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ちょっと待て、色々おかしい

 もー嫌だ。なんで私がこんな目に。


「おい、こら。本気(マジ)でグレて魔王側につくぞ、この野郎」


 ガシャガシャとやかましい鎖の音が狭く暗い牢屋の中に響いた。


 後ろ手に罪人よろしく拘束されているのは我慢の限界というものがある。

 だからここで一つ。脱走というものをしてみようと思うがどうだろうか?そしてそれが成功した暁には、私がここに入ることになった要因を一つずつ消し炭にしていこうと思う。大丈夫。周りに被害が及ばないようにピンポイントでやると誓おう。


「はっ!無様だな!!」

「あ?豚から焼き豚にすんぞ」


 カツンカツンと牢屋の方に向かってくる足音がすると思えば。


 飛んで火に入る夏の虫。ここで会ったが昨日ぶり。

 まさにここに入る要因となった一人が目の前にいる。

 ミルドレッド公爵。奴だけはお天道様がお許しになっても私は許さん。末代までってのは疲れるから奴が死ぬまで祟り続けてやりたい。……それはそれで疲れるか。

 やっぱりここは即日の方向性に重きを置こう。こういうことは後に回しちゃダメだ。


「………そんな口をきけるのも今のうちだな」

「へぇ。今のうちねぇ。そりゃそうだ。だってアンタはもうじき口きけなくなるからなぁ」

「…………なに?」


 奴の優越感に浸っていた顔がにわかに歪んだ。


 あぁ、今ならユアンの気持ちが分かるかもしれない。嫌いな人間を地獄に叩き落とすまでの時間というのはすごく楽しい。

 ………ほんと神職っていうのに疑いの目を向けざるを得ないよなぁ?あれで実は稀代の詐欺師かもしれない。うん、それなら納得できる。それか天使の皮かぶった悪魔、いや魔王。


「………………い。おいっ!聞いているのか!!?」


 いえ、まったく。


 鉄格子を握りしめる指にはどれだけの力が込められているのか、プルプルなんて可愛らしいものではなく、ブルブルと震えていた。もちろん顔も赤い。いや、もはや赤黒い。

 これではどちらが鉄格子の中に囚われているか分からない。間違うことなかれ。被害者は私だ。


「貴様、何を世迷い事を言っている。これ以上私を侮辱するならば今すぐ断頭台へ」

「行くことになるのはどうやらあなたのようですよ。ミルドレッド公爵」


 遅い。遅すぎる。


 新たに現れた男…シーヴァに一瞥をくれてやってから、私は牢屋の固い床でさらに固くなった身体に鞭打って立ち上がった。

 こんな暗くてジメジメした所、二度とゴメンだ。こんな所に入れられると分かっていたら、ユアンに呼び出されたとはいえ、だ。のこのこと顔を出さなかったというのに。


「よっこらせっと。………なぁ、公爵さんよ。因果応報って言葉、知ってるかぁ?」

「自業自得という言葉も当てはまりますね」

「なにを…」

「本日、ミルドレッド家の貴族位剥奪、及び財産のほぼ全てを没収が決定されました」

「っ!わ、私は…私は国王の叔父だぞ!?」

「そう。ただの叔父。国王じゃない。だろう?……あぁ、そうそう。財と家柄を持たないものはどうなろうと構わない、だっけか?良かったなぁ。あんた自身が自分の言葉の意味を確かめられるぞ?」


 パチンと指を鳴らせば鎖は耳障りなほど大きな音を立てて床に落ちた。

 もう一つおまけに牢屋の鍵も粉々に。こんなの朝飯前だ。


「はぁ。手首が痛い。背中も痛い。今夜は薬草風呂だなぁ。………あ、薬草代は労災として別に回収しますんで」

「構いませんよ。国庫に多少の潤いができましたから」

「それは何より。昨日ユアンに脅されるようにしてここに入ったかいがあった」


 昨日のアレは酷かった。

 呼び出された私が王宮に向かえば、笑顔のユアンとシーヴァにご対面。

 犯罪人を断罪する並みに恐ろしかった事情聴取はどこから聞き付けたかあの悪魔が私の家を訪れたことを知る公爵によって中断させられた。

 正直この時ほどこの愚かな公爵に感謝したことはないし、これから先も一度もないかもしれない。


『………………では、この娘を牢に入れましょう。処遇は後程、ということで』


 その時、垣間見たユアンの笑みはヤバかった。

 あれはダメだ。まさしく魔王の笑みと言っていい。

 ほんの一瞬だったのに、まるで…そう、蛇がとぐろを巻いて締め殺そうと虎視眈々と獲物を狙っているようだった。


 本当にユアンが魔王であったなら私は何の迷いもなくその配下に下っていただろう。

 ジョシュアには、あれは無理だ、諦めなさいと言い含めて勇者を辞めさせている。

誰だって我が身は可愛い。


しかし、悪者の最後の悪あがきはなかなかしぶとい。


「……なんの罪でだ!?私は何も悪いことはしていない!!」

「ほぉ!ここまで面の皮が厚いと、感嘆せざるを得なくなるな」

「まったくです。…例の物をここへ」


 シーヴァに促され、彼の侍従が運んできた物に公爵は目を見張り、ガクガクと震えだした。

 先程の震えとは違う。それは、怖れ故であることは誰の目からも明白であった。


「だから前に言っただろう?」


 牢から出て、地面に手をつく公爵を見下ろし


「喧嘩を売る相手は選びなよ、って」


 まだ顔に幼さの残る侍従君や、途中から隅の方で傍観していたシンの身体がブルッと震えた。

 目の端にそれを見ながら私は踵を返し、その場を去った。


 ……………お腹空いた。


 後に宮中で牢屋には魔物が住むと真しやかな噂が流れるが知ったことではない。

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