第2話「はるすぎて」
第2話「はるすぎて」
一日たっても優の気持ちは変わっていなかった。まあ、変わるはずもないのだが。とにかく先輩に言ってしまったものは仕方がない。部活を見に行かねばならない。先輩に来いとよばれて行ったのは北校舎の四階にある家庭科被服室だった。この部屋は学校の端っこにあって、優はもちろん他の人も特に用事がなければ来ない様な所だ。さらにいえば、端っこの教室なだけあってそこにいくのも面倒くさくなるほどだ。空き教室はいっぱいあるんだから、使いやすい教室にすればいいのにと思った。
そうこう考えているうちにかるた部と書かれたプレートが釣り下がっている家庭科被服室についた。アルミでできた扉のむこうからは、バンバンと何かを叩くか落とすかしている音がする。かるたやろ?なんでそんな音するんや。そう疑問に思って扉の前で突っ立っていると聞きなじみのない歌が独特な調子で読まれ始めた。
――難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今を春べと 咲くやこの花
そう読まれた瞬間扉の向こうはしんと水をうったかのようにさっきの音は止み、静まり返った。そして、下の句がもう一度繰り返されたあと、だいたい一秒くらい静寂に辺りはつつまれ、優の唯一知っている歌が読まれた。
――あきの
四文字目も聞き取れないうちにバンッというさっきの音に似た何かを叩く音が聞こえる。我が衣でに、と詠まれ始め、優は少し気になり少し扉を開けた。
そこでは、札が空中を舞っていた。
つづく
閲覧ありがとうございます。
札が舞うというのは、僕自身が初めて競技かるたを見たときに感じたことです。
それで、かるたに惹かれました。