第七十八幕・「陣中見舞い」
ナンミ軍は、先鋒アガロ・ユクシャの意外な活躍により快進撃を続ける。
どうやらリフは、以前からカンベ郡の豪族達の引き抜き、内応を計っていたようであり、アンジョウ一門の一件があったにも関わらず、次から次へとチョウエン家から寝返る者達が現れた。
しかし此度、援軍として参陣したアシジロ家だけは、只味方の勝利の報せを聞くだけで、傍観していた。
理由は現当主コウショ・アシジロが、陣中にて高熱を出し、寝込んでいる為だ。
アンジョウの首が目の前で刎ねられた瞬間を思い出しては、うなされるという日々が続き、叔父のユクルは寝る間も惜しんで看病していた。
【――アシジロ本陣――】
「義兄上。失礼するぞ」
勝利の報せに浮く味方とは違い、アシジロの陣中だけが沈んでいた。
ユクシャ当主はようやく前線で一息ついたので、その合間にアシジロ陣へ陣中見舞いに現れる。
「あ、アガロ殿ぉ~……」
出迎えたユクルは相当憔悴している様子だった。無精髭は何日も剃っていないのか、ぼうぼうに生え、目の下のクマが酷い。後で聞いた話だが、ずっと付きっ切りで看病していたようであり、余り眠ってないのだという。
アガロは早速、ヤイコクに命じて見舞いの品を差し出した。
「気休めだが、ヨイカ港の商人達に取り寄せて貰った果実だ。コウショ殿に食べさせてやってくれ」
「あ、あんがとうなぁ~……」
ユクルは鼻水を垂らしながら、有難そうに受け取る。
アガロはそんな義兄の姿を見て、些か気の毒になる。
「コウショ殿の容態は?」
「あんまり優れねんだぁ……。こないだの一件以来、寝込んじまってぇ……」
「すまん……」
「アガロ殿が謝る事ねぇよぉ……」
衛生面は劣悪であり、おまけに医療の技術も進んでいない時代である。小さなカゼが万病に繋がり、死に到る事も珍しくは無い。
アガロは改めて、自身が健康体である事に感謝した。
「アガロ殿は難儀だなぁ……。折角、手柄を挙げたのに、あんな仕打ちを受けてぇ……」
「いや。此度は俺の失態だ。こうなる事は、考えれば分かる事だったのだが……」
「まぁ、落ち込む事はねぇよぉ。アガロ殿は頭が良いからぁ、また直ぐに次の手柄を上げて、出世間違い無しだぁ」
「そうだと良いがな……」
互いに沈黙する。
「申し上げます。只今、軍医のタクセキ様がお見えになられました」
「失礼します……」
現れたのは、背丈の低い中年の男だった。坊主頭に、薄髭、微笑を浮かべているが、何処かアガロには不気味に思えた。
少し薄汚れた茶色の羽織を身に着け、手に持った薬箱を隣に置くと、早速ユクルに急かされ、病人の容態を確認し始める。
「先生ぇ~……。何とかならんかのぉ?」
「ふ~む。これは心の病ですな。何、心配には及びません。この薬を煎じて飲めば、立ち所に良くなるでしょう。白湯を用意して頂けますか……?」
言うと箱から薬の入った包みを取り出し、慣れた手付きで薬を白湯に溶かし入れ、片手でコウショの上半身を起こすと、ゆっくり少しずつ薬を飲ませていく。
「これで、安らかになるでしょうな……」
「ありがとうなぁ! 先生ぇ!!」
「礼には及びませんよ。それではお大事に……」
ユクルに拝められるように感謝されたが、至って落ち着いた物腰でタクセキ医師はその場を後にする。
黙って見ていたアガロが、義兄に訊ねる。
「義兄上。先程の奴は?」
「あの人はぁ軍医のタクセキ先生ぇだぁ。此度は無理言ってぇ、アシジロ陣まで来て貰ったんだぁ」
「そうか……」
訝しげにする義弟を見たユクルは陽気に答えた。
「なぁに、心配は要らんよぉ。タクセキ先生ぇはぁ、沢山の病人を治しているそれはそれは高名なお医者様だからなぁ!」
「……そう、か。義兄上。俺はもう行く」
「軍議かぁ?」
「義兄上は?」
「勿論、出るさぁ。すまねぇなぁ。ろくに持て成す事も出来ねぇでよぉ」
「気にしないでくれ」
「そうだぁ。軍議が終ったら、おらぁの陣にまた来ると良いよぉ。湯漬けくらいしかないけんどぉ、お礼させてくれぇ!」
「では、そうさせて貰う」
【――ナンミ本陣――】
「父上、申し上げます! 某の部隊から敵方の城、ジバ城を落としたとの報せが、只今届きました!」
「うむ……」
陣卓上に広がるカンベ郡の地図に視線を落としながら、嫡男ジャベ・ナンミの報告を聞くリフ。
幸先の良い報せに、一同は笑顔を浮かべ、既にチョウエン家は風前の灯だな、と言い合った。
そんな中、リフは静かな侭である。するとナンミの大名は徐に、開いていた扇子をパチンと閉じる。
周囲の者達は瞬間、口を閉じ表情を引き締めた。リフの視線の先には嫡男ジャベが居た。
「ジャベ。ジバ城はヒイラに与える。お前の兵は退け」
「なっ!?」
ジャベは思わず目を丸くする。
「お待ち下さい、父上! ジバ城は某の部隊が攻め落とした城にて、これをヒイラに与えては家臣達が納得しませぬ!」
「…………」
「如何かその儀は何卒、御再考の程を!」
「……言いたい事はそれだけか?」
「はっ?」
「ジャベ。お前は何時からわしに口答え出来るようになった……? まさか、城を攻め落とす事が出来れば、一人前と思うたか……?」
リフの冷酷な声に、段々とジャベは萎縮し始める。
「ジャベ。命令通りに致せ……」
「さ、されど―――」
「二度も言わすな」
「……承知しました」
諦め頭を垂れるナンミ家次期当主。俯いて余り表情は見えなかったが、不満そうに握り拳を作っては震わせている。
その動作にアガロは目聡く気付いた。
やがて、リフが次の戦の作戦を立案し具に指示すると、家臣達を持ち場に付かせる。
アガロも言われた持ち場に着こうと、席から立ち上がったその時だ。
「わっぱ。お前は残れ」
「はっ?」
思わず眉をひそめた。
訳が分からない、という目をするが、見れば自分以外にも嫡男ジャベが残されている。
益々理解不能だった。
「そう訝るな。然したる用ではない。是を見よ」
するとリフは懐から一通の書状を取り出し、目の前に見せる。
「これは?」
「この先にあるウラオ城城主から寝返りの書状じゃ……」
「御免」
一言断ると、早速書状を手に取り中身を確認する。二度読み返し、そして今度は最後の方に目を通して差出人を確認した。
「如何思う? 腹ぞう無く申せ」
「はっ。では先ず―――」
アガロは自身の扇子を手に取り、地図に描かれているウラオ城を指した。
「ウラオ城周辺の地形は、大殿の軍勢が動くには、余りにも不利です。カンベ湾に面し、水軍の運用も出来ますが、軍の八割方は陸で戦う者達が殆ど。この地形では機動力を奪われます」
「ふむ……」
「恐らく、この書状は敵の誘いかも知れません……」
「なれば、如何致す?」
「俺ならば、此処は敢えて誘いに乗ります」
「ほう……」
面白い見世物を見る目で、リフは聞いている。
「もし、俺がチョウエン家臣ならば、この書状にてウラオ城まで敵を誘き寄せ、其処を叩くのです」
「ウラオの城は、わし等を誘き寄せる為の策と?」
「はっ。戦いとは、攻めてよりも守り手の方が有利です」
「そうじゃな。見知らぬ土地へ攻め込むよりも、罠を張りそれに獲物が喰らい付くのを待つ方が有利ではある。されど、どのようにして罠に誘導するかじゃが?」
「このウラオ城までに続く道は、隘路が続く狭まった地形です。大殿の大軍勢では、身動き取れないでしょう。横やりから攻めかかれば容易く敗れる。敵はそれが狙いだと思われます」
「お前は其処まで読みながら、敢えて敵の罠に嵌ると?」
「如何にも。虎穴に入らずんば虎児を得ず。これは逆に好機です」
アガロの目が一瞬だけギラリと輝いたのを、勿論リフは見逃さなかった。
ユクシャ当主は更に続ける。
「今迄、チョウエン軍は鳴りを潜め、動きありませんでしたが、このウラオ城の策に乗る事で、逆に誘い出す事が可能です」
「成る程な。わし等はそれを叩く、と?」
「如何にも。敵の寝返りを信ずるか否かよりも、如何に利用するかが肝要です」
「……うむ。分かった。この事は他言無用じゃ。下がれ」
「はっ」
一礼すると、その場を去る。
少年は、何故リフが敵からの書状を見せてきたのか、此方の意見を訊ねてきたのか不可解でしょうがなかった。
(一体、あれは何だったのだ……?)
どうも嫌な予感がする。しかし、今はそんな事を気にし続けてもどうしようもない。彼はその侭、アシジロ陣へ向かった。
アガロが去った後、ジャベも同じく席を立とうと立ち上がったがその時、彼が最も恐れる人物が徐に口を開く。
「ジャベ」
「父上、何か?」
「……あ奴をどう思う?」
「どう、とは?」
息子が問い返すと、父は眉をひそめた。
「ジャベ。お前はあのわっぱの目を見ていなかったのか?」
「いいえ……」
はぁ、と一つ嘆かわしいとばかりに溜息を吐いた。
「恐らくあのわっぱがお前なれば、仕草から目の動きまで、全て観察していたであろうな……」
「申し訳御座りませぬ……」
項垂れる息子に、リフは静かに語りだした。
「野心家の目をしておった……」
「野心?」
「そうじゃ。わしと同じ目よ……。よいか、あのわっぱには気を付けよ。先程まで熱弁しておったが、その間、何度か瞳を輝かせておった。あれは奸臣じゃ……!」
「奸臣……」
アガロのように甲高い良く通る声とは正反対の重く低い声には、深みと相手にそうだと思い込ませる説得力がある。
しかし、目の前で聞いているジャベには、とても恐ろしい怪物が呟いているように見えた。
「あの小僧は何時までも人の下に居る男ではない……」
「何故、そのような事がお分かりになるので?」
「あのわっぱは先程”信ずるか否かよりも、如何に利用するかが肝要”と答えたであろう?」
「確かに……」
「覚えておけ。人を信ずるよりも、利用する事を先に考えよ。この乱世、信義など、利益の前では何の役にも立たん。わしは今迄、多くの者達を利益で転ばせ、引き抜いてきたゆえそれが分かる。わっぱはそれを先に考えた。先のアンジョウの調略が良い例であろう」
「そ、そうでありましょうか?」
「野心溢れる者に謀が出来るという事は、虎が翼を得て飛翔する事と同じじゃ。ジャベよ、あのわっぱは何れ間違いなくナンミ家に禍もたらすじゃろう。わしの目の黒い内に、あのような奸臣は葬り去る……!」
今度はリフの瞳がギラリと光る。
「ち、父上……。されど、それは考えようによっては、謀臣になるのでは?」
「物に相談するとは情けない……」
「……は」
息子は目の前で俯いた。どうしてもこの父の前では、ジャベは気持ちの休まる事が無いのだ。
その姿がリフには器量不足、気弱な人物に見えてしまう。
「ジャベ。これから策を授ける。良く聞け」
「はっ」
リフが何事か囁くと、彼は驚き目を丸くした。
本当にそんな事をするのか、という目を向けると、リフは冷たい声で言う。
「これも全て、ナンミの為じゃ」
「承知しました……」
「申し上げます」
「何じゃ?」
ふと現れた側近が、一人の男の来訪を報せた。
ナンミの大名はその男を通すよう命じると、奥から見覚えのある男が静々と前に出、床机に腰を下ろす。
「お久しぶりに御座ります……。大殿におかれましては、お変わりのないご様子で安心しました……」
「タクセキ。よう来た。首尾の方は如何じゃ?」
「上々です。程なくして、効いて来るでしょう……」
ニヤリと下衆な笑みを浮かべる軍医に釣られ、ナンミ大名も『くくく』と静かに含み笑いをする。
(先ずはアシジロ家じゃな……)
【――アシジロ陣――】
「ジャベ殿も大変だなぁ~」
軍議の後、再びアシジロ陣へ足を運んだアガロは、先に戻っていたユクルに歓迎され、 互いに向かい合いながら、アシジロ家特性の湯漬けを振る舞われていた。
ズッ、ズッ、ズズッと啜り咀嚼する。
「……上手い湯漬けだな」
「んだろぉ? これはぁアシジロの山で取れた山菜と出汁を使っている特性湯漬けだぁ。これを食えば力も精も付いて元気になるんだぁ」
ユクルは何とも嬉しそうに頷いた。誰でも自分の土地で取れた物を喜んで貰えれば、嬉しくもなるだろう。
その気持ちは分かるし、事実この湯漬けは上手かった。
山々に囲まれたファギ郡の山菜がふんだんに使われた出汁を、アガロは大変気に入った様子であった。
一杯目を食べ切ると、すかさず二杯目を求める。山の味がする。春の到来を教えてくれるかのようだ。時々摘むたくあんも中々に良い味をしており、ポリポリと口の中で響く。
これはヤイコクの用意してくれる料理にも匹敵するな、とアガロは心の中で思った。
「義兄上。姉さんは息災か?」
「あぁ。ルシアは何時も通りにしてるよぉ。あんまりにも可愛いからぁ、おらぁには勿体無いと何時も思っとるわぁ」
「そうか」
「んだどもぉ、よく悪態を付くというか、何て言うかそのぉ、時々怖いなぁ……?」
「…………」
心中『ご愁傷様…』と呟く。
二人はその後も言葉を幾つか交わし、話はやがて互いの領地の事になる。
「そうかぁ。ユクシャの土地は豊かなのかぁ~……」
「ファギ郡はそうでないと?」
「んだなぁ~。何と言っても先ず水源が少ねぇからなぁ。田畑を耕そうにも、土地は狭めぇし、村同士で水の取り合いはするし、これが大変なんだよぉ~……」
「そうか……」
「それに比べて、ユクシャ県は良えなぁ~。水に困る事はねぇし、城下町には人も多いみたいだしなぁ」
「それはそれで問題もある。水が多ければ、水害も多く、人多ければ、人同士の問題も多い」
「そうかぁ~。そっちもそっちで大変だなぁ~」
「義兄上。いっその事、畑仕事は止めて、新たな城下町を作るのは如何か?」
「新たな城下町ぃ?」
「そうだ」
義弟は箸を置き、淡々と続けた。
「商いの町を新しく作るのだ」
「商いの町なぁ~……」
「アシジロ領は耕せる土地が少ないのならば、それには余り力を入れず、町や道を整え人の行き来がし易いようにすれば、アシジロ家は栄えるのでは?」
「人の行き来かぁ……」
「米はいっその事、他所で買い求めては如何か? ギ郡は米所ゆえ、そこから仕入れては?」
「そうだなぁ……」
初めは話半分で聞いていたユクルだったが、段々と真面目な顔になっていく。
じっと義弟の言葉に耳を傾けた。
「ファギ郡は鉱山も多く、特にアシジロ領では鉱物が良く取れる、と聞いた」
「…………」
「逆に此方からは、ユクシャ県で取れる干物や塩、その他にも都から取り寄せた品等がある。貝殻等はアシジロ領では珍しいのでは?」
「……アガロ殿ぉ。これってもしかするとぉ、商売の話かぁ?」
「そうだ」
一つ頷くユクシャ当主。
「ギ・ファギ郡間で貿易出来れば、更に城下は栄え、人は集まり民も喜ぶ」
「成る程なぁ……」
「俺はハンコウ県の港町ヨイカの商人衆とも繋がりがある。そいつ等ならば、ギ郡都サイソウ城下町でも手広く商いをしている。これを通じてサイソウ、ヨイカ、ユクシャ県のバンジ港へ物資を運べるが?」
「悪くねぇ話だなぁ」
腕組をして何度か頷くユクル。すると徐にアガロは湯漬けの入った椀を持った。
「俺はまた、この湯漬けが食いたい」
「モロト城を落とした次は、おらぁを調略する気かぁ……?」
「ああ」
「あっははは!」
義兄は短く笑い、やがて真面目な顔付きになる。
「この話は悪くはねぇ。寧ろ、こっちに取ってはありがてぇ話だぁ。ファギ郡に人が集ればぁ、暮らしも豊かになるからなぁ」
ファギ郡は山に囲まれた地形から、人の往来が少なく余所者を寄せ付けない閉鎖的な部分がある。
それが原因で、何とも鈍重な社会なのだ。ユクルはこれを一つの機会と捕えていた。
今迄、他者を寄せ付けようとしなかったアシジロ家を活性化し、新たな知識とファギ郡の外の情報を取り入れようと考えたのだ。
正直、ユクルはビ郡ナンミ家の力を見て、これには到底敵わないと逸早く理解し、逆にこの家に取り入ってアシジロ家を豊かにしようと計画していた。
「アガロ殿ぉ。おまぁが義弟で良かったぁ」
「俺も同じに思う」
「いやぁ、目出てぇ!」
笑みを浮かべたユクルは、話が上手く進んだ事を祝して酒の杯を取り、アガロに勧めた。
顔には出さなかったが内心溜息を吐く。だが、これを断るも無礼だと思ったアガロは、我慢して杯を取り酒を注ぐ。
乾杯の音頭を義兄が取り、互いに一気に飲み干す。
するとその場に大急ぎでアシジロの側近が、息を荒げながら現れた。
「も、申し上げます!」
「どうしたぁ?」
「と、殿の容態が!」
それを聞くと、ユクルは表情を一変させ、直ぐ様甥の元まで急いだ。
アガロも後に続くと、やがて顔色を悪くし、苦しそうに息をするコウショを目にする。
「こ、コウショぉ!? どうしたぁ!? 確りしろぉ!!」
「お…おじ、うえ……」
「何でだぁ!? 薬は利いてないのかぁ!?」
「先程まで落ち着いていたのですが、急に容態を悪くなされて……」
「た、タクセキ先生ぇを早く読んでくれぇ!」
物凄い剣幕でユクルが怒鳴り付けるように命じると、側近は直ぐに陣から出て行った。
「はは…うえ……! ははうえ……!」
「コウショぉ! 大丈夫だぁ! 今、お医者様が参られるからなぁ!!」
「ちちうえ……」
アシジロ当主は手を前に出した。星を掴むように、天へ手を伸ばすように真っ直ぐと。
それを叔父が、がしっと力強く握り叫ぶ。
「コウショぉっ!! 確りしろぉ! 気を確かにっ!!」
「おじ、う…え……―――」
「コウ、ショ……? コウショぉ!? 目を開けてくれぇ!!!」
「…………」
「こ、コウショぉおおお~~~~っ!?」
天暦一二〇〇年・寅の月中旬。
チョウエン攻めのナンミ軍に、援軍として参陣していたアシジロ軍の陣中にて突然、アシジロ当主コウショ・アシジロは息を引き取った。
享年六才であった―――。