死んでるから。2
前回の短編の続編を書いてしまいました。長くてすみません。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
「青柳二美さん、貴方は死んでいます。」
「おやおや、そうかいそうかい。死んじまったかい。てっきりお迎えは伸二さんが来てくれると思ってたんだけどねえ。」
皆様、初めまして、お久しぶりです。一昨日ぶりです?遠藤晴香です。今日は通知課初仕事で、目の前にいらっしゃる小柄なおばあちゃんが対象者です。・・・昨日一日軽くお勉強した後、早速仕事って無茶ぶりだな、おい。まあ、通知課は人がいないので、早く現場に出てほしいのはわかるんだけどね。
「いえいえ、私は貴方に死んでいることをお知らせしに来ただけで、案内のものは別に参ります。」
「そうかいそうかい、わざわざすまないねえ。」
「お気になさらないでください、しご」
「二美~~!!」
「伸二さん!!」
仕事ですからって言おうと思ったんだけど、もう伸二さん来たんだね、早いね。しかも伸二さんに名前呼ばれたらすぐにおばあちゃんがきれいなお姉さんになったよ。魂マジックすごいね。魂の姿かたちは別に一定していないって勉強したけど、こうも目の前で一瞬で変わると驚くわ。
ひしっと抱きしめあっている二人を見つつ、生前ですらこんなラブシーン縁がなかったな、なんて思ってると、伸二さんのすぐ後ろからスーツを着たキリっとした男性がこちらに来た。案内課の人だ。
「通知課、遠藤です。」
「案内課、三森です。」
「対象者、青柳二美さん、よろしくお願いします。」
「対象者、青柳二美さん、確認しました。」
人違いをしないように、双方で声を出して確認。さて、仕事終わり。早々に帰ります。定時で☆
・・・・・
「通知課、遠藤、青柳二美さんを案内課へ引き渡しました。」
「はい、お疲れ様。初仕事はどうでしたか?」
「緊張しました。制限時間も気になるし。」
通知課に帰り、課長に報告をしていると、須賀先輩が帰ってきた。
「通知課、須賀、対象者6名終了。」
「はい、お疲れ様。」
報告の仕方が雑だと思うのは私だけだろうか。それとも、何人も対象者がいるときは個人名称は出さないんだろうか?その辺は後で聞いてみよう。
「遠藤、仕事終わったか。時間はどうだった?」
「それをこれから聞くところだよ。」
「遠藤さんは優秀ですよ。時間ピッタリでした。」
「初めてで制限時間超えないとか、すごいな。」
「私、生前もデキる女だったから。」
「デキる女なら先輩に敬語使えよ。」
「ああ、すみません、先輩、つい敬語使うの忘れるんだよ。あれかな?初対面の印象が悪すぎるのかな?」
「謝っただろ?ちゃんと。」
「それとも、先輩の口の悪さが早々に後輩にうつったのかな。」
「ケンカ売ってんのか。」
そんな言い合いをしている部下をにこにこと見ている課長。あ~和むな、この職場。
「腹減ったな。食堂行くか?」
「初仕事のお祝いにおごってくれるんですか?須賀先輩。」
「こういうときだけ、丁寧な言葉使うな、お前。課長におごってもらえ。」
「課長は愛妻弁当をお持ちじゃないですか。」
言葉に詰まる須賀先輩と歩き出す。
「そういえば須賀先輩は愛妻弁当作ってくれるような相手いないの?」
「この口の悪さと目つきの悪さでいたら奇跡じゃね?」
「あー。大変失礼しました。」
「何でそこで敬語だよ!同情か?」
先輩はパーカーにジーンズというラフな格好だ。仕事に普段着とか生前の影響もあり、私には考えられないんだが。通知の時だって喪服着るのかとか思ってたら、そんな堅苦しい格好で行ったら相手が警戒するだろと言われた。なるほど、と納得して明るめな色のワンピースにしてみた。
でも今日会った案内課の三森さんも、マニュアル君だってスーツだった。なら、通知課だってスーツの方が・・・あ~須賀先輩が着たらそっちの世界の人だと思われちゃうよね。うんうん。
「何でほっぺた引っ張るの、痛い。」
「なんかムカつくことを考えられた気がする。」
「ひどい、気がするとかで女の子に気安く触るなんて、えーとあれだ!なんか今名前出てこないけど、かなり騒がれる・・ナントカメントだ!!」
「セクシャルハラスメント、セクハラだろ?何で一番使う機会がありそうなお前が名前出てこないんだよ。」
「う、だって、生前の会社は人との交流なんてなかったんだもん。ただひたすら終わらない仕事を黙々とやってたんだよ。セクハラとは縁がなかったんだ!!あれ?いいことなんじゃない?」
「そういや、そうだな。」
なんだかんだ言いつつ食堂に着くと、須賀先輩はおごってくれた。いい人!
「遠藤、あっちに俺の同期がいるから、そこに座るぞ。」
「了~解~、あれ?先輩の同期って案内課の三森さん?」
「知ってるのか?」
「さっき対象者を預ける相手が三森さんだったんだ。」
「なるほどね、三森なら仕事できるし、どこぞの坊主君と違って時間にも正確だからな。お前が制限時間内にできたのは相手が良かったのもあるな。」
「まあ、私もそう思う。」
三森さんの近くに行くと、須賀先輩に気付いて手をあげてくれた。
「三森、お疲れ。」
「須賀もお疲れ様。通知課の遠藤さんだったね?お疲れ様。」
「お疲れ様です、三森さん。今日はつつがなく引継ぎをしていただけたので、時間ピッタリ、定時に仕事が終わりました。ありがとうございます。」
「俺からも礼を言う。ありがとな、こいつ、初仕事だったから心配だったんだけど、三森が相手でよかったわ。」
「そうか、あれが初めての現場だったのか。やっぱり通知課はレベルの高い人材が配属されるんだな。」
「え?レベルが高いんですか?あの、私、『窓際』だって聞いたんですけど。」
おかしいと思ったんだ。『窓際』ってあんまり仕事のない場所に左遷された人がいるってことだよね?通知課って結構忙しいし、それを2人で回してたわけでしょ?仕事できない人が働けるところじゃないよね。やっぱり会社の中で窓際に位置してるってだけの話だったのか。
「ちなみに、そんな話をお前にしたのは誰だ?」
「マニュアル君。」
「あいつか、あいつほんとに駄目だな。」
「あいつというのは、あいつか、須賀。」
「そ、お前も大変だな、三森。」
須賀先輩があいつと言っただけで三森さんがわかるのは、それだけ話題に上ることが多いのだろうか、ダメダメ的な意味で。
「そうか、遠藤さんはあいつが担当だったな。うちの部下がすまなかった。」
「部下ですか?」
「直属の部下だ。」
「お疲れ様です。」
そうとしか言えない。一気に疲れた顔になった三森さんの肩を慰めるように須賀先輩が叩く。そしてその後いい笑顔で、
「俺、お前が部下で本当によかったわ、遠藤。」
と言った。比較対象がマニュアル君だけど、喜んでいいんだよね?褒められてるって思っていいんだよね?
「他の課の新人は通知課を『窓際』だと誤解しやすい。案内課とかに比べて仕事が少ないからな、うちは。だけど、それは課長が死んでることを知らせなきゃならねえ対象者を絞ってるからだ。案内課は死んだやつ全員が対象になるから、特に案内課のやつは『通知課は仕事が少ないから、人も少ない』と思いがちなんだ。」
「そう。そういう誤解をする。新人はね。」
「・・・坊主君は何年目だ?」
「・・・20年はたってると思うが。」
うん、ダメダメだね。私の担当の時だって、遅れてきたのは前の仕事が押したからだと思ってたら、単にデートしてて時間過ぎちゃったって聞いたときは、そんなんで私の身に危険が迫ったのかと怒りが湧いてきたし。というか、昇格以前の問題じゃない?そんな人が部下、三森さんも大変だ。
でも他人事だと思ってられないよね、マニュアル君に引き継ぐことだってあるんだし。・・心配になってきた。くぅ。せっかく第二の人生、好調スタートだと思ったのにぃ!!
書き忘れましたが、お迎えに行きたい人は、申請すれば案内課の人についていくことができます。
読んでいただき、ありがとうございました。