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ヤンデレ大戦  作者: 刀根山 藍
一章
7/12

八百①

 シェフの朝御飯を美味しくいただいた後、ここでお留守番すると言ってじたばたする六条さんをお隣に送り返した僕は、傘を差しているのがバカらしくなるような雨の中、駅へと向かっていた。


 僕の通う私立月次(つきなみ)高校は、最寄り駅から三駅挟みそこから歩いて20分のところにある。

 男女共学でスポーツに力を入れつつも特進クラスを設けたりして、県内一位の偏差値を誇る県立中央高校落ちの奴等のちょうどいい受け皿として立ち回っている。加えて年に何回か学校単位で町中のゴミ拾いを紺色ブレザーの月高生が行っていたりするおかげで、入学パンフレットに「本校は文武両道、独立自尊を校訓としており~」とか書いてあっても誰も疑わないが、実際出るときには上位陣以外並かそれ以下のちゃらんぽらんが大半という闇の深い学校である。


 駅に着く頃には靴下までぐしょぐしょであった。精々十分の道のりでこれとは。歩く度に引き返してシャワーを浴びたい気持ちになる。昨日の夜に担任から無断欠席した僕へのラブコールがなければ、今すぐにでも引き返していたに違いない。

 改札を抜けて電光掲示板を見上げると、どこも遅延の二文字が並んでいた。大体予想はついていたが、この大雨で電車も参っているらしい。

 僕はとりあえず誰もいないホームの一番奥にあるベンチに腰を掛けて、雨に塗れて黒くなったズボンの裾を捲った。それだけでびっしょり濡れた手をワイシャツの裾で拭ってから、どっかりと背もたれに体をあずける。

 雨音が空間を支配していた。朝から六条さんと一緒にいたせいで、一人でいるとなんだか無性に寂しくなってくる。これが夏らしい炎天下の中ならそれどころではなかったのだろうが、季節外れの肌寒さすら感じさせる今日の天気では、より一層孤独が身に染みた。


 そんな中そいつが現れたのは、気を紛らわすようにスマホを開いてオススメのデートスポットを探し始めた頃だった。


「あれ? 文谷じゃん。お前も補習?」

「……待てお前、その状態で電車乗るつもりか?」


 見上げた先に立っているてっぺんから爪先までびっちょびちょになったそいつは、名を八百七夏(やおななか)という。


 八百と知り合ったきっかけは、学食での相席であった。友人二人と四人席で昼飯をつついていた時、空いていた僕の隣に山盛りごはんと山盛りキャベツのガッツリトンカツ定食を携えた八百がやってきたのだ。


「ここ、いい?」

「お、おぉ……それ、あんたが食うのか?」

「オレ、一日五合お米食べないと死ぬ病気なんだ」


 白い歯を見せて笑った八百が怒濤の勢いで連山を切り崩していく様に僕達は大いに盛り上がり、それ以降タイミングがあった時には同じテーブルで昼飯を囲むようになった。

 八百は水泳のスポーツ推薦でうちの学校に入り、テストの度に補習を受けている典型的な脳筋で、うなじで切り揃えられたショートカットに健康的な褐色肌、その腕っぷしの強さもさることながら、水泳選手特有の広い背中に先輩後輩を問わず一部の女子生徒から熱狂的な支持を受けている。他方ラグビー部や野球部の男子生徒からはその食いっぷりを認められ、よきライバルとして月に何度か食堂で熱い大食いバトルを繰り広げており、かつ摂取した栄養が全部胸部に回っているので男子からの評価もえらく高い。


 特定の集団に属さず群れることはないが、誰にだって壁を作らずに関わっていくような、明朗快活の権現。それが僕が八百に抱くイメージのすべてである。

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