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第七十五幕・「政略結婚」

 花嫁姿のルシアは、ふと表の景色を見て黄昏た。まさか自分の婚儀が、こんなにも早く執り行われるとは思っても見なかったからである。

 心此処に在らず。彼女はぼーっと放心していた。


 つい先日、弟が屋敷へ戻ったかと思うと、彼は自分へ『姉さんは、アシジロ家へ嫁ぐ仕儀と相成った……』と伝えたのだ。


 勿論、最初は何を聞いたか分からなかったし、冗談かと思ったがそれがナンミの大名の指示である事を知らされると、何処か諦めにも似たような感情を覚え、承諾した。

 そして、今日は婚姻の儀を執り行う。


「姉さん。入るぞ」


「アガロさん……」


 すると当然姿を見せる弟。

 部屋に居た使用人達は、ルシアの侍女であるマヤが気を利かせ、早々に追い出して二人きりにする。暫く部屋から人を遠ざけた。

 弟は部屋の上座に着座し、姉の晴れ姿を見た。


「いよいよだな……」


「私も未だに信じられません……。今年で十九に成り、既に行き遅れたかと思っていましたから……」


「突然の事ですまん」


「いいえ。アガロさんは悪くありません。大殿の命では如何する事も出来ませんから……」


 少し沈黙が続いた。


「姉さんは俺を怨んでいるか?」


「何故?」


「俺が頼りないばかりに、アシジロ家等という聞いた事も無い家へ嫁ぐからだ」


「ふふふ。そんな事で怨んだりはしません。アガロさんは意外に小心ですね。それでは何時まで経っても小さいままですよ?」


「背は関係無い」


 少し笑顔になる姉を見て、弟は心の隅で些か安堵する。

 嫁入りする事を伝えてからというもの、彼女は長い間呆けていたのだ。


「タキ城へ使者を送った。姉さんの荷物等は後々ファギ郡へ届ける手筈となっている」


「まぁ、それくらいはして当前でしょう」


「……弟相手でも少しは建前を使った方が良いぞ?」


「弟だからです。アガロさん相手に建前等、気味悪がられるだけですからね」


 ふと、ルシアは庭へ視線を移しポツリと呟いた。


「アシジロ領とはどのような所なのでしょうか……」


「聞いた話だと鉱山も多く、山に囲まれた土地との事だ」


「そうですか……。もうギ郡の海は見られないのですね……」


「姉さん。海が恋しいのなら、干物だろうと貝殻だろうと送ってやる」


「お気遣い感謝します……」


 何処か余所余所しいというか、他人行儀な姉に彼は些か戸惑った。

 その時。アガロは懐に手を入れ、首飾りを取り出す。


「姉さん。これを覚えているか?」


「それは…私が以前作ってお渡しした貝殻の首飾りですか……? 懐かしい……」


「何時も肌身離さずこれを持っている」


「……意外に女々しいのですね?」


「心外だ。俺は常にこれを身に付け、ギ郡の事や、城の者達の事を思い出している」


 弟は手に握った貝殻の首飾りを、大事そうに見詰めた。

 常に戦場に出る時は、必ず首に掛け、絶望にあってもそれを見ては時に勇気を貰い、必ず城へ戻るのだ、生き残ってやる、と自身を何度も奮起させた貴重な品だ。以前よりもすっかりボロボロに成っている。


 貝殻は端々が損傷し、戦場の土煙の所為で薄汚れていた。だが、それだけ肌身離さず持っていたという証拠でもある。

 姉は少し嬉しい気分になり、またアガロが自分を不器用なりにも元気付けようとしているのだろうと感じた。


「姉さん。ユクシャの土地を思い出せる品々を送る。欲しいのがあるのならば遠慮せず言ってくれ」


「いいえ。これからアシジロ家へ嫁ぐ身です。何時までも故郷の事を偲ぶだなんて情けない真似はしません……」


「せめて、マヤも同行させてやりたいが……」


「その儀は無用です。マヤは鬼の娘ですよ? そんな事をすれば、向こうの家に対して失礼になりますから」


 ルシアの世話役である侍女のマヤは、彼女を見送った後、再びユクシャ県へ戻らなければならない。鬼の侍女を伴い、他家へ嫁ぐのは外交上無礼に当たる。

 すると彼女はふと笑みを見せた。何時もの作り笑いではない。少し寂しそうなそれでも精一杯作った笑みだ。


「アガロさん。私はこう見えても内心喜んでいるのです。ようやく、姫としての役割が果たせるのですから……」


「そうなのか?」


「私は今迄、御家の為に何かしたいと思っておりました。アガロさんはロザン城で人質となり、タミヤお姉様は城代として日夜奮闘し、お母様は不自由な寺暮らし。そしてお父様はユクシャの家を守る為に命果てました……。されど、私だけは何もしなかった、出来なかった事が今迄、歯痒く悔しかったのです……」


 顔を伏せるルシア。初めて姉の胸中を知り、弟は些か驚いた。

 引っ込み思案であり、勝気な長女や、我侭な自分とは違い、大人しく物静かな次女がこんな事を考え、思い悩んでいたとは知らなかったのだ。


「ですが、此度はようやくその役目が果たせそうです……。ナンミ家一門の姫として嫁ぎ、アシジロとの架け橋となってユクシャ家の信用を勝ち取る……」


「それは違うぞ」


「え?」


 弟は徐に立ち上がると、大股で歩み寄り彼女と目線を合わせる。

 そして低い声で呟いた。


「姉さんはユクシャ一門として嫁ぐのだ。それを忘れるな」


「それは、どういう意味ですか?」


 しかし、アガロは答えなかった。ルシアも諦める。

 何か考えがあるのだろうが、それを家族といえど簡単に明かす程、ルシアは彼が甘くは無い事を知っている。


「でしたら、ユクシャの姫として、私からも一つ忠告があります」


「何だ?」


「ナンミ家に何時までも居てはなりません」


 それは本心だった。以前リフと会い、話し合った時、彼女はあの老人を酷く気味が悪く思ったのだ。

 そして、こうも感じた。


「あの者は何れ、アガロさんに禍を齎すでしょう」


「姉さんは易者か何かか?」


「いいえ。ですが、何となくそう思うのです……。アガロさんは軽率な人ですから、何かと心配で……」


「俺はもうそこまで餓鬼じゃない。姉さん。婚儀の席、楽しみにしてくれ……」


 彼は直ぐに何時もの急ぎ足で部屋を出て行ってしまった。


「まぁ。これは旦那様」


 その途中、廊下でばったり正室のハクアと鉢合わせる。彼女は後ろに侍女を二人侍っていた。


「お前が登城するとはな」


「まぁ、失礼な。折角の義姉上の晴れのお姿見ずして死ぬ事は出来ませぬ」


「キセは一緒ではないのか?」


「キセは今、台所仕事の手伝いで忙しい身です」


「そうか」


 立ち去ろうとすると、不意にハクアが声を掛け呼び止める。

 振り返ると、彼女は少しむくれた表情をしていた。


「旦那様は侍女の事は気にかけて、私には何も仰っては下さらぬので御座りますか?」


 少し拗ねたように言うと、アガロはふっと妻を見て呟いた。


「綺麗な着物だな?」


「ふふふ。今回はそれで許すと致しまする」


「はぁ……」


 嬉しそうにニコリと愛らしい笑顔を浮かべる妻とは対照的に、小さい溜息を吐き夫は去って行った。



【――ロザン城・大広間――】



 田舎の土豪の為の婚儀に、ここまで豪勢にする必要があるのか、と列席する者達は皆そう疑問に思った。

 それだけ多くの貢物が用意され、綺麗な装飾に彩られた、それはそれは大層煌びやかな飾り付けである。


 神社の神主が、婚姻の儀式を厳かに執り行い両家の安泰と繁栄を神に願掛けする。

 無事に婚姻の儀式を済ませると、ルシアは仕来たりに習い、奥へ下がり、花婿だけが大広間に残った。

 ナンミの大大名は、上機嫌の侭、ユクル・アシジロを上座に招き語らう。


「此度は誠に目出度いわい」


「おらぁもそう思ってますわぁ~。おまけにこんなにも豪勢な婚儀を執り行って貰ってぇ、有難い限りだぁ」


「されど、ヒダ家は如何致す?」


「ヒダ家との関係は悪化するでしょうなぁ~。されどぉ、気遣いは無用だぁ。おらぁ達はやわじゃねえからぁ」


「心強く思うわい。これで北方の憂いは消えたも同然じゃな」


 笑みを浮かべる両者。

 だが、リフに比べユクルは少し引き気味の笑みだった。

 相当威圧されているのかも知れない。相手は大大名だ。機嫌を損ねれば、家が危ない。


「所で…アシジロ当主殿はお変わりないか?」


「そうですなぁ。おらぁ達の当主は少し病弱なんですわぁ。おらぁと義姉上の二人で支えておりましてなぁ~」


「成る程……。それは心配じゃな……」


 ユクルは少しゾクリとした。この老人が満足そうに頷き、ギラリと瞳を光らせたからだ。

 やがて一門衆から、家臣団が次々に『御目出度う御座りまする』『誠に祝着至極』と祝いの言葉が述べられる。

 それをへらへらした笑顔で受け流しているユクル。


 リフが合図をすると、大広間に侍女達が膳を運んでくる。今回の為に用意された、それは豪勢な食事である。

 上座の二人の為に、酒を運んでくるのはハクアの侍女キセであった。

 彼女はハクアと供にロザン城へ参上すると、手伝いとして暫く台所仕事をしていたのだ。


 杯を取ると、リフは自ら酌をしだした。これにはユクルも恐縮し、ついつい頭を低くする。互いの杯に酒が満ちると、リフは立ち上がり、一同に声を掛けた。


「ナンミ家とアシジロ家との末永い安泰と繁栄を祝して……」


 言うと一同杯に口を近付ける。が、その時だ―――。


「お待ち下さりぇっ!!!」


 大広間に突如大声が響いた。何事かと思い、皆の視線が集ると、其処に居たのはキョウサクだった。

 彼は一同の前に躍り出ると、ナンミ家大名の前に平伏し早口で告げる。


「その酒には毒が入っておりますりぇ!」


 突然現れたかと思えば、大きな声で彼は衝撃的な事を口にする。


「おりゃあはキセ殿が、酒の毒見役と口論し、飲ませなかった所を見ましたりぇ!! 恐らく自身が入れた毒がばれないよう、拒んだに違いありませんりぇ!!」


「控えよ! 私はハクア姫様の侍女であるぞ! そのような事をする筈無かろう!!」


「なりゃ、何で毒見をさせなかったんりゃ? 怪しいりぇ!!」


「これは大殿が特別に用意させたお酒です。それを先に栓を開け、味あわせ等無かったのです!」


「おりゃあはキセ殿が密かに毒を持っている所も見ましたりぇ!」


「その方は私を愚弄する気ですか!?」


「あくまでも言い逃れする気かりぇ? なりゃ、これを言わなければならねえりぇ。大殿! 実は此度の一件には、其処に居りますアガロ・ユクシャ殿が暗躍しておりますりぇ!!」


 彼が放った一言により、皆の視線が一斉にアガロに集中する。

 リフはギロリと鋭い眼光を向けた。


「おりゃあは昨夜、ユクシャ殿が城を密かに抜け出し、屋敷へ戻って台所でキセ殿と密談している所を目撃しましたりぇ!! その時、包みのような物を手渡してましたりゃ!!」


「……わっぱ。誠か?」


「確かに昨夜、城を抜け出し、キセに会いに行きました」


 アガロは至って涼しい顔で淡々としていた。取り乱さず大人しい。

 しかし、その態度には裏がある、と感じたキョウサクは更に語調を強くして続けた。


「これは間違いなくナンミ家に対する裏切りだりぇ!! 大殿とアシジロ様両名の暗殺を計画する等、言語道断だりぇ!!!」


 場が静まると、リフが杯を片手にアガロの前までゆっくりと近付いてきた。


「飲め」


 老人は冷たい言葉と、疑った眼差しで彼に酒を勧めた。


「では、頂きます……」


 言うと彼は両手で杯を受けグビッと酒を飲んだ。

 瞬間。キョウサクはハッとする。


(飲ん、だ…りゃと?)


 普通ならば拒んだりする筈だ。それとも逃げ場が無い故、自ら命を絶つ事を選んだのか。

 そう考えていると、静まった大広間にユクシャ当主の声が響く。


「頂戴しました」


 何も起こらなかった。暫く様子を見るが、アガロに変化は起きない。只、黙って着座しているだけだ。

 すると、ナンミの大大名はゆっくりと振り返り、キョウサクの名を呼んだ。


「キョウサク……。毒は盛られておらなんだようじゃな……?」


「そ、そんりゃ……。な、なりゃ! キセ殿の包みは!?」


「これは只の風邪薬に御座います」


「か、風邪薬りゃと!?」


 キセが懐から取り出した紙の包みは、昨夜自分が見たのと同じ物だったが、彼女は毒で無いと言い張った。


「この所、寒い日が続きましたゆえ、ユクシャ様が、御方様の御身体を心配なされ、私めにこれを預けたのです」


「なん…りゃと…?」


「信じられませぬか? ならば……」


 言うと、キセはその包みを開けると、中に入っていた白い粉をサラサラと口の中に流し、時間を掛けて飲み込んだ。

 此方も様子を見たが、キセの容態に変化は無い。


「お分かり頂けましたか? 此度はハクア様とお城へ参った際、御祝いの酒番を勤めたので御座ります」


「わしはその事、聞いてはおらんが?」


「態々この様な事を、大殿のお耳にお入れするまでも無い事かと……」


 これには流石にリフも苦笑した。キセは可愛がっている娘の侍女だ。酒番の役を買って出ても誰も怪しがらないだろうし、そんな事を一々リフに伝えたりはしない。

 普段から多忙な大名が、今日の酒番は誰か等、覚えている訳ないからだ。

 リフに対して一歩も退かずに堂々とするキセを見て、意外に肝の据わった女性なのだとアガロは思った。


「おまけに酒に毒を盛る等、私は何一つ身に覚えが御座りませぬ」


 憤慨、とばかりにキセは言い放った。

 そして、彼女とは逆にキョウサクの顔色がドンドン悪く成っていく。


「キョウサク……」


「は、はっ! も、申し訳―――ぐっ!!?」


 慌てて平伏するも、彼は顔面をリフに蹴り上げられ、後ろへもんどうり打って転がった。見上げると、怒りに燃える老人の目が、キョウサクを睨み付けていた。

 蛇に睨まれた蛙のようだ、と誰もが思い、そして次に何が起きるか、簡単に予想出来た。


 リフは左手を伸ばすと、小姓が彼に太刀を握らせる。

 スラッと抜き身にすると、老人は刀を振り上げた。


 この時、逃げようと思えば逃げれたであろう。しかし、この長年戦場を渡り歩いてきた老将の眼光に気圧され、身体が震えだし、声を発する事も出来なかった。

 自身の最後を覚悟するが突然、両者の間にユクシャ当主が割って入った。


「お待ち下さい」


「わっぱ。退け。斬られたいか?」


「いいえ」


「ならば退かぬか!」


「退きません! 本日はアシジロ殿と、姉上の婚儀を執り行った神聖な日にて、刀傷沙汰は控えて頂きたい! 目出度い日に血を流すような事をすれば、両家の絆にひびが入るやも知れません!!」


 珍しくアガロはリフに楯突いた。

 これにナンミの大大名は眉をひそめる。

 すると、アガロの隣にユクルが着座した。


「ナンミ殿ぉ。今日の処は、義弟に一理あると思いますわぁ。どうか此処は、おらぁの顔に免じて、勘弁してくんろぉ~」


「ユクル殿。この不届き者を許すと申すか?」


「いんや。この男は不届きなんかじゃねぇ。ナンミ殿とおらぁの事を心配し、命を張って助けに来てくれたんだぁ。こんな忠臣を死なせちゃ勿体無ぇよぉ~」


「俺も右に同じく。キョウサクは普段から何かと目聡く、耳聡い男。そして、こいつはユクシャ組の足軽です。部下の失態は、俺が取りますゆえ、如何か此度は平に御容赦の程を……」


「…………ふん」


 リフは刀を納めると、上座に戻った。

 しかしその時、怯えたキョウサクだけは気付いた。アガロの雰囲気が、何時もと違う事を感じ取る。


(まさか…こいつはおりゃあを利用して、大殿に恥を掻かせたかりゃ……!? おりゃあにわざと後をつけさせて、キセ殿とのやり取りや、酒の一件全てが計算だったという事かりゃっ!?)


 城から抜け出して、自分に尾行させた時から既に、アガロの術中に嵌っていたのだ。

 ルシアの婚儀ともなれば、ハクアは必ず城へ上がる。となると侍女のキセも当然一緒だ。

 キョウサクは昨夜からキセを監視していたが、その対象が酒番と成ったのも全て自身に失態をさせ、リフに恥を掻かせる為の計画だったのだ。


 キョウサクは、そうとも知らずに、キセが酒に毒を盛り、ユクル・アシジロを暗殺して、ナンミ家との関係悪化を計画したのだと勘違いしたのだ。

 何故、こんな事をしたのか。キョウサクには見当付かなかったが、恐らくは此度の腹いせなのだろう。だとしたら相当に性質が悪い。


 キョウサクは内心、相当に悔しがりまた歯軋りした。

 そして、今度はユクルの方を見ると、この男はへらへらと笑いながらも、何処か気分が晴れやかな様子であった。


「キョウサク。下がれ」


「はっ! ユクシャ様! 申し訳御座りませんりゃ! 平に御容赦の程を!!」


「なぁに、おまぁが気にする事無いでよぉ」


「アシジロ様にも御迷惑を掛けてしまい、申し訳ありませんりぇ……!」


 キョウサクはおずおずと大広間を去る。

 次にアガロとユクルの二人は立ち上がり、自身の席を戻ろうとした際、ポツリとユクル・アシジロは、義弟の耳にしか聞こえないように小声で呟いた。


(お蔭で溜飲が下がったぁ……)


 アガロは表情を変えず、何も聞いていない素振りで自身の席に着座するが確信する。


(あいつはリフに心服してはいない……)


 キョウサクの思った通り、彼はこの席にてリフに恥を掻かせる事が目的であったが、それともう一つ別の目的があった。

 新たに出来た義兄の本心を探る事である。この一件でどんな行動を取るか。それを期待したのだ。


 自分と同じように、キョウサクを庇うか、それともリフに楯突くのを恐れて、上座で怯えているだけか。

 結果は好ましいものだった。

 アガロは下座から、上座に座るユクルを観察する。


(機会が訪れれば、必ずやナンミ家に離反する筈だ……)


 ユクシャ当主は、久々に胸がスカッとする思いだったが、失念していた。リフが執念深く、必ずや怨みを忘れず報復する性格だった事をである。

 上座に座るナンミの大大名の目が、怒りの色に染まる―――。

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