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3:力の種類と神官と最期

 この世界には3種類の力がある。聖力(セイント)魔力(マジック)闇力(ダクネス)


 聖力(セイント)は読んで字のごとく聖なる力。つまり、神に仕えし者が使える力だ。神に祈り、信仰を捧げた者が力を求めた時発現する。言わば神からの対価とも言える。(もちろんこんな発言を教会でしたならば処罰は免れない。)


 どんな力になるかは人それぞれ異なる。人を癒したいと願った者なら回復の。人を護りたいと願った者なら防御の。人を助けたいと思った者なら戦闘の。それぞれの力が与えられる。


 一般的な聖職者であれば、1種類の特化した力と補助的な数種類の弱い力を組み合わせて使うが、稀に強い信仰心と硬い願いを持った者が複数種類の強い力を得ることがある。代表的な例を挙げると聖女が正にそれである。歴代の聖女達はいつも2つ以上の強い力を持っていた。特に今代の聖女は、回復と補助に加え戦闘の力もそこそこ強く、100年に1人の逸材と言われている。


 次に魔力(マジック)。こちらは聖力と違い、信仰心は関係ない。持って生まれた魔力の器と鍛錬によって誰にでも発現させることが出来る。


 その効果も多種多様で、水を出す・火をおこす・穴を掘る、などの生活に役立つ小さい魔法から。洪水をおこす・森を焼き尽くす・高い壁を作り出す、などの大規模な魔法まで本人のキャパティシィと鍛錬次第で習得可能だ。

 種類の違う魔法も複数覚えられる。


 その性質からこの魔法の使い手は、魔物から竜をも倒す伝説の冒険者まで多岐に渡る。そこも聖力との違いだ。


 最後に闇力(ダクネス)。こちらは前の2つと大きく異なり、人間には習得できない。


 高位の魔人から生まれる、または魔物が力を蓄え進化した存在である魔人が扱うことが出来る。魔人は1人1人性質の違う闇力を持っている。影を操る力・闇力を圧縮して放つ力・自身の身体能力を高める力、その能力は数え切れないほどあり、人間が把握しているとなると更に少ない。

 はっきり分かっていることは魔人が力を使うときには闇力が発せられるということだけだ。


 他にも、今では原理がよく分からない失われし技法(ロストマジック)などもある。




 リアゲ・ツォン国の城下町で、人ごみに紛れながら周囲に目を光らせている男が居た。


 普通の町人のような格好をしているが、その目は油断無く人々を見ていた。


(よし。よし。この辺りには魔人はいないようだ。聖女様から承ったこの使命!絶対果たして見せる!)


 この男は教会で中堅どころを担う神官の1人だ。今は聖女の命で、この期に動き出すであろう魔人のスパイを探っていた。


(ああ…聖女様は今日も麗しかった…。あの鈴を転がしたような美しい声をまた聞きたい…。よーし!絶対スパイを見つけ出して聖女様から、お、お褒めの言葉を…!)


 軽くトリップしかけた神官であったが、1人の男が目に入ると一転、真剣な顔つきになった。


 その男はローブを着ており一見魔法使いのように見えるが、仮にも神官の男の目は誤魔化せなかった。そのローブ男が見習いらしき子供にぶつかったとき微かに闇力が漏れたのを神官は正確に感知していた。


(今のは…!まさか本当に見つけられるとは…、これも神様の思し召しですね。…ここでは周りに被害がでてしまいます。城壁を出たら始末することにしましょう)


 ローブ男は背後からの視線にも気付かず早足で城門に向かっていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 (よし。あとは元の姿に戻って走ればダークアイ先輩が行った温泉まで2.3時間あれば着くか。癪だが、俺が魔王城に帰るよりもあの人に頼んだ方が早いしな)


 無事、城門を抜けたローブ男は次の行き先を決めると森に入り身体にかけていた変化を解いた。その瞬間、背後から凄まじい勢いで身体に氷が降り注いだ。


「ぐっ…うおぉ!っと!…な、」


 ローブ男は何とか前屈みになり被害を最小限に収めたが、「何だ」と声を発する前に次の変化が起こった。


パキキッ


「…!チッ…!氷魔法か…!?」


 地面についていた手と足が氷漬けにされていた。力を入れてみるがびくともしない。

 苛立ちまじりに呟いた声に背後から返事があった。


「魔力と一緒にしないで頂きたい。この力は神から授かった神聖な力です」


 言葉と共に現れたのは法衣に身を包んだ神官だった。


「教会のやつか…!くそっ!何故分かった!!」


「これから死にゆくあなたには知っても仕方ないことでしょう?では、さようなら。」


 冷たい眼差しでローブ男を見下ろしていた神官は、別れの言葉を言い終わると即座に氷の杭を作り出し、ローブ男の頭と胸に突き刺した。


 ぐちゃりと不快な音を立て、1人の魔人は2度と動かない肉塊になった。





「……終わりました?」


 暫く、静けさが漂った森の中で、目立たぬよう木の影に隠れていた人間が頭を出した。


「…ええ。闇力も感じられませんし、出てきても大丈夫ですよ。」


 たった今、魔人に止めをさした神官が返事をすると、その人間は恐る恐る前に出てきた。服装はごく普通の町人の格好であり、城下町で魔人の闇力を感知した男であった。


「いやー。流石ですね!貴方に頼んで良かったですよ。見事なお手際で…て、ええええ!な、何してるんですか!」


 町人の格好をした神官がホッとした表情で、魔人を殺した神官ー氷の神官に声をかけつつ近寄ると、彼女は殺した魔人のローブを漁っているところだった。


「何って…。何か不審なものを持っていないか調べています」


 当たり前じゃないか。とでも言いたそうな口調に、それもそうかと彼は自分の浅慮を恥じた。もし魔人が、自動で文書を届けるようなマジックアイテムを持っていたら、この仕事は失敗に終わってしまう。また、それが無くとも何か魔王に繋がるものでも見つかれば儲け物だ。


「…はい。何もないようですし、後始末お願いします」


 調べ終わったらしい氷の神官に声をかけられ、思わず文句を言ってしまいそうになっていたが、氷の神官の目線に黙った。


「はいはい、いきますよ」


 町人の格好をした神官が手をかざすと、瞬時に炎の塊が形成され、魔人へと放たれた。炎に包まれた魔人は数十秒で灰へと変わり、小さい風が吹いたあとは何も残っていなかった。


「貴方の聖力も素晴らしいですね。証拠隠滅にぴったりです」


「…別にそんな願いで授かった力ではないのですが…」


 苦笑いを返しながらも、力を褒められて町人の格好をした神官ー炎の神官は嬉しそうであった。


「…さて、これで一仕事終了ですね。聖女様に報告に戻りましょう」


「はい。…その前に何か食べに行きませんか?実は朝から何も食べていなくて…」


 灰の行方を追っていた炎の神官は駄目元で食事に誘ってみたが、結果は案の定。


「駄目です。町に忍び込んだ密偵が1人とは限りません。聖女様に報告したら、また見張りに戻りますよ」


 取りつく島もない返答にやっぱりかと肩を落としながら、慣れた様子で炎の神官は氷の神官の後を追った。

適当な人物紹介的なもの。


【炎の神官】

 炎聖力の使い手。他の力は感知能力以外いまいち。正面から戦ってもローブ男に勝てたが慎重(ヘタレ)なので氷の神官に助けを求めた。聖女様に憧れている。氷の神官とは昔馴染み。自分の聖力が何故炎になったから分からない。心の奥底に氷のような女性を暖めてあげたいという思いがあることに気がついていないでいる。仕事には(おおよそ)真面目な性格。


【氷の神官】

 氷聖力の使い手。昔馴染みのヘルプコールに応じるなど、面倒見はいい。しかし、常に無表情と端的な言葉で冷たい印象を与えてしまう。聖力は性格を表すと陰口を叩かれることを軽く気にしている。炎のような暖かい男性といると少し表情が緩むことに気がついていない。仕事には(いきすぎるほどに)真面目な性格。


【ローブ男】

 氷の神官にあっさりやられて、炎の神官に灰にさせられた哀れな魔人。本体は人狼。闇力は幻惑の力。この闇力で人間に変化していた。故郷に残してきた恋人がいるらしい。


【ダークアイ先輩】

 2日目突入。今回のことで後々大目玉を喰らうことになるが、今は仕事のことを忘れて全力で楽しんでいる。肌がぷるぷるになった。


【ドラゾン師匠】

 弟子の危機にも気付かず、病原菌と戦っている。誰も見舞いに来てくれなくて寂しい。桃のゼリーが食べたい。



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