大罪
内ある狂気は漏れてゆく。
それが私がこの物語で特に感じ、体験したことでもあった。
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ある時代で戦争が起きた。
どんな時代でどんな国がどんなことで?
そんなことはどうでもよかった。
ただ血に塗られながら殺し合うことの方が大切だった。
どちらもただ勝利という築かれた死体の山にある一筋の光を目指していた。
築かれた死体は俺たち一般人だということも気付かずに。
人は環境に支配される生き物だ。
環境さえあれば家族や友だって平気で殺せるだろう。
俺はそんな邪悪に呑み込まれなくなかった。
呑み込まれたくなかったはずだった。
だが闇は遥かに大きく、俺を蝕んでいた。
俺は兵士だった。
何かを守るために戦う兵士だった。
何を守っていたは忘れたが。
初々しく、人を撃つ。
少して慣れた手つきで、人を撃つ。
多少の躊躇いを感じながら、人を撃つ
人を撃つために、狂気を纏う。
銃はもはや国のためではない。
自分への快楽を得るための道具になっていた。
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俺はあくる日。とある村を訪れる。
その村では、ゲリラ部隊の基地という情報が入っていた。
俺ら第二小隊はその情報を確かめるために来ていた。
どうやって確かめるかって?
侵入、脅迫、破壊。
俺らはどんなことでもする。
そんなことをしていいはずがないのに。
森に囲まれたその村を目指して森を歩く。
緊張が俺らを生き残らせる。
周囲を探索して、指示を出し合う。
にしても蒸し暑い。森というものはこんなにも暑いものなのか。
手で顔を仰ぎながら進む。
汗が土に垂れてしみ込んでゆく。
1滴、2滴、3滴と汗が額から流れて、落ちる。
その時だった。
破裂音と共に銃弾が空気を切り裂く。
前方の仲間が力なく倒れる。
「敵襲!!敵襲!!」
仲間が一斉に汗が染みこむ地に伏せる。
また2,3回。破裂音がしたと思うと銃弾が地をえぐる。
反撃してこちらも弾を打ち出し、銃弾を宙に張り巡らせる。
破裂音が続く。
まるで地から土煙が噴き出しているようだった。
だが仲間がまた一人、二人と血を噴き出す。
俺は匍匐前進で仲間の屍に近づく。
目の前で銃弾が横切る。
俺は屍を盾のようにして銃を撃つ。
打ち出した前方から、銃弾が数発返ってくる。
鉛は盾を深く突き刺して、
盾から血が噴き出し、軍服が紅に塗れる。
歯を噛みしめながら更に打ち出す。
敵の銃声が減っていくのを感じる。
殺したのだ。敵を。
妙な幸福感と達成感に体が疼く。
盾を前に投げ出し、銃を乱射しながら前に突っ込む。
遠くで肉の裂ける音が響いた。
「後方から敵!後方かr……。」
声の主は叫び声を上げてる途中でそれは悲鳴に変わった。
同時に後方から血が溢れ出す。
全身に血を浴びる。仲間のだ。
すぐに銃を構え、後ろに乱射する。
だが乱射しているのは敵もまた同じだった。
敵の弾が俺の腕をかすめていった。
痛みのあまりその場で倒れる。
全身に力を入れ、痛みを堪える。
だがすぐに収まるような痛さではない。
腕から血が流れて地に墜ちる。
痛い。痛すぎる。
体の中で暴れまわる激痛を堪えながら、
敵の本拠地に走る。
仲間の悲鳴が聞こえるが、もう、どうでもよい。
第二小隊は終わりだ。生き残れない。
ならば村にある本拠地を潰してから死んでやる。
地を駆けて、茂みを払い、石を蹴飛ばす。
ゲリラ部隊の村まで一直線に走る。
少しづつ、少しづつ、村の全貌が見えてくる。
全貌が視界に入りきらなくなった時に、
村に到着した。
ここを潰して俺は大勢の敵に撃たれて死ぬ。死ぬだろうが、
本拠地を潰してからも遅くはない。
だが、そんな努力は必要はなかった。
村は、武装なんかしていなかった。
ただの村人。ただの木材建築。ただの村。
なにもなかったのだ。最後の力を振り絞って走った、
その村には。
若い男の村人が一人近づいてきた。
言葉は分からないが、俺を心配するような顔で、
俺に話しかけた。
彼はきっと優しい心の持ち主なのだろう。
血にまみれ、腕を怪我した俺を心配してくれている。
彼らにとってはイレギュラーな存在なはずなのに。
屈辱だった。
心を捨てて、人を殺すことに生きる意味を見出そうとしたのに、
彼は、人殺しの化け物に救いの手を伸べた。
その行為は、
俺の存在理由をすべて否定されたようだった。
俺が戦っていた相手には心があることに気づいた俺は、
急に視界がぼんやりし始めた。
気持ち悪い。自分とは相反する者。
初めて接触するような男だった。
俺は震える手で胸ポケットを探る。
血に濡れた汚れた手で俺は、
綺麗な心と体を持つその男を
殺した。