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4:遺跡と魔物と東の村

 2番隊の下っ端騎士が混乱の渦に叩き込まれた日から2日。リアゲ・ツォン国のお城では、朝早くに勇者の出立式がひっそりと行われた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 勇者の出立式から一週間後。



「あー!だるい!暇暇暇暇!」


 白衣を着た少女の様にも見える女魔族が何やら叫んでいる。

 周りは石と土に囲まれており、窓も無い事から何処かの地下の様だ。その地下空間のとある建築物の前で白衣魔族は座り込んでいた。


「魔王様もさー慎重すぎでしょ?わざわざこんなとこに結界はるなんて」


 ぶつぶつ言っている言葉の内容から、どうやら白衣魔族は魔王の命令で結界を張っているらしい。


「うー……。やーめた!怠いし。勇者が決まってからでいいや!」


 早々に仕事を投げ出した白衣魔族は、いそいそと荷物の中から畳まれたバックを取り出した。


「へへーん。実験!実験!」


 バックは、広げるとちょうど白衣魔族の頭がすっぽり入るぐらいの大きさだった。


「さっき捕まえた、毒は強いけど体が弱い魔物と、毒は弱いけど体が強い魔物を混ぜーて、混ぜて!」


 白衣魔族は何処からか取り出した小型の魔物2種をおもむろにバックに放り込むと、フタを閉め、取っ手を持ち振り回した。


「ふんふふんふーん♪どーなるかなーっと」


 2分は振り回しただろうか。運動不足な者なら次の日に筋肉痛必死な行動を終えると、白衣魔族は鼻歌を歌いながらバックの中身を取り出した。


「うーんと…毒はー…じゃがいもの芽!体はー…ゼリー!……駄目じゃん!失敗。失敗」


 当然シェイクされた哀れな魔物2体が現れると思いきや、でてきたものは1体の拳大程の芋虫のような魔物のみであった。

 実はこのバックは珍しい魔法がかかっている魔法具であった。所謂失われし魔法(ロストマジック)と呼ばれるその力は多種多様に渡る。このバックにかかっている魔法は混沌玉石(ケイオスシャッフル)という合成魔法だ。その効果は、異なる2種の生物を入れ混ぜ合わせることで新種を生み出すというものだ。中々に重宝しそうな魔法ではあるが、バックの容量が少ないせいで入れられる生物に限りがあることから取引価格は比較的安い。現にこの白衣魔族もあくまで趣味の一環としてこのバックを使用している。


「また失敗かー。上手いこといいとこ取りな魔物出来ないかなあ。…んーと、次はー…あ!あそこの地底湖に魚でも居ないかなー!?」


 白衣魔族は唐突な閃きに目を輝かせると、今作ったばかりの芋虫のような魔物を放り出して地底湖に向かって走り出した。




 この時白衣魔族に見捨てられた芋虫は生きていた。

 一回り大きな蜘蛛の魔物に食べられても。

 地上に出た蜘蛛が蛇の魔物に食べられても。

 油断した蛇が鳥の魔物に食べられても。

 少なくなった体積から微弱な毒を巡らし、強かに力を蓄えていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 勇者と聖女の出立式から一月後。2人は話し合いの末、まずは東に向かうことにした。東にある海を目指しつつ、道中で情報を集めるという大雑把な計画だ。

 もっときちんと計画を立てようという意見も出たが、何せ元の情報が少なすぎるということからとりあえず海も森も手近にある東からとなった。


 さて、旅と言うからには2人っきりである。朝も昼も夜も基本2人だ。

 だが、そこは根は真面目な勇者と貞淑な聖女。間違いなど起こらず、うっかり手が触れてしまっても謝罪一つで終わる見てる側からはつまらない旅が続き、関係は進まないまま戦友(パートナー)としての意識は着々と育まれていった。


 今日も今日とて、甘さは無いのに気安い。熟年夫婦のような空気が流れていた。

 そんな2人が、平原の中にある村を見つけたのは日も高くなってきた昼ごろのことであった。



 その村は広くもなく、かといって寂れているとは言えない程の極一般的な村であった。

 ただ一つ目を引くものと言えば、村人達が何やら悩んでいる様な様子であったことだけだ。


 勇者たちはそんな村人達の様子を気にしつつも、とりあえず買うべきものを見ようと店が立ち並ぶ一角へ足を向けた。


「いらっしゃい。旅のお方かい?嫌な時に来ちまったね。買うもの買ったら直ぐに村を出た方が良いぞ。特にそっちのお嬢さんはえらい別嬪さんだしな」


 調味料などを補充しようと顔を出した店で2人を迎えたのは店主からのそんな声だった。

 いきなりの事に戸惑う2人に店主は更に言葉を重ねる。


「おっと。すまない。脅すわけじゃあ無いんだ。ただ本当に今は危ない。あいつらは近いうちに来るって言っていたからな。今日にもまた強請りに来るかも知れねえ」


 怯えさせてしまったかと、眉を下げた店主は慌てて言い繕った。しかし、その言葉は2人の疑問をより大きくする結果に繋がってしまった。

 何やらきな臭いものを感じた2人は持ち前の正義感により、店主の言葉に素直に従って村を出るという選択肢を放棄した。


 どういうことかと勇者が問い詰めると、店主は渋々ながら説明を始めた。


 曰く、今この村はある魔族の支配下にある。定期的に訪れては食糧を奪っていく。前回はとうとう女が1人攫われた。とのことだった。


 2人は店主から事情を洗いざらい聞くと、目を合わせた。

 店の扉を開いてから数分後、結局何も買わずに店を出た2人は、教えられた村長の家に向かっていった。




 村長の家は村の中心地にあった。一見周りの家との違いが分からない程、その家は普通で村長の家だと教えられて居なければ確実にスルーしていただろう佇まいであった。

 ノックをするとこれまた簡単に扉が開き、1人の老人が顔を出した。村の様子からもさぞピリピリしているだろうと思っていた2人は、拍子抜けした面持ちで少しの間固まってしまった。


「なんじゃ、あんたたち。旅の方が何か用かの?」


 老人の言葉に我に返った2人は慌てて自己紹介をした。もちろん勇者と聖女ということは伏せて、聖女の方は偽名であるが。

 村長も名を告げたところで、それで何の用だと、目線で先を促した。

 意味を汲み取った勇者は、先ほどこの村の事情を聞いたこと。何か力になりたいということ。もし、魔族の住処を把握しているのなら教えて欲しいことを告げた。


 その勇者の言葉を黙って聞いていた村長は、一通り聞き終わるとため息を1つ吐いた。


「あんたらで3組目じゃよ。義憤に溢れた旅の方が、自分達に任せろと言って魔族を追いかけて行ったんじゃ。…だが、帰ってきたものはいない。唯の1人だって帰ってはこなかった」


 村長の悲しげな声を聞き、勇者は何かを言おうと口を開いたが、何も言えずにまた閉じた。


「村の為を想ってくれるのは嬉しい。だが、それで未来ある若者が死ぬのは心苦しいことじゃ。止めても聞かない事は分かっておる。しかし、出来る事なら…生きて欲しい。それだけじゃ」


 村長はそう言うと、もう言う事はないと扉を閉めてしまった。勇者と聖女は村長の言葉を噛みしめつつ踵を返した。

人物紹介と言えるか分からないもの。


【白衣魔族】

 実験大好きで仕事が大嫌いなちびっ子魔族。見た目は10歳ぐらいだが、実際の年齢は3桁を超える合法ロリ。闇力は強いので、よく仕事を任せられるが隙あらばサボろうとする。サボって実験した結果、敵を全滅させる事も多々あるので中々処罰出来ないハイリスクハイリターンな人材。今回仕事場にこっそり持ち込んだ実験道具は混沌玉石の他にもある。どうやって持ち込んだのかは謎。


【捨てられた魔物】

 生まれて30秒で捨てられた哀れな魔物。ステータスは軒並み低いが、ゼリーのような身体が幸いしてとても死ににくい。弱点は火。


【勇者】

 一時期は混乱に陥ったが、程なく受け入れた。自分が勇者だという事は今でも半分疑っている。まあ間違えでも自分に出来ることをやれば良いか、と前向きに考えるようにした模様。1ヶ月間聖女とほぼ2人で過ごしたが、自分とは次元が違う人だという意識が強く、あくまでも旅仲間という認識。魔物が出た時などに的確にサポートしてくれる聖女を尊敬している。今の時点では聖女の方が強いので支えられている実感が強いのが悩み。早く力を付けたい。


【聖女】

 神からの指名により、勇者と共に旅に出ることになった。始めは、神様からのお言葉とは言え男の人と2人っきりとは…と周りから言われた言葉で少し不安だったが、その様な事は勇者はおくびにも出さなかったので罪悪感で落ち込んだ。今では真っ直ぐで正義感溢れる勇者を信頼している。勇者を少しでも鍛える為、基本的にサポートに徹しているが日に日に力をつける勇者には驚いている。勇者自身はまだまだだと思っているが、自分に追いつくのも直ぐかもしれないと考えている。自己鍛錬の量が増えた。


【村長】

 村長の権力はあまり無い。村人のまとめ役というだけである。世襲制では無く、村人からの指名で決まる。その為村長邸などは無い。今の村長も村人達の話し合いで決まった人望に厚い人物だ。しかし、就任中にここ200年は起こっていなかった厄介な事件に巻き込まれた運の悪い村長である。始めの頃は義憤に溢れた若い旅人に希望を抱いていたが、今はもう諦めかけている。村人が死なない程度の食糧ならば渡してしまって出来るだけ犠牲が出ない方が良いのでは無いかと考え始めた。魔族に攫われた女性は実は孫の彼女であり、親交もあり情もある。助けたいという気持ちと板挟みになっている。

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