なろうテンプレの良し悪し
を書くというのが流行ってる(〇週間ぶり〇〇回目)というのを風のうわさに聞き、小生も筆を執る次第である。
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ここにある一人の成年男性がいた。
「ふぅ。ここがナロウニアか」
その男の顔には、目の前にした「闘技場」への己への自信と不安の混ざった表情が浮かんでいた。
表面上は自信満々といったものであるが、その薄皮一枚下には、不安が滲んでいる。
歩き疲れたために元気がないように見える。が、その実、すでにこの男は一度闘技場を経てきていた。それは「カクヨムーア」という闘技場だった。そこで男は、果敢に挑むも、ポイントを上げられなかった。そのため、男はその闘技場を後にしたのだった。
「まあ、軽く一捻りしてやるか」
男の自信は一向に崩れていなかった。
それもそのはず。男の中での結論は「カクヨムーアは向いてなかった」というものであるからだ。
自分はグレートソードの使い手。ソードマンなのだ。
ちまちまトラップ魔法や状態異常魔法を使ってくる「ソーサラー」が多く集う競技場では多くのポイントを得られないのも当然。
己をそう納得させたものの、頭の隅では何かが引っかかっていた。
だが、男はそれについて考えることを止めた。
そして、ただ次の闘技場を目指して歩いてきた。
男は今、闘技場を擁する城郭都市――「ナロウニア」の城門へと向かっていた。
*
男は無事城門を通過し、目的地である「闘技場」、その名も「コロッシーム・オブ・テンプーレ」に着き、「闘技者」登録を済ませたところだった。
「これで会員登録は終わりか。全く面倒だな、この手続きとやらは」
男は悪態をつく。しかし、それは不安を押し隠すための強がりだった。
それはどの「闘技者」にも共通する感情だ。
闘技場へ入る時は、崖から飛び降りるような、そんな思いが闘技者の心を去来する。
「今度こそ、上手く行くさ」
男は自分を励ます言葉を口の中で呟くと、「コロッシーム・オブ・テンプーレ」のアリーナへと続く扉を開いた。
*****
「くそ・・・っ! なんでだ・・・っ!」(図らずもカイジ)
男は各自が所持する「プロフィール・デバイス」を手に、苛立ちの声を上げる。
――0 pt――
男の「プロフィール・デバイス」には無情な数字が並んでいた。
ここに来て数日が経っている。
しかし、未だに男のポイントはゼロだった。
「何かがおかしい・・・間違っている・・・!」
男の苛立ちはもはや憎しみへと変わりつつあった。
まるで水を切るかのように、手ごたえのない結果に、男のプライドは切り刻まれていった。
「よーす。どしましたー?」
突然、声をかけられ、男は咄嗟に「グレートソード」である「ツヴァイヘンダー」の柄を握る。
「いやいや、自分、戦いたいわけじゃないっすから。ここ、アリーナじゃないし」
話しかけてきたのは、若い男だった。顔はつるつるとして、薄い唇が友好的に笑みを作っている。身体の線は細く、ぶかぶかのローブが華奢な肉体を守るように覆っている。
「(チッ・・・またソーサラーか)」
典型的なソーサラーの恰好をした男を睨みつけながら男は言った。
「何か用か」
「いやなんか大声上げてたからどーしたのかなーと思って。ポイズンで内臓でもやられました?」
「俺がそんなヘマするとでも思うか? ポイズン耐性の付いている「翡翠ガエルの腰巻」は装備済だ」
「あ、そーなんすかー。ところでポーション持ってないすか?」
「それぐらい持ってないのか? 闘技者だろう、お前」
「いやー実はくじ宝箱でソーニャヘリスカちゃんの絵入り札を当てようとして、何個も魔法鉱石買っちゃって魔法石もギルも手持ちが・・・」
「馬鹿だな。あんなもの、何になる。業者の思う壺だぞ」
「そーすね、全く反論出来ねえや・・・あ痛てて・・・」
「ちっ・・・しょうがねーな。ほらよ」
「わー。どーもあざーす! しかもヴィゴラスじゃないすか!」
「ソードマンには一回でがっつり効く奴の方が効率いいんだよ。お前ら魔法クラスのちまちま回復魔法なんかより、ポーションの回復が一番だぜ」
「やーこれは助かった。あれ? これあんたのじゃないすか?」
ソーサラーが男のプロフィール・デバイスを拾う。さっき話しかけられた時に落としてしまっていたようだ。
「あ・・・おい!」
男の制止は遅かった。ソーサラーは男のポイントを見てしまっていた。
「あちゃー。0 ptすか。きついすねー」
「ほっとけ! 大体、まだ着いたばかりなんだよ!」
「でも、もう何日か経ってるでしょー。それで0 ptって、根本的に間違ってるんじゃないすかー」
「ぐっ・・・」
「大体、浮いてますよ、あんた。周り見回してみなよ。みんなソーサラーかセージでしょ。あとはアーチャーとの「セット・クラス」使いかなあ。ごりごりのソードマンなんて、あんたぐらいすよ」
「ふん・・・俺はそんな連中とは違う。グレートソード一筋でやってきたんだ」
「あーはいはい。たまにいるんすよねー、そういう勘違いさんが。で、気づくといなくなってるんすけど」
「勘違い・・・だと・・・!?」
「おっと、剣を抜くのは止めてくださいよ。下町ならまだしも、こんな警備兵だらけのとこじゃ喧嘩両成敗で二人とも「追放処分」なんてたまんないすから」
「誰がそんなことするか! ただちょっとイラついただけだ」
「・・・さっき剣抜こうとしてたじゃん・・・」
「なんか言ったか?」
「ああいやなんでも。まあいいや。腹も減ったし、なんか食いませんか?」
「唐突になんだよ」
「旨い店知ってるんすよ。その様子じゃ日干し肉ばっかりなんじゃないすか?」
男は、「旨い」というワードに反応した。
なんせアリーナに籠りきりだったためロクな飯を食ってない。
また、着いたばかりのため土地勘がない。そのような場合、旨い食堂に突き当たるのはこの治世一つのスキルですらある。良質な山彦豚のスープとうたいながら実際は紫山羊を使ってるなんてことはザラだ。
「ちっ・・・仕方ねえな」
男は急速に縮まってきた空きっ腹を二度叩いて誤魔化すと、そう言った。
「じゃ付いてきて下さい。あ、お代はそっち持ちで」
「図々しい野郎だな、ったく・・・」
そう悪態をつきつつも、孤独に戦ってきた男は、久しぶりに話し相手が出来て、少し嬉しげだった。
*****
男は無言でテーブルに並んだ食器に次々と手を伸ばしている。
「どうです? 旨いっしょ?」
ソーサラーがそういうと、男は手を止め、視線を逸らし、
「ふん! ま、まあまあだな」
「男のツンデレには興味ないんすけどねー」
「誰がツンデレだ!」
「いやいや。そこまでテンプレ通りだとさすがに草ですよ」
「(クサ・・・? 何がクサなんだよ・・・)」
男にとっては若い男の若者言葉になど興味はない。首を振ると、再び料理を掴んだ。
食いつくすと、男はふと我に返る。
「(しかし、こんだけ旨い店を知っているとは・・・この男、何者だ?)」
だが、腹を満たす甘い感触が男の思考を鈍らせる。
「(どうせソーサラーだから、「トレーシング」でも使って見つけだしたんだろう)」
そう結論づけると、目の前の男に対する考察を打ち切った。
*
テーブルの上にはそれぞれ二人の葡萄酒の入った杯が置かれている。
「どうしてあんたのポイントは伸びないんだと思います?」
ソーサラーが言う。男は苦い顔をした。
「せっかくのいい気分が台無しなことを言ってくれるな」
「元々そういう話をしてたんじゃなかったすか」
「さあな。知らねえよ」
「考えてみなよー」
男は眉根を寄せて暫く黙った後、目だけを上げて言った。
「ここにはソーサラーやセージといった魔法を使う奴が集まる」
「そーすね」
「そいつらは何やら魔導書に書かれていることを覚えりゃ、簡単に魔法を覚えて、実戦に使用できる」
「まー、そーゆー人もいるでしょー」
「そいつらは共通の魔導書から取り出した型通りの魔法、型通りの戦い方をしてポイントを稼いでいるんだ」
「それがどーしてあんたのポイントを得られない話に繋がるんすか?」
「だから! ・・・そういう安上がりな方法で戦う連中ばかりだから、俺のような伝統に支えられ、研鑽に時間のかかる人間は、ウケが悪いんだよ。あと地味だし」
「ふむふむ。「ウケ」とはなんすか?」
「そりゃ、アリーナでの観客ウケだよ。たとえ戦いに勝っても、観客からポイントがなけりゃあ、何の意味もない」
「そーすね」
「だから、アリーナも悪い。光や音が派手に飛び散る魔法クラスの連中ばかりを優遇してやがる」
「なるほど。ここまで話を聞いた限りで言うと――」
「言うと?」
「あんた、典型的なダメ戦士ですわ」
「なんだと!? テメェッッ!!」
男がソーサラーの胸ぐらをつかむ。
テーブルと椅子が音を立て、何人かの視線が集まるが、その者たちは暫く見つめた後、無言で顔をそらした。
「理由を聞きたくないんすか、あんた?」ソーサラーは意に介さず、言った。
「あぁん?」
「ここで俺を殴り飛ばすの簡単すよ。俺のVITは最底辺。ATKのあんたなら簡単に半殺しに出来る。だけど、それでいいんすか? このまま0 ptのままで」
二人は睨み合った末、
「・・・チッ!」
男はソーサラーを解放した。
「あんた、喧嘩っ早いすね。その性格じゃ、いくら闘技者といえど苦労したんじゃないすか?」
「・・・ほっとけ・・・」
「話を戻すとね、あんたの言うその理由ってやつは、典型的な言い訳すよ」
「言い訳だと? だが、同じようなこと言ってる連中はごまんといるぜ。「アリーナ・マガジン」での投書欄では、この手の話題に事欠かないぜ」
「だ・か・ら、『典型的』だって言ってるんすよ。誰もが簡単に思いつく言い訳だから、たくさんそういうことを言ったり書いたりする。クエスト酒場にいきゃあ、その手の愚痴は耳にタコすよ」
「俺が間違ってるっていうのか!?」
男がテーブルを拳で叩きつける。
「別に間違っちゃあいないすよ。あんたが0 ptだということの理由としては、間違っちゃあいない」
ソーサラーは杯を傾けた後、
「だけど、それでどーなるっていうんすか?」
「・・・どうなる?」
「だって、現実的に、アリーナには魔法クラスがうようよいるんすよ。で、あんたのソードマンはウケが悪い。じゃあ、どうするんすか?」
「それは・・・」
「大体、なぜアリーナに魔法クラスが多いと思いますか?」
「なぜってそりゃあ・・・ナロウニアがあいつらを優遇してるから・・・」
「じゃ、ナロウニアが魔法クラスを排除したら、あんたのポイントは上がりますか?」
「まあ、そうなるだろうな」
「でも実際はそんな魔法クラスの排除は起こらない」
「ああ。ナロウニアは魔法クラスを優遇してるからだ」
「ではなぜナロウニアは魔法クラスを優遇すると思いますか?」
「なぜ・・・?」
「ナロウニアは、観光で成り立ってる城郭都市なんすよ」男は杯に指を突っ込み、濡れた指をテーブルに走らせ、円を描く。「そこにアリーナ目当ての観光客が来る」円に入っていく何本かの線を引く。
「ああ」男は頷く。
「ナロウニアにはアリーナ以外にも、たとえば吟遊詩人のステージもあります。恋の歌を歌い競い、連日ライブを開催して、女性客を中心に活況を呈しています」
「知っているぞ。『君の肋骨を折りたい』という演目が、大当たりしたというのを聞いた。各地で大規模な移動演劇も組まれたしな」
「ええ。ほかにも研究機関もあるんす。そこでは謎解きに夢中な学者たちが日夜謎解きをしてるっす」
「まあ、数は多いほうがいいだろう」
「そうです。数は多いほうがいいんす。そして、それはナロウニアの貴重な観光資源なんす」
「・・・」
「分かってもらえましたっすか? 何もナロウニアは魔法クラスに縁故があったり、国教を敷いてるわけではないんす。観光客があるから、人気になってるだけなんすよ。優遇もしていない。優遇しているのは観光客なんです。あんただってそうだ。活況に湧いてる闘技場に来てるんすよね。それってやっぱり選んでるんすよ、人気で」
「人気・・・」
「そーす。そうやって人気になった中には、騎士団から勧誘を受ける奴もいますね」
「ああ・・・」
「あんたも、騎士団を狙ってるんすよね?」
「む・・・ま、まあな」
「最近は騎士団も手を広げ始めていて、昔ほど狭き門ではないっすけど、それでも、まだまだ騎士団員かどーかってのは、大きな違いですからね」
「ああ。何より、騎士団になれば、一気に人脈が開けるからな・・・。鍛冶屋、武器商人・・・」
「吟遊詩人が詩を書いてくれれば、一挙にレビュウにも繋がりますしね。そうなりゃ、歌姫、劇俳優、オーケストラ交えての一大バトルステージも夢じゃないすからね」
「ん・・・まあ、そこまではさすがに・・・難しいだろうが」
「でも、アリーナにいる奴らで、そこまで漕ぎ着けるやつも、ゼロじゃない」
「・・・」
沈黙が降りる。ソーサラーは杯を口に付けたまま真っ逆さまに呷って、中身を飲み干し、大きく息を付いた後、
「やーどーも熱くなっちまったっすね。どーしてもこーゆー若い人と会うと」
「若い・・・? どう見てもお前俺より若いだろうが」
「あーはは。ま、それは言葉の綾ってやつで」
「どーせ俺は0 ptのぺーぺーだよ」
「あはは。卑屈になってら」
「うるせえ!」
「まあ、なんだかんだ言ったけど、自分に合った場所を見つけるのも一つの手すよ」
「自分に?」
「そーすよ。別に国はナロウニア一つじゃない。他にもいくつもあるし、今だったら自分の店構えたり、旗揚げしたりするのも当たり前の時代っすからね。好きにやったらいいんじゃないすか?」
「あ、ああ・・・確かにそうだな」
「ナロウニアだって、いろいろな偶然があって今こうなってるわけだし。観光業ってのは、流行り廃りに左右されるすから、なかなか」
「まあ、そんなものか」
「そーすよ。みんな必死っすね。特に、上を狙うなら」
「さっきは胸ぐら掴んだりして悪かったな。その・・・謝るぜ。店の料理も旨かったし」
「いーんすよ。それぐらい、若いってのは。そんじゃ、俺、もー帰るんで」
ソーサラーが立ち上がった時、男は、ふとソーサラーの腰に光るものを見つけた。
「おい、お前、それって四大騎士団員の一つ、暁の雷光騎士団の紋章じゃないか・・・!?」
ソーサラーは男の問いかけに素早くローブを使って隠すと、
「いやなに、拾ったんすよ、あはは」
「も、もしかして、お前・・・いや、あなたは・・・」
「いやいや。俺はただの一介の闘技者に過ぎないっすよ。それじゃ、またどこかで会えたら会いましょー。親父、支払い!」
「あ、ちょっと・・・!」
ソーサラーは駆け足で店の出口に向かい、銀貨を店主に放り投げると、月夜の街へと消えていった。
男は店の出口で佇んでいた。そして、
「金・・・持ってんじゃねえかよ・・・」
男は独り、呟いた。
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佐倉井:「これ・・・エッセイなんですかね?」
私:エッセイでしょう。これから。
佐倉井:「じゃあ、さっきのは」
私:前置きですね。
佐倉井:「長いな!」
私:ちゃんとエッセイも書きます。
佐倉井:「こーゆー漫才みたいなのはいーんですかね?」
私:いいんじゃないですか? 昔のラノベではよくあったし。あとがきとかに。
佐倉井:「あとがきはエッセイなんだろーか・・・で、なろうテンプレですか」
私:そうです。流行ってる。
佐倉井:「エッセイにも流行り廃りがあるんですね・・・」
私:拙作『宇佐美くんは意識が低い』から佐倉井さんです。
佐倉井:「急な紹介! というか、あれ終わったんですか?」
私:終わってますよ。
佐倉井:「全然そうは見えないですけど」
私:魔法の言葉がありましてね。
佐倉井:「なんですか?」
私:「俺達の戦いはこれからだ!」です。これだけでどんな作品も終わらせられます。
佐倉井:「それ書いてありませんでしたけどね。いや書いてあってもダメですけどね」
私:そして、この部分超後付なんですけど。
佐倉井:「キャラクターにした方がわかりやすいかなと・・・という無駄な配慮ですね。以下名称は省略します。最後にまた付きます」
*
「なろうテンプレ」の定義を最初に述べた方が話が早いです。というか、これを決めずに論を展開しても無意味です。つまり、仮説を立てます。
「なろうテンプレ(仮)」は
・異世界転生
・チート
・ハーレム
というのが私の観測した限りでの定義です。
「まあ、大抵この三つが槍玉に挙げられますよね」
「なろうテンプレ(仮)」は、実際の「小説家になろうにおけるテンプレート」そのものを指しているわけではありません。事態は逆であり、これらの三つの要素が浮かび上がり、それらが「なろうテンプレ」という「名付け」がされたに過ぎません。別の言い方をすれば「本格なろう」とか「真のなろう」とか、まあ、色々名前の可能性はあったが、結果として「なろうテンプレ」というのが確定したのでしょう。
「昔は俺TUEEEとか言われてましたけど」
テンプレにも流行り廃りがあるのでしょうし、揺れもあるでしょう。
だから、別にテンプレ化したものというよりは、この三つの要素がよく挙げられている、というだけですね。
それぞれ、槍玉に挙げられる、というには、非難側の主張があります。
・異世界転生 ←わざわざ死ぬのがアホらしい。あと日本人ばかりなのが意味不明
・チート ←チートって・・・恥ずかしくないの?
・ハーレム ←おいおい
というものです。
「うーん、どれも納得できるような」
しかし、これはどんなジャンル小説にも言えるものです。
推理小説なら、殺人が起こるし、都合よく探偵がいたりするし、SFなら未来や宇宙といったそのジャンルごとの「お約束」があります。それはお約束なのだから、ツッコミに何か意味があるのか、というのは、ジャンル小説の問題です。
「「なろうテンプレ(仮)」固有の問題ではないということですね」
そうです。
コードだから、思いっきり簡素化することもやろうと思えば出来ます。
ですが、大抵そういう話はつまらない。か、思弁的なものになってしまう。
だから、私が読んだエッセイでは、「もっと理由付けをちゃんとしようよ」という主張だったと思います。
「言ってることは間違ってないのでは?」
テンプレ批判というよりも、安易なテンプレ使用を諌めていたように思います。
もう一つは、テンプレを真っ向から否定するもの。
「うわー。それは反発を呼びそうですね」
当然、「なろうテンプレ(仮)」の愛好家からは否定されるでしょう。
ですが、これは制作者に向けた言葉だから、制作者は自由に作ればいいのだから、単なる宣言にしかなりません。
「なんだか話が拡散してるような」
音楽の趣味と考えればいいんです。
ロック、メタル、ジャズ、クラシック、EDM、ヒップホップ。
どれも好きにやればいいし、ジャンルを移動する人もいます。
誰も強制していません。
「でも、小説家になろうにおいては、やっぱり「なろうテンプレ(仮)」の話を書いた方がポイントを稼げるのでは?」
それはそうです。しかし、それに何の問題があるのか?
たとえば、そのサイトで時代劇が流行っていたら、やはり時代劇がポイントを稼げるでしょう。
「つまり、それって・・・」
派閥の問題ですね。
「一番イヤなワード来ちゃった!」
人が集まれば好き嫌いの感情で仲間を作りたがるものですからね。
「習性ってものでしょうか?」
おまけにランキングで格付けされます。これはかなり人の感情を揺さぶります。
「これって大変な問題なのでは!?」
いや、そうでもありません。
「へ? そうなんですか?」
派閥と言っても、ポイント――すなわちポイント順による「ランキングシステム」のことですが――によって数値化されているので、誰にでもどのジャンルが強いかというのは一目瞭然だからです。
だから、人気があれば上がり、人気がなくなれば下がります。
「そんな単純なものでしょうか?」
実際には「利用者層」というもので、完璧に均一なものではありません。だから、あくまで「「小説家になろう」における状況」でしかないです。だから、それは何も「世界におけるランキング」などではなく、たまたまなろうにいる人達のランキングでしかないわけです。だからそこには偏りがあるのは元々でしょう。
「「小説家になろう」全体の隆盛を左右する問題と捉えている人もいますね。たとえば、「なろうテンプレ(仮)」ばかりが全部を占めてしまい、仮に「なろうテンプレ(仮)」が飽きられた時、そこには荒涼とした風景が広がるのでは・・・という主張をする人もいます」
それは社員が心配すればいいことであってユーザーが気にすることではないような気がしますが・・・。
もう少し限定的に記すなら、
・「なろうテンプレ(仮)」が飽きられ
・「なろうテンプレ(仮)」がランキングから消える
という事象が発生するというわけですね。
「そうですっ」
よく見てくださいっ。テンプレ批判側の要望が通った結果じゃないですか。
「え!? ・・・あー!」
テンプレ批判側は、「「なろうテンプレ(仮)」をなくしたほうがいい。なぜなら、このままでは「なろうテンプレ(仮)」がなくなってしまうからだ」という主張をしていることになります。これでは本末転倒です。また、人がいなくなるという言い方をしますが、現状「なろうテンプレ(仮)」に人気があるなら、一番人が多い方法を取っているのではないですかね。もちろん、さらなる活況を呈する方法があるなら、それに越したことはないですが・・・。
「結局、人気があるから、ポイントが稼げるんですものね」
そうです。「ランキング」とは、あくまで「どれだけ人気か?(利用者の中で高評価を得ている作品か)」ということを示しているだけでして、別にその作品の価値とかを示しているわけではありません。
「あまりランキングに左右されないことが大事ですね」
***
「なんだかなろうテンプレの話というより、ランキングについての話になってしまっていたように思いますが」
そうですね。結局、今人気だから話題にされやすいというだけでしょう。少し前は学園異能バトルが槍玉に挙げられていましたし。
「部活モノとかもありました」
変な部活モノですね。作者が頭を振り絞って様々な部活を創始していました。
物事には流行り廃りがあって、それは誰にも操作できないものだと思いますね。
「最近では「なろうテンプレ(仮)」みたいなのは流行ってないという主張も見ますね」
そもそもなろうテンプレなるものは実在するのか、とかね。
大体、こういうのはピーク時に出てくるもので、段々と下火になってくものなんですよね。
たとえば、今、声高に「学園異能バトルテンプレがひどい!」とか言う人いないでしょう。いやいるかもしれないけど、注目は集めないでしょう。昔はありましたけど。
「色々あったんですね」
そうです。
大きなトピックはほいこれ。
「え~、にせんろくねん、ハルヒ放送開始」
一大ブームでしたね。いわゆる変な部活モノとか、現代の学校で男の子とファンタジーな能力を持った女の子が、みたいな話が大量に溢れました。セカイ系、なんて言葉も分かりやすく流通したりしました。ハルヒが哲学的な用語を用いたりして、評論熱を呼んだのもその原因でしょう。
「続きまして、え~、にせんはちねん、禁書放送開始」
禁書自体はもっと前から刊行してましたが、アニメ化すると一気にブームとなりました。異能バトルブームです。
「え~、にせんじゅうにねん、SAO放送開始」
バトルファンタジーとしてブームに。VRという、異世界転生ブームを予感させる要素を持ち、また描く世界観が異世界転生先の世界観のベースとなるなど、異世界転生に多くの影響を与えている作品です。電撃文庫20周年記念作品として大々的にアニメ化ゲーム化が発表され、AW(先行)と重なる形でのアニメ放映となり、それだけにキャラクター小説界に与えた影響は甚大なものがあります。未だに大きな影響を残しています。
「え~、にせんじゅうよねん、劣等生放送開始」
学園バトルファンタジーブームの開始ですね。学園にいろんな戦闘部隊や戦闘学科が常設されていて、そこで学生は日夜バトルに明け暮れるという設定がブームに。禁書と似ていますが、禁書が都会的・個人的であり、異能であるのに対し、こちらは伝統的な魔法です。
「異世界に行くだけがキャラクター小説じゃないんですね」
あくまで近年のものだけです。ほかにも俺妹-はがないとか、化物語とかありますが、まあ四つに絞るならこの四つかと。あとラノベ単体のブームというより、より大きなメディアミックスブームとして捉えた場合ですね。つまり、ビジネスの形態。
「映像化は大きな出来事ですからね」
ビジネス的にも、また作り手にも影響を与えますね。
「どれも個性的ですね」
個性的だが、同時に、多くの先行作品の存在も予感させるでしょう。どの作品も、四つだけ並べると、全く違う。だからこそ、この四つの作品は、恐らく、全然違う先行作品をそれぞれ持つんですよ。もちろん、共通する作品もあるでしょうが、全く重ならない影響作品というのもあるでしょう。
「「なろうテンプレ(仮)」もそういう影響関係の中にあるんですね」
もちろんです。キャラクター小説の渦の中から発生したものです。大きな流れ、うねりの中の一部分なんです。
「ちなみにあなたがよく読んだラノベは?」
えーと。
「一つでいいんで」
一つですか。
まー印象深いのは『狼と香辛料』ですかね。
「あーはいはい」
なんですか。
「あれですよね。頭にネコミミが生えてますからね。はいはい分かりますよいつものあなたの趣味ですもんね」
ホロは狼だっつの!
『狼と香辛料』は当時の会社に向かう電車の中で唯一の精神安定剤というんですかね、まさにこれによって、現代の蟹工船、社畜列車になんとか耐えられたというものですかね。まさに――
「そろそろ結論ですかね」
聞けよ。
「で、テンプレの良し悪しは・・・」
良し悪しなどない! 好きに書け!
「まーそう言うしかないですよね」
***
佐倉井:「なろうテンプレそのものについてはそれほど触れませんでしたね」
私:要素だけを批判しても無意味ですからねえ。作品をレビューするならまだしも。
たとえばチートなら桃太郎なんて桃から生まれて、仲間がきびだんごで即デレ、鬼ヶ島で無双するって話ですし、ハーレムは亀を助けたら竜宮城でお姫様に好かれたり、転生なんて、それこそ輪廻転生の話の基本じゃないですか。
佐倉井:「要は使い方しだい、料理しだいってことですかね」
私:そうですね。
いい作品を出すのは、それこそ作者なんですから、なろうでは読み専はともかく誰もが料理人になれるんですから、いい料理を作ることが大事ですよ。そういう意味のこと(テーマ)を物語仕立てにしたのが、前置きの部分なんですけど。
佐倉井:「ところでその前置きについてなんですが・・・」
私:ん?
佐倉井:「ちゃんと傾向と対策練ってますか!?」
私:練った結果なんだけどなあ。
佐倉井:「前置きに反映されてませんよ! なんで主人公が冴えないおっさん(とは書いてないけど!)なんですか! そこは若い高校生ぐらいの男子なんじゃないですか!?」
私:いやあ・・・ねえ・・・。
佐倉井:「口調が完全におっさんですよ! そして、もう一人のソーサラー! そ こ は ヒ ロ イ ン で し ょ う ! ?(大文字)」
私:完全に男ですね。
佐倉井:「なんでですか! 王女でしょ! 偶然に知り合った相手がお忍びの王女で、バインバインの巨乳で、最後に主人公が見せたむじゃきな笑顔+感謝の言葉でデレるっていうのが「お約束」でしょう!!!!????」
私:でもほら、一応騎士団員だったし。
佐倉井:「あーだめですわ。そんなんじゃキャラ立ち弱すぎますわ」
私:じゃー、ネコミミとか。
佐倉井:「センス古っ! あと猫好きすぎですよ!」