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「キョウサク奮闘記」 後編

 茜色の空。カラスの鳴き声が外から聞こえてくる。日が沈み始め、城下町の住民は皆、其々の家へ帰宅し、疲れた体を休めるが、東の離れ通称『雨漏り屋敷』に奉公しているキョウサクに、そんな暇は無かった。


「わ! 今度は台所が雨漏りしてるわよ!?」


「またかよ!?」


 一昨日雨が降った所為で、屋敷は驚く程水浸しになった。最早、雨風しのぐ屋敷の意味を為していないのではないか、と思うくらい屋敷は濡れた。

 特にこの屋敷は窪んだ土地に建っており、水溜りが沢山できる。夏場は地獄で、蚊が大量に沸き、痒くて仕方が無いという。


(ユクシャ様が此処へ住んだのは、恐らく、金を節約したかったからじゃねえかりぇ?)



 キョウサクにはそう思えてならなかった。

 立派な館は持ち主の威厳を現す。ビ郡へ移住する豪族達がこぞって、豪華な館を建造するのは、そういった見栄から来るものである。

 が、ユクシャ当主は既に建っていたこの離れに住む事により、無駄な出費を抑えているのかも知れない。


 ぼんやりとそう考えながら、キョウサクは奉公人達があの手この手で、雨漏りの対応をしていているのを横目で流しつつ、当主の居る所へ向かう。

 彼は今、入浴中である。


 そこでキョウサクは三助をしようと、風呂へ入る。彼はこうした気配りをする男でもあった。

 未だアガロは彼に対して警戒心を持っているように思える。彼は今日初めて彼の背中を流す事で、ちょっとでも打ち解けて貰おうと企んだ。



「ユクシャ様。入りますりぇ……」


「何だ……?」


 いきなり風呂へ入ってきてた彼を、怪訝な顔で睨む当主。


「お背中を流しに参りましたりゃ」


「そうか」


 彼は別に嫌そうにせず、座って背中を見せた。


(こりゃまた、近くで見るとすげえ傷痕の数りゃ……!)


 キョウサクは彼の背中にある無数の傷痕に驚愕する。よく見るとそれは背中だけではない。肩、胸、腕や足と至る所に見て取れた。


「ユクシャ様は随分と勇敢なお人なんですりぇ!? こんな数の傷、一体どうやったら付くんですりゃ!?」


「戦に出れば、自然とこうなる」


 驚き隠せず、やや興奮気味のキョウサクとは対照的に、アガロは冷めた口調で返答した。刀傷や槍で突かれた痕。矢傷に、鉄砲で撃たれた痕もある。

 まじまじと、背中を洗いながら見ていると、アガロは右肩辺りを指差す。


「これは昔、レラにやられた痕だ」


 コロポックルの少女レラはユクシャ組一の弓使いである。

 そんな彼女の矢までも過去に喰らっている。


「ひぇ~…」


「ユクシャ組は敵に一番狙われるからな……」



 キョウサクは成る程と頷く。ユクシャ組は殆どを亜人で構成されている。詰まり、戦場では立派な略奪対象になるのだ。

 戦が劣勢になり、味方が撤退すると、敵は必ずと言っていい程、自分達の組へ殺到する。


 多くの亜人を捕らえ、商人へ売り飛ばしたり、或いは自分の家の奴隷とする。時には彼等の体の一部を収集し、商品として売り出す者も居る。特に獣人は皮を剥がれたり、尻尾や耳を切り取られる。


 鬼は容姿のいい者――特に女の鬼――は性奴として売られるが、そうでなければ、角や牙を抜かれ、装飾品として加工される。

 そういう経緯から、ユクシャ組の損害率と死傷率は、ナンミ軍一であり、またユクシャ組はナンミ軍最弱の部隊と評されていた。



「俺等は一番の的だ。故に味方を逃がす時の殿によくなったりもする……」


 結局は捨て駒である。亜人の部隊であり、尚且つそれを指揮するのは人質の当主。どれを失っても、ナンミ軍にとってそれ程の損失にはならない。


(ユクシャ様はお若いのに、修羅場を潜り抜けていりゃ……)


 士族を目指す者として、素直に尊敬の眼差しを向けた。

 だが、黙っている侭ではいけない、と彼は思った。折角三助に来たのに暗い雰囲気にしては、返って逆効果になってしまう。

 キョウサクは話題を変えようとするが、瞬間迷う。


(え~っと―――……。ありゃ? ユクシャ様には何を話せばいいんりゃ?)


 彼は色々と話題を考える。話しに尽きる事が無いくらい、彼の引き出しは豊富であるが、何せ相手が相手だ。下手な事を言えば直ぐに黙るよう言われる。


(ユクシャ様はおべっかを嫌うかりゃな……)


 彼が人に取り入る時によく使う、ヨイショは通じない。寧ろ不快と思っている節がある。

 ならば何があるか? と彼は再考する。そして、彼は逆にどういった人物を、この当主は気に入るのであろう、と考察した。


(恐らくユクシャ様は、目利きが出来て、耳聡いお人を可愛がりゃ……)


 目利きとは、周囲に気を配り、大きさに関わらずどのような些細な事にも、直ぐに気付く事である。耳聡いとは、情報収集を常に行い、有力な報せを当主の耳に入れる事だ。


 アガロが口先だけで、実際仕事をさせると役に立たない者を嫌うのは、彼の家が実力主義を重視しているのに他ならない。

 祖父のイヅナは、シグル・イナンを取り立て、父コサンはソンギ・ハンや下級の村役人だったナンジェ・カイを登用した。


 そして、現当主はその傾向が顕著に見て取れる。彼はこの二人以上に実力主義である。

 その時キョウサクは、ふと思った。


―――もし、彼が大名だったら、自分はとっくの昔に士族に成っていたのでは?


 キョウサクは自分でもよく気が付く方だと思っている。目利きも出来るし、耳聡いのにも自信がある。そうでなければ、彼がリフの身の回りの世話をする小人頭へ出世など無理な話である。

 そんな事を考えていると―――。


「上がる」


「あ、未だ十分に洗えていませんりぇ!?」


 アガロはさっさと風呂から上がってしまった。じっとしていられない性格だからだろうか、彼は既に手拭いで体を雑に拭き、着替えを羽織る。

 よくそんなんで人質を続けられるものだな、とキョウサクは内心呆れてしまった。或いは、アガロは窮屈で忍耐を必要とされるこの生活により、溜まった鬱憤を晴らす為、普段から動き回っているのかも知れない。



【――広間――】



「ヤイコク。今夜は?」


「はい。奉公人が釣った川魚の塩焼きです」


「ん。上手そうだ」


 風呂の後は、夕食になる。この時間帯は彼の主だった御供衆が集まり、食事を始める。一日の内で全員が集まるのはこの時だけである。

 奉公人達はこの時、台所仕事で忙しい。配膳から、洗い物、水が足りなくなれば、直ぐに井戸へ向かい、汲んで来る。


 そして、皆の前へ食事を運び出す。

 キョウサクは廊下へ出て、何か言われるまでは動いてはいけない。

 彼はそっと広間を覗いてみた。ヤイコクを筆頭に、赤鬼ドウキ、青鬼トウマ、半妖リッカ、コロポックルのレラ、そして珍しく俊足の鬼デンジが座している。


「レラちゃん。今日は如何だった?」


「リッカちゃん聞いて下さいです……。今日の訓練は疲れたです……。皆さんに弓矢を教えるのは、中々に大変です……」


 配下達は雑談しながら、食事を始める。朝もこうして集まるのだが、当主のアガロだけが抜ける。彼は極端に早起きであり、キョウサクが向かって、朝食が出来ていると知らせると、直ぐに出て行き、ぱっと食す。そして、あっという間に表へ行ってしまう。


 昼間は皆、思い思いの仕事に向かう故、会う事は無い。

 特にデンジを見るのは三日ぶりであった。彼はここ数日姿を見せていない。


 その様子から察するに、偵察や間者の仕事をしているのでは? とキョウサクは推測しているが、屋敷の者達誰も教えてはくれない。

 未だ、自分に対して周囲は警戒しているのだろうか、若しくは当主の言い付けか、彼等は口を割ろうとはしなかった。


「明日は組を見る」


 短く明日の予定を伝えると、何時もの調子で、当主は側近ヤイコクの手料理に舌鼓を打ちつつ、手早く済ます。

 一応の作法としては、家臣達は当主が食い終わる頃に、食べ終わってなければならない。だが、アガロは『飯くらい、自分の好きな時に食い終われ』と一言言い、以来、皆食べ終わる時間がばらばらであった。


 しかし、それでは矢張りいけないと、ヤイコクが提案し、自分と同じ頃合を見計らって、食べ終わるように言い付けた。

 彼の箸の進み具合は至って早くもなく、遅くもなく、皆無理せず食事を楽しむ事が出来る。これも教育の一環であり、他の者達も作法の勉強と従った。


「上手かった」


「勿体無きお言葉……」


 ヤイコクが礼をすると、アガロは早足で部屋へ戻る。

 既に行燈には灯が点り、布団が敷いてあるが、彼はそれで眠る事は無い。

 キョウサクが寝巻きに着替えるのを手伝いに掛かる。慣れたもので、彼の動きが段々と解って来るのを実感した。


「寝る」


「は! お休みなさいませりゃ! ユクシャ様!」



 何時ものように、柱に背を持たれかけ、大事そうに刀を抱きながら、直ぐに眠りに入るアガロ。

 こうして彼の多忙なユクシャ組での一日が終るが、キョウサクは仕事熱心だった。

 彼はこの間に他の奉公人と親睦を深める事を忘れない。必要以上に謙り、手伝いをしたりして、警戒を解いていく。

 奉公人は鬼ばかりだが、彼は郷に入っては郷に従え、とばかりに自身の誇りを捻じ曲げて、鬼に親切にした。


 来た当初は心の中で毛嫌いし、高圧的な態度にもでたが、今ではそれを改め至って温厚に接する。

 何の事は無い。今迄彼はそうやって取り入ってきた。彼は謙り腰を低くする事が、自身の誇りであり出世へ繋がる。その相手が今は人ではなく鬼に変わった。それだけだ、とそう考えている。


 この時ばかりはキョウサクも自分の舞台とばかりに、愛嬌たっぷりにそして愛想を良くするよう勤め、元々口が上手く、話し上手なのも功を奏し、次第に会話も増えていき、他愛も無い事で笑ったりもする。彼等の心を開いていく。


 不細工で、十五という若い身空にも関わらず、皺が多い顔で笑みを作ると滑稽に見える。

 彼はそれを短所と受け取らず、逆に人に警戒されない顔、と長所として考え武器として使ってきた。



(大分に話をしてくれるようになってきたりゃ……。ここは何かもう一押しすれば、懐柔できるかも知りぇね……)


 仕事を手伝いながら話を続けると、今朝方、自分を急かした女の鬼の奉公人が、


「あたしは殿様には感謝してるよ……」


 と言い出した。


「あたしは戦で足を槍で突かれてね。以来、上手く歩けないんだよ。普通、そういう時絶望しかないんだ……。足手まといは置いて行かれるし、あたしも見捨てられるとばかり思っていた……。でもね、殿様は見捨てずに面倒見てくれた。あの人を回りは悪く言うけど、あたしはそうは思わないよ。寧ろ口下手なところが可愛いじゃないか!」


 彼女は心から感謝をしているようであり、此処に住んでいる奉公人皆、理由は違えど、アガロを恩人と思っている。


「あたしの命は殿様の為に使うよ。それが今のあたしに出来る、せめてもの礼さ……」


 よく尊敬されている。それは正直羨ましかった。

 キョウサクはこの乱世、常に誰かの下である。故に下の者の辛さや不満が解る。だが、この屋敷では奉公人は不満を漏らさず、心から仕えている。そんな彼等を見て、上手く取り入り、欺こうとしている自分に何処か後ろめたさを感じた。


(目的を忘れるなりゃ。おりゃあは武士になるんりゃ……。お武家様の嘘は武略と言うし、何も悪い事じゃねえりぇ……)


 奉公人の部屋で眠りながら彼はそう思った。部屋は混雑している。狭い上に亜人が多い。寝返りを打つのにも苦労する。

 そんな中、疲れも取れずキョウサクは再び目を覚まし、目まぐるしい一日が始まる。



【――ロザン城下町・郊外・練兵所――】



「「一! 二! 三!」」


「声が小せえぞ!!」


 ドウキが叱ると、ユクシャ組の兵士達が声を更に張り上げて、槍の突きの稽古を続ける。

 今日、キョウサクはアガロの供、兼監視役として、ユクシャ組の練兵所へ足を運んだ。

 ナンミ軍は集めた兵士達を、家臣に振り分け、其々指揮統率させる。軍律に背かなければ、どのように訓練してもいい訳であり、家臣達は皆、思い思いの陣立てをさせたり、修練に励ませる。


(話には聞いていたけりょ、こりゃあ、たまげたりぇ……!)


 キョウサクは噂に聞いたユクシャ組を見渡す。

 以前彼等の長屋に足を運び、酒を飲まされ歓迎された事があるが、その時に見た顔もちょくちょく見受けられた。

 そして、キョウサクが驚いたのは彼等の装備である。驚いたというよりも、呆れたと言った方が正しい。彼等の装備はボロボロで、手に持っている武器は使い古されている。


(そこらの農民の方が良い武具を持ってるりゃ……)


 亜人は基本、財産が無い。彼等が武具を集めるとすれば、それは戦場から拾った略奪品になる。

 ナンミ軍最弱の異名を持つユクシャ組の弱さは、その装備の脆弱さにもよる。

 だが、一つ感心した事がある。


(隊列が綺麗りゃ……。兵士達全員、組頭の話を理解して動いてるりぇ……)


 兵士の一人ひとりが皆、命令に忠実に従い、規律を乱す者が居ない。

 ユクシャ組には亜人が多いが、人間も勿論居る。言うなれば、人と亜人の混成組。不仲と思いきや、互いの特徴や癖を理解しているようであり、確りと連携が取れている。


「如何だ、新入り。慣れたか?」


 以前会った、左角の折れた鬼に話しかけられ、相変わらず愛想の良い笑顔でそれに答えた。


「確か、タンゲロウだったかりゃ?」


「おう! 覚えていてくれたのか!」


 鬼は嬉しそうに笑顔になる。

 色々な亜人が居るが、彼、タンゲロウは比較的気さくな鬼だった。


「もうすっかり慣れましたりぇ」


「そうか。そりゃ良かった」


「いんや~、そりぇにしても、凄いりゃ~。ユクシャ組は相当に訓練されていりゃ」


 キョウサクがそう言うと、鬼は何処か誇らしげにして、胸を張る。


「あったりまえよ! おれ等の組は他と違ってそりゃ戒めが厳しいからな!」


「それはどういう意味りゃ?」


 阿呆のようにきょとん、として見せるキョウサク。彼は表情がよく変わる。


「おれ等の殿様はとても軍律に厳しい人なんだよ。ほんの少しでも破ると、直ぐに厳罰になる」


 キョウサクは相手の感情に機敏に反応する男である。

 彼は鬼の表情、声色から只単に軍律に背くと恐ろしいから、と言う訳では無く、過去に何かあったのでは、と勘付く。


「なりゃあ、誰も規則に背く奴は居ないでしょうりゃ。何せ、ユクシャ様は厳しいお人ですかりゃ」


「いや、それがな、昔逆らった奴が居たんだよ……」


「本当かりぇ……?」


「実はな昔、殿様自ら人を三人と鬼を一人、斬ってるんだよ―――」



 タンゲロウは語り出した。

 斬られたのは流れ者の傭兵三名。彼等は未だ若い当主であるアガロを完全に舐めきり、ユクシャ組が亜人の集まりである事から、粗暴な態度が目立っていたという。


 アガロはユクシャ組の長屋を男女で別に分けている、と鬼は言った。

 そういえば、とキョウサクは思い出す。彼が長屋へ行った時、出迎えたのは皆男の亜人ばかりで、女は居なかった。


 アガロは兵士達に無闇な淫行を禁止した。性病が蔓延すれば、体調に関わり組の士気にも影響を及ぼすからだ。

 特に亜人の女は性暴力の対象であり、容姿の整った者が居れば、直ぐに被害に遭う。


 アガロは厳格なまでに組の乱れを嫌った。しかし、例の三人はその言い付けを守らず、女の鬼を犯したという。

 勿論、長屋には兵士達を使い、交代制で見張りをさせていた。だが、何とその中で三人に手引きした男の鬼が居たという。


 その男の鬼は、普段から女の鬼と仲が良かった。しかし、彼は欲に目が眩み、買収され女を外へ密かに呼びつけると、其処で売ったという。

 後日、その事がアガロの耳に入ると、彼は三人の長屋へ駆け出した。



「それで……、どうなったんりゃ……?」


「凄かったぜ……。殿様直々に三人の前へ行ったかと思うと、一瞬で首を切り落としちまいやがった……。そんでその足で男の鬼の元へ行くとな、命乞いに耳を貸さず、斬り殺しちまいやがったんだ……」



 その光景は一瞬だった。アガロは四人の首を掻き切ると、道の上に一列に並べ晒した。

 その場に居合わせた者達皆、戦慄し呆然としていた、と彼は言う。


 また、その時のアガロの目付きも、その場に居合わせたタンゲロウは、よく覚えているという。

 鬼である自分が怖気付いた程、彼の瞳は殺気と、怒気に溢れていた。眉一つピクリとも動かさず、無表情に、冷酷に四人を斬殺し、首を並べた姿はそこいらの兵士よりも恐ろしかった、と彼は語る。


「その時だ。殿様はおれ達に向かって言ったんだ―――」


『種族や老若男女の違いに関係無く、法度を破る者、皆こうだ!』


「―――ってな」



 何時もの甲高く、良く通る大きな声で恫喝したのだろう。それは長屋の隅々まで響いたに違いない。

 常に優しい訳ではなく、時には厳しくする。それは一軍を纏める大将として、必要な素質である。しかし、場合によっては自ら罰を下す処を聞くに、アガロは冷酷で苛烈な一面を持っている、とキョウサクは思った。

 因みにリフにもこの時の事確りと耳に入っている。老人はアガロの処罰を褒め、後に褒美をつかわしたという。


 それにより、周りの組頭は組の無法者を取り締まり、規律を守らせた。

 リフのこの処置は、他の組頭にやる気を与えた。確りと組を纏めれば、褒美が貰える。げんきんだが、そのお蔭で、以前よりも足軽達による、諍いが減り、治安も少し改善した。こういう所を確りと計算している所、実にリフらしい。



「だがよ、そのお蔭でおれ達は安心して仕事が出来るぜ? 殿様は人だろうと、亜人だろうと平等に接してくれるし、今までは何を言ってもこっちが悪者だっが、ちゃんと言い分を聴いて公平に裁いてくれる……」


 隣で聴いているキョウサクは成る程、と感心する。

 其処まで分け隔てなく接するからこそ、彼に対して尊敬の念が生まれ、また回りにその厳しい性格を見せるからこそ、畏怖の念が生まれる。


 ユクシャ当主は、よく組みを纏めている。それを支える、側近や赤鬼に青鬼なども評価されるべきだろう。しかし、残念な事に彼は人質の身であり、周囲の目は冷たい。


「おれ達は何時か殿様にでっかい手柄を立てて貰いてんだ。そんで少しでも恩返しがしたい……」


 彼等がどうして其処までユクシャ当主に尽くすのか、キョウサクには少し解った。

 彼は、馬を忙しなく走らせ、部下達を叱咤激励している馬上の少年を眺めた。


(若しかしたら、ユクシャ様は将来大物かも知りぇね……)


 後日、遂にナンミからセンカ攻めの下知が下る。

 それを知らせると、ユクシャ組の面々は喜び勇み、次こそは功名を立てると固く誓ったという。

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