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花、花、花

作者: 菜乃葉
掲載日:2007/08/21

これは、人買いをイメージして書いたものです。

そういう話が苦手な方はご遠慮ください。

あくまでも明治初期のイメージで書いているので多少おかしくても許してください。


  






  勝ってうれしい はないちもんめ

 

 負けて悔しい  はないちもんめ

 

  もんめ もんめ はないちもんめ


  あの子が欲しい あの子じゃわからん   


 この子が欲しい この子じゃわからん


  相談しよう   そうしよう







 「こっちへおいで。一緒に行こう」







 売られることなど気づいていました。

 それでもついて行ったのは、家族が嫌いだったわけでもなく、ただ最後くらいは家族のためになりたかったからです。









 私の家は親戚中で一番の貧乏でした。

 それなのに、子供が三人もいたから肩身の狭い思いをしていました。

 食べ物もなく、着るものもないそんな生活をずっと続けていました。

 それでもみんな仲良く過ごしていたのです。



 ただ、私だけをのけ者にして。







 姉は初めての子供で『無事に産まれてよかった』と歓迎されました。

 弟は男の子として生まれてきたのでとても喜ばれました。


 けれど私は男の子でもなく、二番目の女の子で周りからはがっかりされて生まれてきた子供でした。


 親戚の人達にも親の陰口を言われ、私の陰口を言い、ののしって、冷たい目をこちらに向けてきました。

 しかし、待望の男の子が生まれました。

 親戚の人達は大喜びです。宴会だって開きました。それからは親にはなにも言わなくなりました。

 そのかわり、私の親はいつのまにか親戚の人達のような冷たい目で私を見るようになったのです。



 姉は器量もよく美人だとみんなにかわいがられていました。

 弟は幼いながらも畑仕事を手伝おうとしていてえらいとみんなからほめられていました。

 私はいつまでもみんなにとってただの邪魔者でしかありません。

 実の父も母も私を見ようとはしてくれませんでした。

 悲しかったです。苦しかったです。

 


 “ねぇ、なんで私はみんなに嫌われるの?”

 

 “私、何かした?”

 

 “二番目に、女の子に生まれてきてはいけないの?”


 

 

 私の心は毎日張り裂けそうな思いでいっぱいでした。

 そんなときでした。子供を売ってはどうだろうか。そう言う話が出てきたのです。



 私の家は元々貧乏だったので生活に困っていました。親戚から借りていたお金もつきてしまっていて、途方に暮れていました。

 そうしてでてきたのが子供を売るという話でした。

 売る子供なんて決まっています。『私』です。

 私に伝えてしまうとだだをこねてしまうかもしれない。伝えないでおこう。そう決まったようでしたが、隠そうとしたって分かってしまうものです。

 最初は逃げ出そうかと思いました。でも結局やめました。

 気が変わったのです。最後くらいは『あの子は最後には役に立ってくれた』そう思って欲しかったんです。




 そして私は売られていきました。




 昔の記憶に残っているのは『はないちもんめ』と河原一面の『ヒガンバナ』。

 そしてあの日初めて会ったあの人の『金色の髪』。



 それは花びらの竜巻。そして風がやむと紅い、紅い雨となります。

 それに合わせてあの人の髪も空を舞いました。

 


その景色はとても幻想的でした。夕焼けにあの人の髪がきらきらと金色に光り、風にヒガンバナの紅い花びらが舞、空に浮かんでいるのです。

 一面『紅』の世界に浮かぶような、太陽のようなあの人の『金色』はこの世のものではないほど美しかったのでした。



 私は私の『心』をそこにおいてきました。そうしないと私は私を保つことができなかったのです。

 私の中は今までにない醜い感情でいっぱいになってしまったのですから。



 “なぜ姉は愛されているの?”


 “なぜ弟はかわいがられているの?”


 “なぜ私はさげずまれるの?”


 “私は悪いことなど何もしていない!”


 “『はないちもんめ』でも売られていく人は相談で決められていくのに私は相談すらされないの!?”





 “……神様、なぜ最後にあんなにすばらしい景色を見せるの?”


 “せっかくこの家に、この町に、この世界にやっと諦めがついたのに。”


 “ねぇ、なんで!? なんでなの!?”




 だから捨てました。二度とこんな思いをしないために、私が私であるためにはこうするしかなかったんです。

 そしてぼんやりとする頭で思いました。そういえばヒガンバナの花言葉は【悲しい思い出】だったということを。

    

      *******************




「勝ってうれしいはないちもんめ。負けて悔しいはないちもんめ。

 もんめ。もんめ。はないちもんめ。

 あの子が欲しい。あの子じゃわからん。この子が欲しい。この子じゃわからん。

 相談しよう。そうしよう」


 「懐かしいな。その歌は」


 「エリックさん」

 

 あの後私を買ったのは外国人のエリック=ハンストンさん。

 エリックさんはとても優しくて、引き取られた私は幸せ者だ。とよく言われます。

 けれど私は本当に幸せなのか分かりません。

 ただ一日一日を、毎日を同じように過ごすだけです。

 昔私はここに引き取られてこの歌ばかりを歌っていました。

 それが唯一私の知っていた歌だからです。

 せめて自分が自分であって生きていきたかったからです。

 そのために喜怒哀楽という感情を捨てたのですから。

 

 「懐かしいときみは思わない?」

 

 「いいえ。思ったことなんてありません」

 

 そういうとエリックさんは悲しそうな顔をしてしまいました。

 しかし、

 

 「そうだっ!きみの所にきたのはきみを連れて行きたいところがあったんだ」

 

 と顔を輝かせて言いました。本当にこの人は感情表現が豊かだと思います。それでも私は『うらやましい』とは思えませんでした。

 そしてエリックさんは私の手をとってどんどん進んでいくと、そのまま馬車に乗ってしまいました。

 

 「どこに行くのですか?」

 

 「それは秘密。」

 

 そういっていっこうに教えてくれる気配はありません。


 馬車に乗ったエリックさんは始終笑顔でこっちを見てきます。

 馬車の窓は外が見えないようにしてあってどこを移動しているのか見当もつきません。

 しばらくすると河原のところで馬車が止まりました。

 エリックさんは私の手をとったまま降りていきます。そして降りた先は


 「うわぁ」


 そこはいつかの一面のヒガンバナが咲いているところでした。

 私の記憶そのままで、まるで時が止まっているようなそんな感じが漂っています。


 あの時の夕焼け、風にヒガンバナの紅い花びらが舞、空に浮かんでいます。


 あの時の花びらの竜巻。そして風がやむと紅い、紅い雨となります。


 一面『紅』の世界が広がっています。そしてそこに浮かぶのは、


 



  あの時の金色の髪。そう、エリックさんの髪です。


 



 「あれ……?」



 私の視界はぼやけてきました。そこで初めて自分が泣いているのだと私は知りました。

 

「やっときみの感情らしき感情を見ることができたな。道のりは長かったよ」


 最初、私はエリックさんがなにを言っているのか分かりませんでした。

 しかし自分の頬を触って熱い涙を触ったとき自分の『心』が帰ってきたことに気づきました。感情を捨てていたはずなのに、この心の中に今までのすべての感情がはいっていることに私は驚きました。

 そしてそれに気づくと、感情が止めどなくあふれてきてもうどうしようもならなくなってしまいました。一度動いた感情を止めることはもう出来ません。



 お ね が い 、 わ た し の な ま え を よ ん で 。




 辺り一面が濃い紅に染まります。



 まるで私の心に反応するようにヒガンバナの花びらが一斉に空へと舞っていきます。


 目の前はむせかえるほどの花、花、花。



 そしてあの人は



 「こっちへおいで。椿つばき

 


 私の言って欲しい言葉を言ってくれました。




 私は、彼の方へと走っていきます。愛しい彼の元へと、出せる力を全て使います。

 私は、思いっきり抱きつきました。彼と距離を離したくありませんでした。ほんの少しでも離れたくなかったのです。

 私の中はもう『エリックを愛している』というその感情でいっぱいで、どうしようもありませんでした。

 

 「エリックさん。大好きです」

 

 私にはそう伝えるのが精一杯でした。


 「僕も大好きだよ、ずっと前からね。愛してるよ、椿つばき


 彼はそう言って強く抱きしめてくれました。私の心は今までにないくらい満ち足りて、幸せな気分でいっぱいです。

 きっと私はあの時、あの光景を見たときから恋をしていたのでしょう。



 そしてヒガンバナは竜巻から紅い雨になって私たちを祝福するように花びらを散らしていきます。


 「花も僕たちを祝福してくれているみたいだね」


 そう言ったのでおもわず私は吹き出してしまいました。同じことを考えていたんだ、そう思ったら可笑おかしく思えてきてしまったのです。笑って笑いました。おもいっきり。こんなに笑うことはもう無いと思っていました。

 しかしエリックさんは私のその様子に不服そうで、少しむっとした顔をしていました。  


 「なにがそんなに可笑おかしい」


 「あなたと同じことを考えていたので気持ちはつながっていたのかな、と思ったんです」


 花びらはまだまだ降り続いていきます。


 「椿は前ヒガンバナは【悲しい思い出】という花言葉が本当に合うと言っていたけど、僕はそうはおもわないな」

 

 「なんでですか?」

 

 「知っているかい?ヒガンバナの花言葉には他にも【また会う日を楽しみに】という意味もあるんだ。祝福もしてくれたし、ヒガンバナ達は椿と会える日を楽しみに待っていたと思うんだ。僕はそっちの方が合うと思うよ」

 

 確かにそうかもしれません。




 「それじゃあそろそろ帰ろうか。みんな待っているかもしれないよ」

 

 「では、また来ましょうね」

 

 「ああ、何度でもいいよ。また来よう」


 その帰る二人の姿は来たときよりも親密そうで、そして確実に二人の心がつながっていました。





   さようなら【天上の華】

       また会う日を楽しみに




花言葉を使ってみたくて書きました。

もし、ヒガンバナの花言葉が違っていたらご連絡お願いします。


加筆修正をしました。敬語だったのを普通に変えてみたのですが、どうでしょうか?

感想を書いてもらえると嬉しいです^^


続編始めました。『花に捕らえられた心』

そちらの方もよろしくお願いします。

作者は正直花が大好きなので、花言葉ばかり使ってしまいます><


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[一言] 昔の日本では、こういう人買いの話はよくあることだったのかもしれませんね。悲しいストーリーですが、彼岸花の情景が美しく、主人公も最後には幸せになって良かったと思います。 主人公の気持ちがよく伝…
[一言] 文章に関しては素人なので何も言えませんが、storyは好感を持って読ませて頂きました。歴史的にも珍しくない話で胸が痛くなるのですが、この中の少女だけでも幸せになっているというだけで救われた気…
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