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2:肉屋の夫人と弟子とスパイ

(あれはなんだったのかしら…。)


 肉屋の夫人は、店先で先程見てしまった光景について考え込んでいた。

 数十分前、彼女は主人に頼み忘れていたものを思い出し、慌てて追いかけた。そして見てしまった。主人が突然立ち止まり、若い娘に平手打ちされたところを。更にこちらに走ってきた娘は涙目であった。


(まさか…浮気…?いや、でもあの人に限ってそんな…。ええーでも、明らかにあれは何かあったってことよね…?)


「あら奥さん。今日も良い天気ねー。ちょっと暑いかしら。」


(いきなり道端で知らない男を叩くなんてことあるかしら?ないわよね?つまり、あの女の子と主人は前から知り合いで…。)


「そういえば、聞いた?なんでも南の方で大きな山火事があったそうよー。いやーねー。水魔法を使える人が殆ど居なかったせいで消火に何日もかかったらしいわ。」


(いつから…?まさかずっと?いや、でもあの人は私のこと…あ、愛ごにょごにょって言ってたし…。そんな嘘つけるほど器用な人じゃ…)


「まったく。ギルドも教会も何してるのよって話よねー。いくら暑いからって水魔法使いを沢山囲む貴族様も…て、奥さん?聞いてる?」


「…え!な、何、です?て、あ、防具屋の…!ご、ごめんなさい。ぼぅとしてたわ。」


 肉屋の夫人は、ようやく目の前で話し続けていた防具屋の常連客に気づいた。あははと誤魔化すように笑えば、常連客は少し首を傾けた。


「珍しいわね。具合でも悪いの?休んだほうが良いんじゃない?ご主人はどうしたのよ。」


 唐突に先程まで考えていた人物の名前があがり、少し息を詰まらせた。


「え?ああ、ちょっと買い物をお願いしてるのよ。体調は全然平気よ!全くなんともないわ。ごめんなさいね。」


「そう…?無理はしないでね?私に手伝えることがあったら、遠慮せず言いなさいね。」


「ええ。何かあったら頼むわ。ありがとう。」


 その後、買い物を済ませた常連客は最後まで心配そうにしながらも帰っていった。


(いけない。いけない。こんなことじゃだめよね。気をしっかり…!

……まだ帰ってこないのかしら。いつもより遅いような…まさか…。)


 常連客とのやりとりでしっかりしなくてはと考えた肉屋の夫人であったが、それでも少し経つと、また思考の堂々めぐりに陥ってしまっていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 1人の少年が道を走っている。服は煤で汚れた作業着で、頭にはタオルを巻いている。右手にはカゴ、左手には袋を握りしめて一目散に肉屋に向かっているところだ。


(やばいやばい。今日は肉料理ってこと忘れてた!急いで買って作らないと!)


 少年はこの街のある鍛冶屋の弟子だ。その鍛冶屋は気難しいことで有名で、自分で決めたことは曲げない性格の持ち主だった。

 今日はその鍛冶屋が決めた3日に1回に肉の日だ。食事はいつも弟子が作っているのだが、晩御飯のメイン食材は日によって決まっており、それを破ると酷く叱られてしまう。なのに少年は肉の日のことをすっかり忘れてしまっていた。晩御飯をつくるギリギリで思い出せたのは僥倖だが、このままでは準備が遅いと叱られてしまう。


(あ!肉屋のおばちゃんだ!よし、後は簡単な料理にすれば間に合いそうだ。)


 なんとか肉屋に辿り着いた少年は肉屋の夫人から肉とお釣りを早々に受け取り、また走り出した。


(よし、なんとか間に合…?)


 先程受け取ったお釣りを袋にも入れずに握りしめていた少年は、嫌な予感を抱いて立ち止まり、恐る恐る左手を開けた。


(お、お釣りが…多…い?)


 いつも同じ肉を、同じ金額だけ買っていた少年はお釣りが10コル(日本円で約100円)多いことに気がついた。

 たかが10コル。されど10コル。普通の人ならば、後で返そうと考えるだろう。ちょっと悪い人ならネコババしてしまうだろう。

 しかし、この少年は善良で小心者だった。


(ど、どうしよう!返しに行かないと…!ああ、でも遅くなったら怒られちゃう。いや、この10コルが無いせいでおばちゃんが困るかも…。)


 うんうんと悩んでいた少年であったが、この悩んでいる時間が勿体無いと気づくと、勢い良く身を翻した。


 次の瞬間、少年の目の前は黒く染まった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 時は少し戻る。

 急いでいる少年の後方には、急いでいるローブ男がいた。

 この男は黒のローブを着ているいかにも怪しそうな男であったが、魔法使いにはこのような格好をしている者も珍しくないため特別、人の目を集めることは無かった。


 それがこの男の狙いだった。


(くそっ!何でよりによって今日なんだよ!早く、早く魔王様にお伝えしなければ!)


 そう。このローブ男は人間の国を探るために王宮の使用人として働いていた。有体に言えばスパイだった。

 勿論、こんな重要な仕事に1人で就くことはあり得ない。本来であればあと2人、ベテランの魔人がいるはずなのだが、


(ああ!もう!通信魔法使えるダークアイ先輩は有給とってるし。空飛べるドラゾン師匠は風邪ひいてるし!なんでだよ!普通1人ダウンした状況でそのまま休むか!?ちくしょー!!)


 悪い偶然が重なり、今日は、まだ経験の浅い彼1人だった。


 昨日の、「ごめんねー」とは言いつつ半笑いだった一つ目の先輩を思い出して心で悪態をついていたローブ男は前方で立ち止まった末、突然振り返った少年に反応しきれなかった。


「うわっ!」


「…っ!チッ…!」


 ドン、と軽く少年とぶつかってしまったが、先を急いでいるローブ男はそれに舌打ちで返し先を急いだ。



 後ろから少年の謝罪の声が聞こえた。

適当な人物紹介?


【肉屋の夫婦】

 その後、お土産を買ったことで余計不信感を持たれたが、パンツ事件の一部始終を見ていた防具屋の子供のおかげで誤解は解けた。追加で平手打ちを貰った主人は暫く妻は冷たいだろうと思っていたが、夫人の方は夫と別れるかもしれないと思ったことでデレ期に突入した。近々家族が増えるかもしれない。


【鍛冶屋の弟子】

 案の定、晩御飯は遅れて叱られそうになったが、肉屋のおばちゃんが持たせてくれたコロッケで事なきを得た。厳しい師匠の扱きに挫けそうになることもあるが、一流の鍛冶屋を目指して頑張っている。


【鍛冶屋の師匠】

 生来の気難しい性格のせいで人が寄り付かないことが自業自得とは言え実は寂しい。そんな自分にも嫌々でも付き合い、追いつこうとしてくれている弟子が可愛くて仕方ない。不器用ながらに、弟子の為に技術を授けようと頑張っている。その分修行は厳しくなるので、愛情は中々伝わらない。コロッケが好物。


【ダークアイ先輩】

 一つ目の魔人。仕事を下っ端に押し付けて、温泉に入りに出かけた。とても良い湯で満足。


【ドラゾン師匠】

 ドラゴンでゾンビなローブ男の師匠。空を飛んだ時に木に引っかかり肉が薄くなってしまい風邪をひいてしまった。ゾンビでも風邪をひくことに驚いている。薬が使えず長引いてしまっている。桃が食べたい。


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