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待ってました心友よ

 私は今、とんだ茶番劇の最中にいる。

 それは皆さま御存知の通りだと思われ。


「あれ?こんな展開もあるのね」

「悪くないね」


 ユアンにそう言わしめたのは上出来だろう。国王陛下は頑張った。




 遡ること一時間半前。


「父上!私はここにいるリリアンを…

「皆の者、王命として、王太子と婚約者サイーディル公爵令嬢ステラシアとの婚約を破棄。ステラシア嬢の新たな婚約者を第二王子キドラクとし、キドラクを王太子に、王太子クロードを男爵家へ婿入りさせることとする」

「なっ!父上!」


 途中までは歓喜の目で父親を見ていた子供は絶望の声をあげた。

 待て、何故そこで声を荒げる。君たちの思う通りになっただろう?


「私は王太子の座を譲るつもりはっ!」

「黙れっ!貴様がしでかそうとしていたこと、知らぬと思うかっ!」

「…っ!」


 待て、何故ここでこちらを睨む。一応国王の賓客だぞ?


「父上、私は王太子の座なんか欲しくありません。ましてやこれと婚約など」

「国王陛下、王命をお取り下げてくださいませ!せめて途中の部分だけでもで構いません!どうか御慈悲を!」

「父上、私からは全部撤回をお願いします」


 どうやら(くだん)の公爵令嬢と第二王子らしい男女が猛烈に国王に詰め寄っていた。それを見るからに相性抜群だと思うんだけどなぁ。

 それにしても公爵令嬢はあまりにも急な王命に我を忘れているらしい。貴族として国王に詰め寄るというのはなんとも…あ、ほらたぶん母親が倒れた。


「私達が出る幕はなさそうですね」

「必死だったんでしょうね。他にも各国から招いているようですし」

「特にうちの手前ね。こちらが何か起こるっていうのを知っていることを知り得ているんだから。しかも良からぬことだし」


 とはいえ公爵令嬢達の思わぬ抵抗は予想していなかったんだろう。この展開は予想外だけども、実に楽しい。


「第二王子は武に優れ、騎士団を率いています。王太子よりもよほど面白い外交になりますね」

「ま、王太子にはこのまま王になってもらった方がやりやすくはあったけどね」


 怪しい笑みを浮かべる二人。やだ、なにこれ怖い。


「サーヤ殿。この場をどうにかして欲しい」

「どうにか?どうにかとは?」


 青ざめた王太子がリリアン嬢を連れてこちらにやって来た。


 おいおい。何で私に話をつけれるような権限があると思うのさ。ないね、そんなもん。しかもさっきあなた、こっち睨みつけたの忘れたんですか?鳥頭か。


「私にはどうすることもできません。私の発言した内容が認められているのはリュミナリア国内だけですので」

「そんな…」


 そんな…じゃないよ。なんで被害者みたいな顔になってんの?リリアン嬢。元はと言えばあんたらもあそこにいる令嬢貶めようとしてたじゃんか。立ち位置変わったからって早々評価は変わらないからね?


「私があなた達に言えることは一つだけ」


 二人だけに聞こえるように二人の真ん中に近づくと私はニコリと笑った。


「ざまぁ」


 言い終えるとすっと身を引いてユアン達の元へ戻った。もはやユアン達は王太子、いや、元王太子のことなんか視界にも入れていない。ユアンなんかは本当に楽しい余興の方に夢中だ。


 背後で意味を理解したのか、はたまた意味は分からないなりに侮辱されたのには気づけたのか、元王太子がギャンギャンと吠えていたが気にしない。


「せっかく…せっかく……!」


 公爵令嬢が俯いて肩を震わせたかと思うと次の瞬間、こちらの方に突進してきた。それはもう華麗な令嬢の楚々とした動きは見受けられない。まさしく猪だった。


「あなたねぇ!もっとちゃんとしなさいよ!生半可な覚悟で王太子妃になりたいですなんて馬鹿じゃないの?おかげで私の計画パァよ、パァ!私の、婚約破棄されて領地で領主代行としてバンバン成功するって夢がっ!」


 どうしてくれるのよと憤る令嬢。

なにこれ、いやだ面白い子。ぜひお友達になりたい。


 実際王太子に先んじて婚約破棄されて、国王を認めたらそういう未来もあったかもしれない。でも、少しの間彼女を見てそれはないと思った。国王が手放すわけないもの。こんな王妃の器に十分な素質を持った令嬢、しかも公爵家。優秀な息子が他にもいるならそりゃあすげ替えるわな。


「わ、私だってやれることはやってきました!」

「なによ、言ってみなさいよ。言えるもんならね」


 御令嬢、ステラシアさんと勝手に呼ばせてもらおう、ステラシアさんは完全にぶっ飛んでいた。ここが皆が集まる公の場ってこと、覚えてるかーい?台詞が完全に悪役だ。


「炊き出しや寄付は大切なのは分かるわよ。でもね、重要なのはそれをするための財源。あなた、無制限にお金を払い続けられる程蓄えがあるの?」

「な、ないです」

「でしょうね。今までだってあなたにそう言われて王太子殿下が出していたみたいだし。で!?そのお金は一体どこから?無制限に続けられるものでないならそれはただの偽善でしかないわ」

「……ならばどうすればよろしかったのですか?」

「私達貴族の義務は国を富ませること。その国を富ませるためには何をすればよいか。国民の生活を豊かにすること。そのためには何をすればよいか。それぞれの領地で様々な産業を発展させ、雇用を作ること。我がサイーディル領では新たに茶畑を作り、そこに人を多勢雇ったわ。もちろん雇って賃金払ってはい終わりじゃない。納税分をきちんと民達にも還元し、そこで働く環境を良くすること。当然よ」


 興味なさげに顔見知りの他国の官僚と話していたシーヴァもついにステラシアさんの方に顔を向けた。政策の話になったからに違いない。どこまでも仕事人間だ。


「あなたのしたことはただ民達を堕落させるだけ。誰だって楽な方の道も一緒に提示されればそちらに流れるわ。あっという間にダメな人間の完成よ」


「彼女が公爵令嬢でなければうちの秘書官に欲しかったですね」


 シーヴァがそんなことを言うなんて珍しいこともあるもんだ。リュミナリアは他国と違って実力さえあれば男女関係なく登用されるからねぇ。ステラシアさんが魔王の餌食にならなくて良かったよ本当に。


「しかも極め付けはアレよアレ!あなたのせいで私、アレと婚約させられそうになってるんじゃない!どうしてくれんのよ!」


 心なしか先程よりも声に力がこもっている。余程嫌なんだね、第二王子との婚約。いや、果てに見えるのは結婚だろうけどさ。


 第二王子は武闘派だからといって脳筋なわけじゃ絶対ない。でなきゃシーヴァがあんなこと言わないし。むしろ…あ、なんだろう。ステラシアさん、たぶんあなた逃げられないよ。


「そんなに嫌か?」

「当たり前じゃない!なんであんたなんかと!」

「なら婚約しよう」

「え?」


 あ、あぁー、ほらやっぱり。第二王子とユアンは同類だ。

 他人の嫌がる顔が大好物。真性ドSだ。


「私だって嫌だけど、君の嫌がる顔は昔から悪くない」

「な、な、な!」


 うわーい。心の底からステラシアさんと友達になりたいなー。

 それでお互いに相談しあうんだ。ドSの対処法について。……悲しいな。


「よし、決着はついたな。王命の破棄はせぬ。宰相よ、手続きを!」

「は、はっ!」


 それから私達は第二王子キドラク殿下とステラシアさんと軽くお話し、会場を後にした。やったね!ステラシアさんとお友達になれたよ!無言で理解し合えた私達。お友達通り越して心友かもしれない。


「この国に来た甲斐がありましたね」

「うん。あの宰相、自分の娘がキドラク殿下に対して暴言吐くたび卒倒しそうだったよ。しかも国王に直訴だからね」


 実に面白い余興だったと魔王サマ達はお喜びです。お怒りもどうやら解け…


「さて、それはそれ、これはこれ。しっかりと今後についてご相談しに行かなきゃね」

「そうですね。ここまでにかかった色々なものの精算もしたいですし」


 やっぱり魔王サマ達は魔王だった。そして元王太子とリリアン嬢は最後まで空気だった。

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