第6話「かささぎの」
第6話「かささぎの」
読まれる。下の句と次の上の句との約一秒の間は普段の一秒よりも長く感じた。
――す……
そう読まれた瞬間二人の手は優の自陣の右にある『ゆめのかよひち……』の札に向かって伸びていた。しかし、先輩の方が優よりも先に札に触れ、二文字目が発せられる頃には既に札は外側へと弾かれていた。
「はええ……」
思わず優は口にした。先輩はふふっと笑って
「取れるもんならとってみぃ」
と、挑発してきた。正直腹たった。絶対取ってやる。優は集中しろと自分に言い聞かせた。そして、先輩は札を一枚こちら側に送ってきた。
「これ、送り札や。敵陣をとったら相手に一枚送るのがルールや。お手つきの時も一緒な。んで最終的に自陣の札が無くなった方の勝ち。わかった?」
優はこくんと縦に頷いた。送られてきたのは『くもかくれにし……』と書かれた札だ。黒板を見れば『め』と読まれたら取れる札らしい。優は自陣の右に並べた。
――夢の通ひ路 人目よくらむ
前の取り札の下の句が読まれる。次の取り札はこれに続いて読み上げられる。さあ、集中。
――さ……
相手の陣の右や!そう優が思って札を見る頃には札は払われた。早い。札にまるで届かない。どうすれば届く……。
――いづこも同じ 秋の夕暮れ
例により下の句が読まれる。読み終わって次の札への一秒の間で優はぐっと前のめりに出た。
――う……
敵陣の左側には『こひにくちなん……』つまり『うら』で取れる札があった。優は耳を研ぎ澄ます。わずか零コンマ何秒の出来事だった。
――r……
優は一瞬R音が聞こえたような気がした。優は札を取りに手を伸ばす、先輩も反応する、『うら』の札は他の札二、三枚一緒に先輩の後方へと飛んでいく。先に触ったのは優の方だった。
「やられたわ」
先輩は笑って悔しそうに言う。
「今のどんなけ早いねん。ちゃんと音聞いてたんかいな。まあええわ、とりあえず敵陣ぬかれたから送ってきて」
しかし、札を二、三枚まとめて飛ばしてしまっている。お手つきかと優は思った。
「お手つきやないんですか?」
先輩はしまったという顔をして、
「ああ、いうの忘れてたわ、かるたは出札と同じ陣にある札はどれ触ってもいいねん。今のはこっちの陣やったからこっちの陣の札をどれ触ってもお手つきにはならんよ」
そんなルールがあったのか。早く言えよ。優は心の底からそう思った。
結局、勝負は先輩の大差で負けた。4枚差である。つまり、取れたのは『うら』しかなかった。
「なあ、村霧。かるた面白かったか」
先輩は優に問いかけた。確かにやってみると一瞬の間に行われる勝負はとてもワクワクするものだった。さらに言えば、あの『うら』をとれた時の快感はまだ脳裏に焼き付いたままだ。
「楽しかったです」
そう一言言った。先輩は嬉しそうに返す、
「かるた部入らへんか」
かるた面白そうやんか。地味な部活じゃない。思ってたのと全く違った。青春をかるたに捧げるのも悪くない。昨日までの優のかるたの固定概念はすっかりどっかに行っていた。
「もちろん、入ります!」
つづく
作者のあまがえるです。
かるたで敵陣を抜くことはサッカーで言えばゴールが決まる、野球で言えばホームランみたいな喜びでそれが一試合で何回も味わえるのはかるたの魅力だとおもいます。