悪役と呼ばれた彼女
もし、雅が転生しなかったら………というif ver.です。
贔屓目に見ても、面白くはないですが……個人的には満足ですww
彼女は、とても美しい人だった。
他の言葉などでは彼女を表すことなど、出来ない程に。
……彼女は、美しい人でしか、なかった。
決して、喜ばず、笑わず、怒らず、悲しまず…………まるで、ビスクドールの様に。
ただただ美しく、ソコに在る人形だった。
人形は、薔薇王の、婚約者だった。
薔薇王は、冴えざえと美しく、気高い人だった。
家が決めた婚約だったが、並んだ二人は誰が見ても似合いで、そこに疑問を挟む者は、居なかった。
……が、薔薇王には、愛する女性が居た。
薔薇王に愛されたその人は、笑顔の愛らしい女性だった。
女性もまた、薔薇王を愛していった。
薔薇王と女性は、様々な妨害ーーー主に、人形を敬愛する一派の仕業だったーーーを受けた。
人形は、その事を知っていた。
けれど、何もしなかった。
ソレに加わることなく。
かといって、諫めることもなく。
……ただ、そこに在った。
そんな人形を中心に据えた歪な一派による、様々な妨害を乗り越え、薔薇王と女性愛を確かめあっていった。
………そして、あの日を、迎えた。
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「――篠宮雅………今日をもって、俺達の婚約は破棄する――」
薔薇王ーーー斎条要は、力強く、重々しく………何かと決別するかの様に、その言葉を発した。
「ーー俺は、お前ではなくこいつと、未来を共にしたいんだーー」
こいつ、と呼ばれた女性ーーー青蘭紀伊はその顔に強い意思を浮かべ、薔薇王のへと歩み寄った。
「………そうですか、承知いたしました」
人形ーーー篠宮雅は、その美しい顔を歪めることなく、どころか何の色をものせることなく、淑やかに頭を垂れた。
双方の発言に驚く者、薔薇王と女性を睨み付ける者、気遣わしげな目で人形を見つめる者ーーーその場の全員が、息を潜めて次の動向を伺った。
ーーー人形が顔を上げた瞬間、その場の全員が目を見張った。
人形は、微笑んでいたのだ。
誰も、人形が微笑んでいるところなど見たことはなかった。
その笑みは神々しい程に美しくーーーだからこそ、解せなかった。
何故、人形が笑っているのかーーー。
………誰も、わからなかった。
人形はその透明な瞳で薔薇王と女性を見据え、艶やかな口を開いた。
「…………私はーーーーー」
そうして二人に美しい所作で再度頭を垂れ、その場から立ち去った。
ーーー数日後、人形は………姿を消した。
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雅にとって、要は鎖だった。
存在理由、と言っても良かったのだろう。
何故なら、雅は、篠宮家にとって、一つの駒にすぎなかったから。
駒であることしか望まれなかったから、雅は駒になった。
駒であるために人形になることを望まれ、人形になった。
自由を捨て、感情を捨て、自分を捨てーーーそして、人形になった。
雅は、正しく人形だった。
要との婚約の為だけの。
………だから、もう、雅には理由がなくなったのだ。
駒としての価値がなければ、雅には存在理由がなかったから。
もう、人形である必要もなかったから。
雅は、生まれて初めて、自由になった。
………けれど、雅は、人形でありすぎてしまった。
人間とはどうすれば良いのか、どうすれば人間なのか………雅には、わからなかった。
だから、雅は、人形として、自由になることにした。
役割がなくなった人形は、壊れるだけーーー。
初めて手にした『自由』ーーー雅はそれを感じながらーーーーー
結末は、ご想像にお任せします。