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強情な人ほどチョロいんです






「よいしょっと」



 学生もどきの男を周りに人気のない東屋まで引っ張っていく。もちろん体重を軽減する魔術をかけたうえでだ。体重を考慮に入れないのならば、後はどうとでもできる。世の中の女性は男達が思うほどか弱いばかりじゃない。

 それに、足に縄つけて引きずり回さないだけ良心が私にもあったと褒めて欲しい。悪目立ちするのが嫌だというのが本音なんかじゃあ、ない。


 そのまま、肩を押さえつけ、椅子に座らせた。体重軽減の術を解き、今度は膝の上に重石を乗せたような半金縛り的な術をかける。男がなんとか解こうともがいている間に私は向かい側の椅子に腰かけて、手を組んでその上に顎を乗せた。



「で?」



 さぁ、聞く準備はできたからなんでも話してくれていいよ?


 というか、話してくれないと困るんだけどねぇ。



 だって、そちらに王太子の護衛という使命があるように、こちらにも宰相閣下と神官長様にご報告という使命がある。


 だから、そんな叱られる前の子供みたいに逃げることなど赦さない。



「あ、貴女に話すことなど何もないっ!」

「へぇー、そう。でも残念。私には話させたいことがあるんだよね」



 私に魔王サマ方への拒否権がないのと同じように、今のあなたの私への拒否権は無効とみなしていきますよっと。



 いやでも、剥奪しないだけ私の方が良心的だ。


 私なんか知らぬ間に自分の拒否権なのに存在を抹消されたからね。


 哀れな私の拒否権。さようなら拒否権。対魔王サマ達相手では二度と再会はできないと覚悟してる。



 それにしても、王太子付きの隠密である彼、ローランドは顔にもでているけれど、とても真面目で融通がきかず主君第一主義者っぽい。


 絶対に話すものかという意気込みが見て取れた。



「貴女は宰相派だろう?」

「宰相派? なにそれ」

「しらばっくれても無駄だ。異世界から来た魔術師は宰相と神官長の手駒だと聞いている」

「へっえぇー。誰から?」



 宰相派っていう聞き慣れない単語は脇にいったんおいといて。


 聞き捨てならないことを追求するのが先決だよね?



 ニコリと笑うと、ローランドは身構えた。



「……誰からでもいいだろう」

「よくないよくない。自分達が言う分にはその通りだから別に構わないけど、他人から言われるとムカつくんだよね。だからちょっと黙らせてくるからさ。教えて?」

「い、や、だ」

「口が固いのか軽いのか分からない男だね。まぁ、いいや。それもおいおい聞くとして」



 こっちはユアンから頼まれていることではないけど、いい機会だし。


 いい情報源が目の前にいるなら使わない手はないよね。



「例の街に出てる魔物の件を知ってる?」

「魔物? ……あぁ、あの件か」



 ローランドは一瞬眉をひそめ、思い当たったのか一人で納得している。



「なんでそっちは報告しないの?」

「なにを言うか! ちゃんとかかさず報告している!」



 心外だとローランドが噛みつかんばかりに吠えてきた。



「でも実際には上がってないよ? 私もこの国に来てすぐに聞き込んだ屋台のおっさんに初めて聞いたし。だから知らないんじゃないかなぁ? まぁ、ユアン様は知ってて私には言わなかったっていう線もあるけど」

「どうせ後者だろう。宰相も神官長も王太子殿下に対してすら不敬が過ぎる。貴女にならなおさらに違いない」



 フンと鼻息荒く、ローランドはそっぽを向いてしまった。



 まぁ、そんな感じだよね、うちの魔王サマ達は。


 うんうん、その点には完全に同意するしかない。否定なんて心にもないこと、できないできない。



「うーん。ま、一応私からも報告しとくわ。念のためね」

「好きにしろ。それよりも、これを解いてくれ。自由がきかないのは落ち着かない」

「いいけど。さっきの質問に答えてからね?」

「さっきの質問?」



 ローランドは何の事だか分からないのか、軽く首を傾げた。



 おいおい、酷いな。ちゃんと聞いたってのに。


 仕方ないからもう一度聞いてあげよう。



「誰が手駒だと言ったって?」

「……言わん!」

「はー強情だね。これを見て」



 強情なのも時と場合によっては良いのかもしれないけど、今はとっても面倒くさい。



「次はこれ」


「その次はこれ」


「はい、ぐるー」



 人差し指の先を見るように言って、順番に動かしていく。



「言ったのは?」

「オルコットだ」



 口にした瞬間、ローランドはアッと声を漏らした。



 術で軽い催眠状態にかけて口を割らせたんだけど、これがまた面白いくらいに上手くいくなんて。


 なんてチョロイ奴。


 今までの強情っぷりがあった分、余計にあっけなさすぎて笑える。



「へぇーオルコットさんねー」

「くそっ。こうなれば腹をかっ(さば)いて」

「待った待った。今、自由きかないんだからできないでしょ」



 指を鳴らして術を解こうと指を準備したらその手を上から掴まれた。



「止めて! そこは止めて!!」



 首をすごい勢いで振って訴えてくるのは人の姿が他にないのをいいことに姿を現したシンだった。


 何もない、誰もいないはずが、突然姿を現したせいでローランドが目を見開いて驚いている。



 ……あ、そうだ。



「シン、いいところに来た。ちょっとお使い……はダメか。行き先が二人のところじゃ絶対に後で怒られる」

「お使いするから、そういう斜め上の発言はやめて!」

「斜め上ならまだいける」

「どういう基準なのさ! ちょっと僕はついていけないよ」

「大丈夫。神っていう時点で斜め上の存在」

「は!? 神だって!?」

「そういう意味じゃ……どういう意味!? 完全な上じゃなくて斜め上っ!?」



 打てば響く答えに私もクセになってるのかもしれない。


 ついついシンに対して面白い返事を期待してしまう。



「……貴女は神に対してもそんな態度なのか」



 私が自分よりもさらにシンを雑に扱っているからか、ローランドが信じられないものを見る目で見てきた。



「うん。わりと最初から。だって私をこっちに来させた主犯だし」

「いや、最初もっと酷かったから。土下座とかさせられたから」

「どげざ?」

「あ、土下座っていうのはね、地面に(ひざまず)いて頭を下げることだよ。礼拝してる信者から似た格好をされることはあってもしたことはなかったなぁ」

「初めて奪っちゃった」

「黙って。ほんと黙って」



 私とシンの掛け合いにローランドは軽く引いている。


 軽くだ軽く。


 目の前で実際には顔が引きつるほどドン引きされていても、私が軽く引かれてると思えばそれは軽く引いているのと同じことだと思うね、うん。



「さて、お遊びはこれくらいにしておいて」

「遊ばれてたんだ。僕、遊ばれて……ってどこ行くの?」



 立ち上がった私をシンが引き留めた。



 シンってば、留めてくれるなよ。


 これからちょっとばかし忙しくなる予定なんだから。



「オルコットんとこ。市中引き回しの刑に処してくる」

「だーかーらーぁ!! やめてって!」

「市中引き回しって意味知ってるの?」

「君が言ったことは全てとんでもない悪事に聞こえるようになったの!」

「とんでもない耳の悪さだね。ご愁傷様」

「……魔力没収してやろうか」

「いいけど、そうなった場合、シンの信者の一人一人にシンのあることないこと吹き込んで他の神への信仰に鞍替えを勧めてやる」

「君って善にも悪にもなるコワイ子っ!!」

「い、ま、さ、ら。かっこわら」



 実際問題一人一人は難しいところがあるけど、できる限りやるよ?


 やると決めたらやりますとも!


 それが報復ならなおのこと!!



「あのっ!」



 しばらく黙っていたローランドが大きな声を上げた。



「俺の存在を忘れていないか?」

「……忘れてないよ?」

「目を見て。そして同じ台詞を言ってみてくれ」

「ワスレテナイヨ」

「片言じゃねーか! ……あっ、すまない」



 リュミナリアの真面目な人間は、女子供に対しても丁寧な口調で話す人が多いと聞いたことがある。見るからに真面目なローランドも普段はそうあろうと努めているのだろう。現にさっきまではそうだった。



「素がそっちならそっちで構いません。だって、こっちだって身分的にはおっさんの方が上だけど普通にタメ口きいてるし」

「誰がおっさんだ」

「あ、おっさんNGの人? いいよ、分かったよ。おっさん」

「「分かってねーじゃねーか、おい」」



 まったく別の方向から同じ台詞が飛んできた。


 ローランドではない方を見ると、由貴と一緒に走って行ったはずのおっさんが由貴を連れて東屋の外に立っていた。



「え? もう終わったの?」



 さすがに行ってからまだ全然時間が経っていない。


 意気込んで行ったにも関わらず全く話がきけなかったとかそういう雰囲気ではなく、むしろ聞いて欲しいオーラを由貴は私に向かって振りまいていた。


 いい子だ。いい子だから、その首元に伸ばしてきた両腕の力を少し緩めてくれるとありがたい、かも。




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