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第五十四幕・「抗戦」

【――リンヤ村・北方付近――】


 リンヤ村の北に位置する森林の中で、その数(およ)そ五十以上の武装集団の姿があった。彼等の身に纏っている衣服や装備は使い古されぼろぼろ。持っている武器も刃の欠けた刀や、柄が折れ少し短くなった槍などである。

 その中で一際目立つ厳つい風貌の大男が声を張り上げた。


(おせ)ぇぞ! さっさと進め!!」


 言うと手下達を急かし、前進させる。

 この熊髭の大男である頭は酷く苛立ち焦っている様子であった。 

 足元が悪く、木々が生い茂り薄暗い山の獣道を進んで行く。


「なあ、チャド。この先に本当に村があるのか?」


「急に何言ってるのさシンカ。今の僕達はお頭の命令に従うしか無いだろ?」


「つべこべ言ってないで、さっさと進む!」


「いて!?」


 ぼやきながら重い足を進めていた略奪集団の一人青年シンカは、背中を思い切り幼馴染のキサザにどつかれた。

 その見慣れた光景を何時もの調子で見ているチャド。


 シンカは幼馴染の二人と一緒に昨年ナンミ軍へ入り、先のテイトウ山の戦いで味方から殺されそうになった所を三人で逃げ出し、熊髭の頭目を頼って身を寄せたのだ。

 その後はテイトウ山周辺に迷い込み、偶然発見したキン村を襲ったのである。


「それに、頭が言うには、今度こそ飯がたらふくあるって話しだよ?」


「そうよ! 早く行かないと無くなるわ!」


 キサザは色黒でお世辞にも美人とは言えないが、昔から気立てがよく、男勝りな所があり、槍を良く使う村一番のお転婆娘だ。

 そんな彼女だからこそ、粗暴な集団の中でもやっていけるのだろう。

 対してチャドは大人しめの好青年である。


「でも、お頭は何か焦ってるようにも思えるな……」


 少し考える仕草をするチャド。

 彼が思うに、恐らく熊髭の頭は先の村では大して獲物を得る事が出来なかった事に苛立ち、行軍を急がせている。もたもたしていては部下達の不満が集まり、自身の立場が危ういからだ。

 しかし、そんな彼に細身の青年シンカはえらく楽観的だった。


「だがよ、これから行く所も何の武装もしてないんだろ? 前に襲った村同然だって話しだぜ?」


「それは、そうなんだけどね……」


 先に襲撃した村は他の村と違い、何の武装も無く、楽に落とす事が出来た。

 その上、次に狙う村も同じ逃亡奴隷や訳ありの者達が集う集落だという情報は既に掴んでいる。キン村の者を拷問に掛け、吐かせたからだ。

 集団は全体的に、次の獲物の確保にそう梃子摺(てこず)りそうにもない、と精神的にも余裕を見せている。


「あんたは昔から心配性なのよ!」


 キサザが笑い飛ばすと、それに便乗したシンカは、心配性なチャドの背中を大きく叩いた。

 痛かったのか擦りながら睨んできた背の低い幼馴染を尻目に、色黒の娘と細身の青年は先を進む。


「頭! 見張りが戻って来やした!」


 先頭を行く手下の報告を聞くと、頭は行軍を止める。

 その見張りには村の状況を確認させ、異変があれば直ぐに報せるように言いつけてある。戻ってきたという事は、何か村に動きがあったのかも知れない。


「一体なんだ?」


「シンカ。あたし此処からじゃよく見えない。肩貸して」


「おわっ!? お前なぁ!?」


「いいじゃん、ちょっとくらい……」


 状況が気になり、幼馴染に肩車をして貰ったキサザ。

 先を進む頭目の部隊を眺めると、彼女は見慣れない一人の鬼の娘を確認する。

 鬼娘は縄で縛られていた。その彼女の目の前でふんぞり返っている熊髭の頭目が、連行して来た見張りを睨む。説明を求めるている様子だった。

 それを理解したのか、見張りが口を開いた。


「こいつはこの先にある村の住民だそうですぜ。何でも頭と話がしたいって言ってきたんで、連れてきやした」


「馬鹿野郎!!」


 唾を飛ばしながら怒鳴りつける頭に、見張りは顔を青ざめ萎縮(いしゅく)した。


「こいつは差し詰め俺らを足止めする為の死に役だ! 殺せ! 先を急ぐぞ!!!」 


 彼女には一瞥(いちべつ)もくれず、頭は行軍を再会しようとすると、突然(あざけ)るような高笑いがした。

 声の方を振り返るとそれは先程、見張りが連行した鬼だった。


「何が可笑しいんだ?」


 頭は訝った。そして、彼女の高笑いが嫌に癪に障る。

 女は笑いを止めて、何処か神妙な口調で、


「別に、あたしを殺した後、あんた達が落胆する姿を想像したら、笑えてきただけよ」


「どういう事だ……?」


 これから死ぬのにも関わらず、余裕の笑みを見せる女。

 この場で時間を使いたくはなかったが、その笑みの理由が気に掛かり頭目は訊ねた。


「さっさと殺しなさいよ。急ぐんでしょ?」


「俺らが落胆するってのはどういう意味だ? それを先に言え!」


 怒声を上げて脅して見せるが、女は表情を変えず、逆にキッと睨み返される。


「まさかテメェ、さっきのは単に俺らを足止めする為の脅しかはったりか?」


「そんな訳無いでしょ?」


「なら早く言え! 内容によっては命は助けてやるぜ?」


 条件を付けると、女は少し間を置き、口を開いた。


「この先にある村はもう蛻の殻よ。村人は居ないわ」


「んだと!?」


 手下の一人が驚き叫んだ。そいつは一歩にじり寄り『そいつは本当か!?』と真意を訊ねた。


「本当よ。あんた達が逃がしたキン村の奴が居るでしょ? そいつから話を聞いて、村の奴等は全員食料を持って西の方角へ逃げてったわよ」


「証拠はあるのか?」


「あたしに聞かなくても、あんた達が放ったこの見張りから聞きなさいよ」


 挑発的な態度を取る彼女に、手下は苛立ったが、頭はそんな事は気にもせず、直ぐに彼女を連行して来た見張りに話を聞いた。


「頭。この鬼の女が言ってる事は本当だ。村から食料持って逃げ出したのは間違いねえ。おれや、他の仲間も見た。それと、中には病人や怪我人も混じってたぜ」


「それを早く言え、馬鹿野郎!」


 怒鳴り散らす頭目。しかし、その態度とは裏腹に、然程驚いてはいなかった。村人が逃げ出す事も予想していたからだ。

 そして、怪我人や病人を伴っての逃避行ではそれ程早くはないだろう、と算段も付けている。追撃すれば直ぐに追い付く筈だ。

 そんな彼へ、縛られている鬼娘は更に付け加えた。


「それと、西の山道から追撃したら返り討ちに遭うわよ? 村の奴等があんた達を其処で待ち構えてるから」


「頭。それも見た。村の若い連中が最後に西の山道へ向かって行ったし、他の見張りが様子を見てきたんだが、人影見たいのが見えた、と報告してきやした」


 頭目は暫し考え込んだ。部下の証言と一致している、という事は伏兵が潜んでいるのは本当だろう。

 その時、初めて頭は村人追跡を少し躊躇(ためら)った。

 (ろく)に武装もしていない村の連中なら、然程苦労せずに殺せるだろうが、西の山道で時間を食っては村人達を逃がす事になる。


 当然、そうなれば部下達の間に不満が募るし、獲物が手に入らなければ納得はしない。

 今は大人しいが、自分に対する不信感が多く集まればやがて結束し、反逆してくるだろう。

 自身の立場が危うくなる。


「テメエの目的は何だ?」


 頭目は凄みのある目付きで睨んだ。

 その侭一緒になって逃げれば良いものを、鬼の女は態々(わざわざ)自分からこっちへ来たのだ。足止めが目的なら、山道での待ち伏せで済む筈。

 それ以外で彼女に、何か目論見があるのでは、とこの大男は勘繰った。


「あたしはあの村から出たかったのよ。でもね、村は酷く閉鎖的だし、村人が外へ出て、外界の者に村の存在を知られるのを恐れてたの。だから何時までも出られないでいた。そんな時、あんた達が現れたって訳。出来るなら、あたしをあんた達の仲間に入れて欲しいんだけど」


「詰まりテメエは俺らと一緒に村の連中を襲うと?」


「そういう事」


 どうする、と一瞬迷った。

 そんな彼の心中を察したのか、女の鬼は続ける。


「此処で迷っていてもしょうがないんじゃない? それよりもあたしを使えば、逃げた村人達のいる場所へ案内出来るわよ?」


 確かに、と内心頷く。此処で迷って時間を潰せば、村人達は食料持って更に遠くへ逃げていくだろう。

 しかし、厄介なのが山道にて待ち伏せしている奴等。


「テメエ。西の山道を通らねえで、奴等に追いつける道を知ってるか?」


「当たり前でしょ。それを土産に、あんた達の所へ来たんだから」


「テメエ戦えるのか?」


「あたしはこう見えても傭兵よ。訳あってあの村に世話になっていたけど、早く元の稼業に戻りたくって。でも、それには途中食料も要るし、奴隷を何人か連れてって売れば幾らか稼げるわ」


「気に入ったぜ!」


 頭目は自身の刀を使い彼女の縄を切ると、肩をがしっと掴んだ。


「案内しな! 報酬は山分けと行こうぜ!!」


 何とも太っ腹な事を言って見せるが、勿論その気は更々無い。彼女を利用し、この山を抜ければ用済みになるし、殺してしまえばいいだけの話である。


「テメエ、名は?」


「イルネ。宜しく」


 軽く自己紹介をすると、イルネは彼等を案内する為、先頭に立って進んで行く。


「もう良いわ。ありがと」


「どうなってた?」


 さっと彼の肩から下りたキサザが事情を軽く説明する。

 成る程、と納得するシンカ。

 だが、楽観的な彼とは対照的にチャドとキサザは浮かない表情だった。


「どうした?」


「なんだか嫌な予感がして……」


「それは僕も同じだよ。あの鬼の娘は怪しいね……」


 しかし、此処でじっくり考え込んでる暇を、熊髭の頭目は与えてはくれなかった。

 直ぐに進軍命令が出ると、先程感じた不安を二人は振り払うようにかぶりを振った。


「気のせいよ。何でもないわ」


「急ごう。遅れたら、道に迷うよ」


 イルネ、という鬼女に案内され集団は村を迂回し、西の山道へと向かう。

 熊髭の頭目は彼女を警戒し、途中で隙を見て逃げ出すのではと勘繰ったが、そんな事は直ぐに考えなくなった。

 目的地へ到着したからだ。


「着いたわよ」


 言われて辺りを観察する。

 山の中腹に位置する林の中。未だ日は暮れていないにも関わらず辺りは薄暗い。下の方は隘路(あいろ)になっており、左右を山の斜面に挟まれている。


「あそこが見える?」


 イルネの指差す方角へ目を向けると、眼下には多くの荷物を中心に集め、その周りを囲む村人らしき存在が見て取れた。

 彼女の抜け道を使ったお蔭で、比較的早く着いたのか、未だ其処に留まっている。

 念願の獲物を見つけた手下共は昂ぶった。頭目も眼前に居る獲物に目を奪われ、周りが目に入らなくなったくらいだ。


 今迄散々探していた食料が山済みになっている。あれを奪えば当面は安心だろうし、部下達の間で不満も一気に減る。

 熊髭の頭目は意気込み身を乗り出すと、自慢の刀を片手に(かざ)し、声を一段と張り上げた。


「テメエ等! 獲物は目の前だ! 奪え!!!」


「飯だ!」


「俺が先だ!」


「早い者勝ちだ! 行くぜ!!」


 手下共は一気に獲物へ目掛けて群がって行った。

 目は血走り、キン村では満足出来なかった飢えをこれで満たせると思うと、我先にと斜面を下り、食料の周りに屯している村人らしき影へ襲い掛かった。

 シンカにキサザ、チャドも続けて斜面を駆け下りる。

 しかしその時、頭目をはじめ手下共全員が異変に気付く。


「―――頭! これは村の連中じゃねえ!!」


「んだと!?」


「こいつは只の案山子(かかし)だ!!」


 頭はそれを聞くと仰天した。しかし、気付いた時には遅かった。 


「今だ―――!!!」


 瞬間、上から脳天に響くような甲高い大声が聞こえた。


「何だ!? 今の声!!?」


「上の方からよ!」


「シンカ! キサザ! 気を付けて!!!」


 三人は声のした方角へ、仲間達と同様に目を向ける。

 そして次に彼等は絶望した。無数の亜人達が何時の間にか左右の斜面の上に陣取っているからだ。

 自分達を案内したイルネの姿は、何時の間にか消えていた。


(とき)の声―――!!!」


 次の合図が聞こえると、上でいきなり亜人達の咆哮(ほうこう)が響いた。

 鬼、獣人、天狗に人間達が思い思いの大声を上げて、眼下に密集する集団を圧倒した。

 今迄聞いた事がない怒声に奇声が木霊(こだま)し、彼等を震え上がらせる。


「ぐっ!?」


「どうした!?」


 突然、隣に呆然と立ち尽くしていた手下が倒れた。

 彼を見ると顔が潰れている。頭目は青ざめた。


「投げろ――――――!!!」


 一斉に頭上から石が投げられる。所謂、投擲に彼等はあっという間に大混乱に陥ってしまったのだ。

 彼等は一瞬で恐怖に駆られ、その場から逃げ出したいと思った。何故なら今の状況は、以前彼等が経験した戦――テイトウ山の戦い――に酷似していたからだ。


「今だ! 逆落としを掛けろ!!!」


 指示を飛ばすと、獣人達が一斉に斜面を駆け下り、敵の前面を塞いだ。前が無いと分かると、残るは後方だけである

 手下共は後退し、隘路の出口へ目掛けて駆け出した。恐怖が最高潮になり、終いには味方を押し退け、自分だけでも先に助かろうと無理矢理進んだ。


 しかし、狭い道の所為で上手く身動きが取れず、良い的にされてしまう。

 その為に転んでしまった者は味方に踏み殺され、もたもたしていた者は頭や胴に(もろ)に石を喰らい骨が折れ、その場に(うずくま)る。



「うわぁぁぁ!? こいつ等、此処に隠れてやがった!?」


「殺せ! 皆の仇だ!!」


 出口付近に潜んでいたのは、村の西口に居た筈の若い者達数十名。彼等は、西口に暫く留まっていたが、頃合を見計らって密かに移動していたのだ。

 前を塞がれ後方に下がる事しか出来なくなった敵は、まんまと出口付近で待機していた彼等の伏兵に出くわしたのだ。

 そして、略奪集団が来ると、合図を出し、一斉に石を投げた。


「ぐっ!?」


「っ! シンカ―――!!!」


 シンカが投擲を受け倒れた。

 直ぐ隣を走っていたチャドは、彼に肩を貸し立ち上がるのを手伝うが、シンカは慣れない細道での撤退と、味方が密集した事により、上手く身動きがとれないでいた。

 チャドはそれでも諦めないでいると、先を進んでいたキサザは脇目も振らず一目散に戻って来た。


「馬鹿、キサザ! お前は逃げろ!!」


「あんたの事はおばさんに任されてるのよ! 見捨てるなんて出来ない!!」


「母さんの言った事は気にするな!」


 シンカは自身が此の侭では足手纏いになり、同じ村から共に出た幼馴染二人を殺してしまう、と危惧した。

 自分は捨てて逃げろ。そう言うが二人は無視を決め込み、彼へ肩を貸すと、一気に走り抜ける。

 だが次の瞬間、キサザが倒れた。


「「キサザ!?」」


 色黒のお転婆娘の幼馴染を見て、二人は血の気が引いた。

 彼女の頭から血が流れ、意識が朦朧(もうろう)としているからだ。

 チャドから離れ、痛みを忘れてシンカは直ぐに彼女を抱き上げる。


「あ、あんた、だけでも…逃げて……!」


「いやだ!!」


「……っ! 馬鹿!!」


 キサザは視界がぼやけていく。体が思うように動かない。恐らく自分は此の侭死ぬのかも知れない。しかし、それにずっと一緒だった二人を巻き込みたくは無かった。

 最後の力を振り絞り、涙目になるシンカの手を握った。


「あんたに、だけは……、生きて、欲しい…の……」


「キサ、ザ? キサザ―――!!?」


 必死で呼ぶが返事が無い。同じ村で生まれ育ち、共に成長して行った幼馴染。その彼女は無残な姿で逝った。


「うあぁぁぁ――――!!!」


 大声を上げ泣き叫ぶシンカ。


「シンカ! 此処は危険だ! 早く安全な場所へ!!」


 チャドは涙を堪えながら、シンカの手を握り、急いでその場から離脱する。

 シンカはキサザの形見の槍とお守りを咄嗟(とっさ)に手に取り、後ろを振り返った。

 その時、彼は見逃さなかった。斜面の上で亜人達に指示を飛ばす者の姿を、黒髪で甲高く良く通る声を発する少年を―――。



【――リンヤ村・西の山中――】



 投擲をかましただけであり、村人は追撃してはこなかった。

 集団は暫く後退をすると、少し開けた場所へ出る。


「何人残った!?」


 急いで逃げ出し、息を切らせながら頭が周りを見渡すと、目に入るのは凡そ数人にまで減った手下共。

 皆息を荒げ、満身創痍の表情であった。他の奴等は、隘路でくたばるか、若しくは何処かへ散ってしまったのだろう

 一人歯軋りする思いだった。すると後ろで一人が叫んだ。


「どうした!?」


 振り返ってみると、手下が尻餅を付いて、がたがた震えながら森の奥の方を指差す。


「か、かかか、頭!? あ、ありゃ何だ!?」


 すると、地面が僅かに振動する。森の奥の方から大きな影が浮かび上がり、次第に近付いてくる。

 頭や周りの部下達は冷や汗を流し、森を凝視した。


「で、でけぇ……」


「なん、だ…こりゃ!?」


 目の前に現れたのは、身の丈一丈を越す大男、巨人だ。

 そして、その存在が目の前に登場しただけで、この略奪集団を絶望させるのには十分だった。


「オォォォォ――――――!!!!」


 突如、巨人が叫んだ。

 それにより、再び集団は混乱する。圧倒的体格差と、見るからに凶悪そうな風貌が彼等を恐怖のどん底に落としいれ、慌てさせた。

 頭目は巨人の大声に耳を塞いでいたが、他の部下達は腰を抜かし、蜘蛛の子を散らすように四散してしまった。


「くそ! 覚えてやがれ!!」


 捨て台詞を吐き、その場から逃げ出す。

 しかし、頭目は動けなくなった、背中から心の臓を一突きにされたからだ。


「村の皆の仇よ!」


「へ。やるじゃ、ねえ…か……」


 イルネが短剣をすっと引き抜くと、熊髭の大男はドサッと地面へ崩れた。

 後に残されたのは、緊張が解け冷や汗をどっと流し、へなへなと膝を曲げて尻餅を付いた巨人と、勝利を信じられず、呆然としている女の鬼の二人だけであった。

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