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とりあえず土下座しよっか

 さっきまで家に帰りたい、パパとママに会いたいと繰り返し泣き叫んでいた男の子がやっと泣きつかれて寝た。見たところ幼稚園生くらいだろう。


 子供は嫌いじゃないけど、これはあんまりだと思う。制服のリボンが鼻水まみれになっている。ま、どうせもう使わないだろうからいらないけどね。


 だって帰れない言われたし。神様(バカ)に。

 大事なことだからあえてもう一度言おう。バカに。


「……あれ?気のせいかな?バカって二回目はっきり言われた気がする」

「へぇ。自分がバカじゃないってそう言いたいの?どの口が?あぁ、この無駄に美形な顔についてるこの口かぁ。ふふ。むしりとってやりたくなるね。今、この瞬間とか特に」

「しゅ、しゅみましぇんしぇした」


 私の名前は氷室朔夜(ひむろさくや)。男っぽい名前に影響されたか男家族しかいなかったことが問題だったのか私はなんとも中途半端な存在になってしまった。

 何故かわからないけど、顔を赤らめた女の子の集団に呼び出されること、月に数回。もちろん丁重にお断りしている。

 高校に入っていきなり成長期を迎えた私の身体は女子にしては高く、母親譲りだった長い黒髪をばっさりと切ってショートにした時から思えばソレは始まった。


 乙女ゲームとかなら色んなフラグが乱立されたんだろうけど、まぁここは現実。女子にモテる女子がいるってくらいのみんなの認識だった。

 高二になって随分と去年よりかは過ごしやすくなった時期だというのに…どうしてくれよう。二度と帰れないなんて。


「はにゃしふぇふだしゃい」

「離せ、と?何を?主語、述語、目的語、きちんと入れて話していただかないと私にはさっぱり分からないな。ほら、日本語は難しいと聞くだろう?フィーリングで、なんてものを求める奴がいるけどもそんなのは気心知れた仲間うちでしか通用しないと私は思うんだよね?どうかな?」


 ん?と微笑んでやると神様とやらは途端顔を青ざめさせ、日本独特の謝罪をやってのけた。

 土下座って素晴らしいよね?上から眺める景色は最高。踏み心地も格別。


「グエッ。……俺、神なのに。これでも一応たくさん信者がいる神なのに」

「ふーん。奇遇だね。私もある宗教の信者でさ。え?名前?神道って言うんだよ」


 神様八百万もいるんだよね?なら私をこんな異世界に来させて二度と帰せないなんて宣ってくれた一人(バカ)くらい、いいんじゃないかなぁ?


「信仰する宗教が違えばその信じる神以外はみな悪になる。つまり神だからといって万民に敬われ、崇められると思ったら大間違いなんだよ」

「そ、それは極論なんじゃ…」

「極論?極論っていうのは語弊があるんじゃないかな?それもまた一部では真理でもあるんだから。それかアレだね。人間と神の見解の相違だよ。自分の意見を相手に押し付けるのはいただけないんじゃないかと思わない?」

「今まさしく押し付けられているような…」

「それは残念ながら気のせいだよ。そう、気のせい。曲がりなりにも神を自称するなら……分かるよね?」

「………………」


 とうとう黙りこくってしまった自称・神。ここに連れてこられたから神様なのは一億歩ぐらい譲って認めるとして、やっぱりこの状況はいただけない。


「それで?とりあえずこの子が勇者で私が補佐というわけでいいんだよね?でもさ、もう少し人選考えなかったわけ?この子、まだ小学生くらいじゃないの?魔王と対決させて本当に勝てると思ってる?それとも何?勝つ気ないの?」

「と、とりあえず足を…」

「あ、忘れてたよ。ごめんね?」


 本当に忘れてたんだってば。そんな恨めしい目つきで見ないでよ。


「年齢のことなら問題ないよ。魔王に挑むの十年後だから」

「………十年間何するの?」

「この世界に慣れたり、修行とかかな?」

「…この世界の住人だったら慣れる必要もなし、修行をすぐ始められたんじゃないの?それに十年間も悠長にしてられるくらいならその魔王って本当に悪者なの?私からしてみればこの世界に連れてきた君の方が悪者にしか思えないんだけど。しかも二人も必要なの?なんなの、バカなの?死ぬの?」

「…………………………………人選ミスった」


 私の口が悪いのは昔からだから自分でも理解してる。だからって直すつもりはないけどね。


 最早神様としての威厳を微塵も感じない、感じさせない。やる時には徹底的に、逃げ場なんて決して与えない。これ、私のモットー。

 相手が神?相手にとって不足なし。しかも諸悪の根元ともなれば、ねぇ?

 言い負かされるのぐらいは覚悟してもらわないと。


「………で、私にくれるものは?」

「え?」

「え、じゃなくて。なに、この世界に拉致ってくるだけで後は見放そうなんて随分な話じゃないの?よもや自分の仕事はもう終わり。これからは天界で高みの見物してようかな、みたいなこと考えてないよね?…アハ、冗談でも笑えないよね。あ、分かる?最近ね遅ればせながらハリー・〇ッターに出てくる秀才少女に憧れててね。いやーあそこまで魔法を一年生から使えるとなると気持ちいいだろうね。………言いたいこと、神様の君なら分かるよね?」

「わ、分かります。…それじゃあ生活に困らない程度の…」

「え?今なんて?」

「…………そこらの魔物を倒せる程度…」

「ん?」

「………魔王と互角にやれる程の魔力を差し上げます」

「話が分かる神様で良かったよ」

「…………マジで人選ミスったっ!」


 なんだか小声でごちゃごちゃと呟いている神。まるっと無視。

 鬼畜?誉め言葉ですね。


「さ、早く拠点となる場所に連れていって」

「…了解です」


 こうして妙に俗物染みた神様と憐れな少年との生活が始まった。


 え?神様もって?

 もちろん。こんな良いパシ…あ、なんでもない。

 うん。近くにいた方が何かと都合がいいじゃん?そういうことにしとこう。

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