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じきゃじょ 〜自転車×キャンプ×女の子〜  作者: 無限ユウキ
第3章「このみ×わかな×うるか」
12/36

12話

(ここはカットして、フェードアウト、次のシーン……っと)


 ゴツいヘッドホンを装着して、パソコンの前に座って、このみはとある作業をしていました。

 マウスをカチカチ、キーボードのショートカットを駆使してカチャカチャ。

 なんだか難しそうな画面が次から次へと切り替わっていきます。


 そして編集した部分を再生して、出来栄えを確認します。


(……良き良き)


 のんびりとしたBGMに合わせて流れる映像。環境音もしっかりとしたマイクで拾っているので、静かでありながら実に豊かな気持ちにさせてくれます。

 目を閉じて、耳を澄ませば、まるでそこにいるかのような感覚に包まれます。


 ──そう、このみは自分で撮影したキャンプ動画の編集をしていたのでした。


 実は、それをちゃっかり有名動画投稿サイトに投稿しています。

 チャンネル登録者数は52人。有名な投稿者の何千人何万人と比べたら少ないですが、そもそも日記的な感覚でキャンプの様子を撮影し始めたので、あまり気にしていませんでした。


 ちなみに、わかなとうるかに出会った時のキャンプ動画を編集しています。


(うん、大丈夫そう。次)


 中間のチェックが終わり、問題なさそうだったので作業を再開します。

 動画の編集は独学で、他人の動画を見て参考にしながら作り方を覚えました。


(うわ、ここはひどい。使えないな)


 映像には、薪を拾い集めている時の様子が映っていました。

 そして半分見切れたこのみの背中も映っています。

 未だにセットしたカメラの画角内で行動する事が苦手なのでした。


 が、今回はそれが功を奏しました。


(あ、2人がいい感じに映り込んでる)


 このみが見切れている画面の反対側から、わかなとうるかが入ってきたのです。

 そうとは知らずに薪を集める画面の中のこのみ。茂みの向こう側から熊除けの鈴の音色を頼りに歩みを進めるわかなとうるか。


 足音に気付いたこのみが、動きを止めました。


(ウチ、ビビりすぎ)


 内心で苦笑しました。

 あの時は危険な動物とかだったらどうしようと本気で焦っていましたが、こうして客観的に見ると、なんだか笑えてきます。


(やっぱり、せっかくだから使おうかな)


 上手いこと顔は映っていませんし、問題ないと判断したこのみはそのシーンをあえて採用する事に決めました。


 綺麗な映像を撮るとか、そういった事を目的とした動画ではなく、これはあくまで日記的な動画。印象深いシーンを採用してこそ意味のあるものになっていきます。

 いつかまた見返した時、当時の事を思い出して笑えればいい。


 ──そう思い、気軽に編集作業を続けてついに完成しました。


 編集に要した時間は着手し始めてから約1週間。これでも随分と早くなった方でした。やり始めた時は編集が終わる前に次のキャンプの予定が来てしまい、素材が溜まっていく一方でしたから。


 15分程にまとめた動画を改めて見返して再チェックをして、さらに今回は投稿する前に2人に動画を見せて許可を取ってから投稿しました。




 今までで1番の再生回数を記録しました。




   ***




 わかなは〝3本ローラー〟と呼ばれるトレーニング器具に自転車を乗せてペダルを回し、汗を流していると、


(ん、通知だ)


 ハンドルに取り付けられたスマホに、登録している動画サイトから通知が飛んできました。

 名前は違いますが、このみのチャンネルからでした。つい最近、動画投稿している事を教えられて驚かされたものです。

 どうやら1番に見せてもらった動画が投稿されたようでした。


 ペダルを回し続けながらスマホをタップ。通知から動画へ直接飛びます。

 そして流れ始めるこのみのキャンプ動画。

 ゆったりとした内容で、時間の流れが変わったかのように錯覚してしまいそうです。


(何度見てもよく撮れてるなぁ)


 3本ローラーは意外と音がうるさいので、イヤホンを付けていても音はよく聞こえませんでしたが、美しい映像にうっとりしました。


「っととと……」


 崩れかけたバランスを取り直し、安定させました。普通に道を走るのとは違い、3本ローラーは難しくて少しコツがいるのですが、流石の運動神経でした。

 わかなはカメラに興味があるので、時間を忘れて映像に見入ってしまいます。


 ──どうしてカメラに興味があるのか。


 それは、わかなが自転車の車載動画を見て自転車に乗るようになったからです。

 相棒の自転車と一緒に自分の足で遠くまで行き、その場所や自転車の良さを、映像を通して視聴者に届ける。


 わかなもこれをやってみたかったのです。


 あの時の自分のように、自転車に興味を持ってくれたら嬉しいと思っていました。

 そして先日、思っていた形とはだいぶ違いましたが、念願の自転車仲間が増えました。一緒に走れる日が待ち遠しいです。

 恐らく、自転車(サイクル)ショップ〈サイクルンルン〉が主催するイベントが、初めて一緒に走る日になりそうです。


 可能ならば、その日までには車載動画を撮影する事が出来る準備を整えておきたいところ。

 そうすれば、記念すべき初ライドを記録する事が出来ます。

 撮影した動画の編集などは自信がないので、このみに一任してみようかと考えていました。


 丸投げとも言いますが。


 もちろんゆくゆくは自分で編集して投稿するために、このみから色々教えてもらうつもりです。もちろんですとも。


 差し当たって必要なのはブレに強いアクションカメラ。


(このみに相談してみるか)


 このみが自転車の事で相談してきてくれたように、今度はこっちが相談に乗ってもらおう。


 そう決めて、わかなはペダルをより一層強く踏みしめたのでした。

 来たるべきイベントに、思いを馳せながら。




   ***




 180度に熱された油に投入される一口大の鶏肉。パチパチと音を立てながら火が通り、衣が形成されていきます。

 油からプカリと浮き上がってくれば完成。

 うるかの得意料理のひとつ、唐揚げです。


 少し多めに作って、夕食と明日のお弁当、それから帰りが遅い両親のお夜食用としていくつか残しておきます。

 それからポテトサラダも手際よく作って、タッパーに必要な分を取り分けて冷蔵庫に入れてからお皿に盛り付けます。


 テーブルに作った料理を並べて、準備完了。


(うん、上手に出来ました)


 自分で自分を褒めてあげて、満足げに頷きました。


 その時、ピコンとスマホに通知が届きました。

 前に見せてもらったこのみのキャンプ動画が投稿されたようです。


 すでに一度見ていますが、もう一度見ながら「頂きます」と小さく呟きました。その前に愛犬、ミニチュアダックスのホット君のご飯を用意する事も忘れません。


 それからは静かな時間が流れます。

 聞こえてくるのは無言で食べる自分とホット君の音。それから動画の音声。時計の針。


(ちょっと薄味だったかな)


 そう思ってしまうくらいに、物足りなく感じる時間でした。


 誰かのために練習したお料理ですが、食べてくれるのは両親くらい。

 その両親も毎日帰ってくるわけではないので、「美味しい」の一言を貰える事はそう多くありません。


(いえ、わかなさんとこのみさんが食べてくれましたっけ)


 色々と欲しい食材や調味料、道具も足りないような状態で作った初めてのキャンプ料理も「美味しい」と言ってくれました。


 動画では楽しそうに語らうそんな様子も映っています。


(……キャンプ先でも簡単に作れて美味しい料理でも調べてみようかな)


 正直、あの時はうるかなりに最善を尽くしましたが不完全燃焼でした。


 少ない道具でも上手く、

 少ない食材や調味料でも美味しく、

 そしてみんなで楽しく作る方法があったのではないか、と。


 動画を見ながらそんな光景を想像してみたら、食べ慣れた自分の料理も何だか美味しく感じました。


「楽しみだなぁ……」


 無意識にポツリとこぼしました。

 ウキウキワクワクしてくる内心を知ってか知らずか、ホット君が「わんっ!」とひと鳴きしました。


〝僕も連れてってよ!〟


 もしかしたら、そう言っていたのかも知れません。




      第3章「このみ×わかな×うるか」──完。

 それぞれが1人でいる時、何をしていて何を考えているのか。

 今回はそんな回でした。

 うるかの〝誰かのために〟っていうのはぶっちゃけ彼氏の事です。手料理を振舞うイベントが発生する前に別れるという事を繰り返しています。実は。

 うるかにはいい出会いがあるといいな。このみとわかなとは別枠で。


 んで、今回はもっとはちゃめちゃな内容にしようとしてたんだけど落ち着いた感じで落ち着きました。

 このみに3本ローラーやらせてコケるとか、わかなに動画編集させてデータ破損とか、うるかに……うるかに……何させよう。うん、まぁ、そんな感じでやった事ない事をそれぞれにやらせてわちゃわちゃさせようかなって思ってたんだけどもやめときました。

 ネタをストックしていく!

 3章はいわゆる断章的な扱いですが、数字を積み重ねていきたいので3章とさせて頂きました。


 4章はお待ちかねのサイクルイベント! さっさと本編いこうぜってことで3章は短めにしといたんですそういう事です!


 ご意見ご指摘、感想レビューはこのページの下にてそれっぽいのがあると思うので、お時間ありましたら「面白かった」とか「続きが気になる」とかの一言でもいいので是非お気軽に。評価もポチポチするだけで簡単なので、それだけでもあると創作意欲になり、ひいてはクオリティーアップに繋がります!


 あなたにお気に入りの作家さんがいるのなら、上の方法で応援してあげましょう! きっと喜ばれると思います!


 そしてもし、この作品もお気に召しましたらブックマークして、次の更新をのんびりお待ちいただければ幸いです。(とか言いつつ明日の7時から4章更新します。コピペなのがバレてしまう……!)

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