の子〜  作者: 無限ユウキ
第4章「家×帰る×サイクリング」
14/36

14話

 開始の宣言が終わった店員さんは、一目散に3人のところへ駆け寄って行きました。


「初参加の3人はとりあえず後ろから付いてくるだけで大丈夫ルン! 変に気負わず気軽に参加してほしいルン!」

「分かりました!」

「はい」


 楽しみにしていたわかなが全力で敬礼して、うるかはしっかりと返事をして、このみは無言で頷きました。


「それじゃあ今日はよろしくルン!」


 可愛らしくウインクをして、店員さんは颯爽と参加者の群れに突撃していきました。本日は店員としてというよりも、1人の主催者として、参加者を楽しませようという気持ちが伝わってきました。


「変に怖がってるよりも、やっぱ楽しまないと損だよね!」

「そうですね。みなさん良い人そうですし、怖がっている方が失礼かも知れません」

「やるだけやるか」


 それぞれ、どこか吹っ切れた様子です。


 店員さんを筆頭に、続々と出発の準備が始まります。

 参加者達が自分の自転車に跨り、あちこちからパキンッ! とペダルと靴が合体するビンディングの音が鳴り響きます。


「よぉし、僕も!」


 ──パキンッ!

 わかなもその音に混ざりました。


「前々から思っていたんですけど、その音は何なんですか?」


 首を傾げたのはうるかです。自転車初心者には馴染みのないもので、このみも不思議に思っていました。


「これは専用のペダルとシューズがくっ付く時の音で、『ビンディング』って言うんだよ」


 普通のペダルとシューズでは〝踏み込む〟事しか出来ませんが、くっ付いていれば〝引き上げる〟事が出来ます。

 この踏み足と引き足を左右で交互にする事で、効率よく推進力を得る事が出来るのです。


 ただし、バランスを崩してしまった時、くっ付いているためとっさに足をつける事が難しいのでその点は注意が必要です。

 これで自転車と一緒に倒れてしまうことを俗に〝立ちゴケ〟と言います。しっかりと受け身を取る事が出来ず、硬い地面に肩、肘、膝などを打ち付けてしまうので気を付けましょう。


「私達は普通のペダルなので大丈夫ですね」

「そうだね」


 頷き合うと、遠くから「行くルーン!」とよく通る声が聞こえてきました。

 とうとう出発のようです。

 綺麗に一列になって、ぞくぞくと移動が始まりました。


「僕が前を走るから、2人は僕の後ろね」

「はい」

「ん」


 やはりここは経験者が初心者を引っ張って行くべきと名乗りを上げ、2人も異存はないと頷きます。


「いざ、しゅっぱーつ!」


 わかなが元気よく手を振り上げながら、参加者達の後ろを追いかけるように走り始めました。


「えい!」

「っしょ」


 うるかとこのみも手に入れたばかりの自転車に乗り、ペダルを力一杯踏み締めました。


 ママチャリとは比べ物にならない軽い漕ぎ出しと加速でグイグイ速度が上がっていきます。

 まだまだ乗り慣れない新鮮な感覚を全身で楽しみながら、風を感じます。


 このみの黄色いグラベルロードも、うるかのスポーティーな折り畳み自転車も、〈サイクルンルン〉で整備されて調子は良さそう。


 広い車道の左端を走り、路面も綺麗に整備されているのでとても走りやすいです。


「わかなさん、車道を走っても大丈夫なんですか?」


 何だか悪い事をしているような気になって、うるかはドキドキしながら聞きました。

 声を少し大きくして、背中越しに教えてくれます。


「大丈夫だよ。自転車は名前の通り『車』だから、車の交通ルールに従うのが基本なんだ。信号も車のやつを見るんだよ」

「そうだったのですか……てっきり歩道を走るのが正しいものかと思っていました」


 道行く自転車の大半は歩道を走っている事が多いのでそう勘違いしてしまうのも無理はありません。


「ウチもそんな感じ」


 おばさまや学生の乗るママチャリは歩道を走って、ロードバイクなど〝なんか早そう〟なのは車道を走るというよく分からないルールがあると、このみとうるかは思っていました。


 自転車は車道の左側を走るのが正解なのです。ママチャリであろうがロードバイクであろうが、等しく〝自転車〟であるためそれは変わりません。


 わかなも自転車にハマるまではそう思っていたのでとても共感できました。


「止まるよー」


 前を走るわかなが、腰の辺りに手の甲を当て、手の平が後ろを走るうるかに見えるように構えました。

 徐々に減速していき、止まりました。


「っとと」


 一番後ろを走っていたこのみはうるかにぶつかりそうになりましたが、ギリギリで止まれました。制動力に優れたディスクブレーキ様様です。


「もしかして、それは『ハンドサイン』ですか?」


 うるかが聞くと、「イエス!」と言って親指を立てました。


「さっきのは〝止まるよ〟って合図で──」


 わかなは左腕を横に伸ばしました。


「これは〝左折〟で──」


 次に右腕を横に伸ばしました。


「これは〝右折〟で──」


 次に右手を腰の後ろに回して手の平を左側に向け、チョイチョイと動かしました。


「これは〝左側に寄って〟ってな具合で、他にも色々あるけど基本的に分かりやすいようになってるよ。今日みたいに集団で走る時は必要になってくるから、徐々に覚えていこうね!」

「ふむふむ……なるほど、分かりました!」


 顎に手を添えてうるかは頷きました。


 ハンドサインを使って後続に次の行動を伝える事で、先程のこのみのようにぶつかりそうになるのを防ぐ事が主な目的です。

 ロードバイクなど、カマキリのように曲がりくねったドロップハンドルの自転車は前傾姿勢になりがちで、それは視線が下に下がって遠くが見えにくいという事でもあります。おまけに前を走っている人がいると、もうそれだけで視界がいっぱいになってしまうので、後ろの人に前がどうなっているのか伝えるのは重要な事なのでした。


「あと、止まる時はなるべく左足を地面に付けてね」

「左足? それはどうしてですか?」

「右側は車が通るから危ないんだよ」


 重心を左側に傾ければ万が一足を滑らせても歩道側に転倒するだけですが、逆の右側に転倒してしまった場合、最悪車に撥ねられてしまいます。

 そんな最悪の事態を回避するための左足なのです。


「色々考えられているんですね……」

「安全に楽しく自転車に乗るためのマナーだよ! どれも簡単な事だから、守らない手はないよね!」


 守るだけで楽しいサイクリングが約束されるのですから、わかなの主張は最もでした。


 信号が青になったのか、前方が動き始めます。

 置いていかれないようにしっかりと付いて行きながら、わかなは声のボリュームを少し上げて、最後尾を走るこのみに声をかけます。


「ところでこのみ! これちゃんと録画出来てるよね?!」

「いや見えないし。チカチカ光ってるー?」

「光ってるー!」

「なら大丈夫ー」

「オッケー!」


 声のボリュームが全然違うのに会話が成立していました。このみの声がよく通るのか、それともわかなの耳が良いのかは分かりません。


 何の話をしているのかというと、実はこのみが持っているアクションカメラを事前にわかなへレンタルしていたのでした。

 家の出発から録画をスタートさせていたのですが、カメラを使うのは初めてなのでおっかなびっくり。


「バッテリー残量には気を付けて」

「ちゃんと充電してきたからバッチリ!」

「ならよし」


 しっかりと言い付けを守ってくれているようでこのみは安心しました。


「あ、予備バッテリー持ってくるの忘れた」

「極刑」

「ひどくない?!」


 容赦のないこのみでした。




 楽しいサイクルイベントは、まだまだ続きます──。

 車載動画を撮る時は、予備バッテリーは忘れないようにしましょう。『予備』とか言いながら割と『必須』になってきます。邪魔にならないよう小さめに作られているので1つのバッテリーで2、3時間くらい保てば良い方で、安いものだと1時間でアッツアツのすっからかんになります。

 短い道のりならまだしも、今回のお話は1時間でまだまだ道半ばです。途中で力尽きてしまっては困りますからね!

 このみが呆れてしまうのも、無理からぬ事なのでした。

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