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騒動は突然やってくる

 今日は王宮に行く用事もなく、丸々お休みをもらっている。

 ジョシュアとシンと三人で市場に来ていた。


「ん?サーヤじゃないかい!?最近顔を見なかったからどうしたのかと思ったよ」

「ごめんごめん。王宮に呼ばれててね」

「サーヤ!上の息子が今度北に仕入れに行くんだけど、また守り石つくってくれないか?」

「いいよ。もうストックがあるから後で家に寄んな」

「すまねぇな!何か持っていくよ」


 歩く度に声をかけてくる街の人達、陽気な連中が多くてバシバシと叩かれた背中が少し痛い。

 ここに来てから最初は遠巻きだった彼らも、私が主に魔法のことで手助けしたら何のことはなくすぐに受け入れてくれた。


「サーヤはすぐ皆と仲良くなるねぇ。すごいねぇ!」

「すごくない。この世は持ちつ持たれつなんだ。誰かが困っていたら自分ができる範囲でいい。助けてやれ。その人からじゃなくても絶対に返ってくるから。分かった?」

「うん」


 素直な養い子の頭を撫でてやると、ふにゃあっと笑って腰に両腕を回して抱きついてきた。


「今日のご飯はチーズフォンデュにしようか」

「本当!?やったぁ!」

「チーズと牛乳買って…パンは家にあったよな」

「ねぇねぇ、お菓子買ってい?」

「あぁ、三つまでな」

「わーい!」


 駄菓子屋の階段を上がり、ドアの前で私を手招きしてはしゃぐジョシュア。店番はいつも優しいおばあさんなのでいささか人見知りの気がある彼もなんの気兼ねなく店のドアを開けた時だった。


「出ておいき!そして二度と来るんじゃないよ!!」


 いつもの優しいおばあさんはどこへやら。怒り狂った本人が誰かを店から押し出した。


 ドンッ


「うわっ!」


 小さなジョシュアに二人とも気づかなかったのか、押し出された誰かに巻き込まれ、ジョシュアの体は階段から足を滑らせて宙に浮いた。

 しかし、その体が地面に叩きつけられることはなかった。


「あ、ありがと~」

「どういたしまして」

「たまには役に立つな、シン」

「たまにじゃないでしょ。失礼な」


 私が動くよりも先にシンが階段下に体を滑り込ませ、ジョシュアを受け止めた。


 さて。無事だったから、で済ませられるわけがないよな?


「あぁ、ジョシュア!大丈夫だったかい?すまないねぇ」

「おばあさん、どうしたの」

「サーヤもすまないね。……なんでもないよ。さ、今日は怖い思いをさせたお詫びになんでも持っていきな」

「だって!サーヤ、行こ!」

「おばあさんと一緒にお菓子を選んできな。後から行くから」

「置いて帰らないでね?」

「帰らない。さ、行っといで」


 背中をポンと押すとジョシュアはおばあさんに手を引かれ店の中に入っていった。


「…………待ちな」


 どさくさに紛れて逃げようとしている先程の人物の肩をしっかりと掴み、目深にかぶっているフードを頭から下ろした。


「どうして神殿にいるはずの君がここにいるの?」

「ご機嫌よう。ゆりあ、メロンパンが食べたいって言ったのに、ここの世界の料理人てば、メロンパンを知らなかったのよ!?」

「そりゃそうでしょ。ここには菓子パンていう概念すらないんだから」


 パンはパン。あってサンドイッチくらいのもの。それがここでのパン事情だ。

 それを知らずに半年もいたのか。来て半月の私だってここのことまだよく知ってるよ。

 無知は罪である。昔の誰かがそう言ってたような。まさしくその通りだね。


「それでね、むかっときて家出してきちゃった。あなたの街にも行ってみたかったし」


 テヘッと舌を出して笑う彼女にその舌を引っ掴んで投げ飛ばしてやりたくなった。無責任すぎる。あまりにも酷い。


「むかっときてじゃねぇよ」

「え?」


 その時、市場が俄に騒ぎだした。

 どうしたと聞くと予想通りの言葉が返ってきた。


「巫女姫が消えたらしい。護衛騎士達は厳罰を与えられるみたいだ」

「…………え?」


 思いもよらなかったのか?そんなきょとんとして。本当に、少しも。


 もしそうなら………


「もう神殿に戻った方がいい」

「………大丈夫よ。彼らのことはゆりあが許してくれるように頼んどくから」


 …………………もう無理だ。


「あのね、ここが乙女ゲームの世界で自分が主人公?別にそう思うのは勝手だけどさぁ。………いい加減現実見ろ。周りを巻き込むな」

「え、でも…本当のことだし。巻き込んでなんか……」


 ぶつぶつと小声で反論してくるくせに目を見ようとはしない。あまりにも幼稚すぎる彼女の行動にもはやなんの言葉も出ない。


「サーヤ!」


 市場に来てすぐ声をかけてきてくれたおばさんが私の姿を見つけて駆け寄ってきた。かと思うと地面に膝まずき、泣きながら懇願してくる。


「お願いだよ!うちの息子を助けておくれ!!やっと騎士になったというのに死罪になるかもしれないなんてあんまりじゃないか!!!サーヤ、あんたしか頼める相手がいないんだよ!」


 そういえば彼女の息子はこの間の叙任式で神殿騎士になっていた。巫女姫付きになっていたなんて…なんて不運な。


 要人が消えたとなればその罪は警護をする護衛にある。巫女姫では神殿騎士がその護衛を勤めている。しかも巫女姫の場合、他国へ連れ去られた場合の損失は大きい。死罪という噂が流れるのも無理はない。


「分かった。分かったよ。王宮に今から行くから、その間ジョシュアを預かってくれる?今、ここの店の中にいるから」

「ありがとう!本当にありがとう!!ジョシュアのことは任せな!ちゃんと世話しとくから!!」

「あんたも一緒に来な」

「え、きゃっ!」


 おばさんの泣きながらの嘆願に狼狽えたのか遠巻きに見ていたゆりあの手を掴み、転移陣の中に無理矢理連れ込んだ。



 着いた先は王の間。突然の出現に驚いた王の顔と超絶不機嫌なシーヴァとユアンの姿があった。


 嘆願っていうのはさ、やっぱりトップに直談判が手っ取り早いよ。

 今回は人の命かかってるんで。こんな勘違い娘のために悲しむ人がいるなんてのはいけない。断じて許せん。


「陛下。お話合い、しましょうか」


 にっこりと営業スマイル浮かべさせていただきました。

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