第8話「わがいほは」
第8話「わがいほは」
試合を邪魔してしばくぞといわれた部員らしき男子は畳のすみに小さくなって座っていた。制服の胸ポケットのネームバッジに入ったラインは赤色だ。ラインの色は学年を表す。赤色はひとつ上の学年だ。そして、そのバッジには「大江」と書かれていた。大江さんと言うのか……
優は試合が終わってからその大江さんに話しかけることにした。
「あの……部員の方ですか?」
大江さんはじっと優の顔を見た。そして、入ってきたときの勢いはどこにいったのか、か細い声で
「ああ、そうや。俺は大江文や。最近部活来てへんかったけど、一応部員や」
と答えた。すると、美雪さんが
「一ヶ月も部活に出てこんと何しててん」
と言いながら大江さんの頭をぱしっとはたいた。うー……と頭を押さえて、
「悪かったよ……」
と子供のように拗ねて言った。うーん、この人の性格つかめそうで掴めないわ……。優はそう思った。
大江さんとしばらく話して打ち明け始めたので優は天津先輩に
「そういや、部員はうち何人いいるんですか」
と聞いた。
「うちには俺ら三人以外にあと一人おるんや。また、全員そろって自己紹介せなあかんな」
と、先輩は答えた。ちょっとまてよ、優はひとつ疑問が浮かんだ。
「あの、かるた部って今年の四月に同好会から部活に昇格したんですよね」
「そうや、今年からやな」
先輩は何故そんなことを聞くのかというふうな顔で優を見た。
「部活に昇格する条件って五人ですよね。僕以外の部員は今四人じゃないですか。なんでですか」
そう、優はそのことが気になって仕方が無かったのだ。先輩は驚いたか痛いところを突かれたかというような顔をして
「ああ、一人は部活に昇格してから辞めたんや」
と落ち着いて言った。
「本当は同好会に戻る決まりなんやけど、猶予期間でちょうどお前を部に引き込んで五人にすることができたんや」
そう言う間、先輩は終始晴れない顔を見せた。その顔の横から覗くようにして見える美雪さんやその横に座っている大江さんの表情もどこか寂しげだった。
梅雨も近く五月の夕日は静まった教室を赤く照らした。
つづく
ここまで書いて気づいたんですがまだ美雪さんの名字は書いてなかったんですよね……
かるたやったり百人一首を覚えさせられたりした人は安易に想像できる名字ですよ笑