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「タキ城へ」 其の四

【――明朝・ゲンヨウ軍・本陣――】



「殿、霧が出て来ました、お気を付け下され……」


「敵は中々しぶといな……」


 ゲンヨウ軍の総大将は若き嫡男サク・ゲンヨウ。父に命じられ、彼は領土を広げようと密かに兵を募っていたのだ。

 彼は此度が初陣であり、何とか勝ち戦で飾りたかった。その為、敵の城を落とせないでいる事に苛々している。


「はは、流石はコサンの城。されど直落ちまする。城の兵士達も疲れてきている頃……」


「視界が悪いな……。これでは何時まで経っても城は落ちぬのではないか? 父上が前線で戦っているというに、我等だけ城を落とす事が出来ぬとあっては一族の恥だぞ」


「御心配には及びませぬ。必ずや、城を落として見せましょう」


「頼むぞサンザ」


 ゲンヨウ軍はこの数日、城を包囲している。

 初めの頃は力攻めに出たが、サヒリ率いるユクシャ軍は強く、その上、武勇優れたタミヤとソンギを相手にし、味方の士気は下がり気味であった。

 そこをナンジェが嫌がらせの如く、鉄砲で挑発したり、わざと城門を開けたりして、敵を誘い込んではこれを撃退してくる。


 そこで、城を包囲して敵兵士達の士気が下がるのを待ち、兵糧攻めに持ち込もうとしていた。

 籠城する兵は連日に渡り戦っているゆえ、負傷兵も多い。此の侭じわじわと消耗させようと企んだ。


 天暦(ティンダグユン)一一九六年・未の月下旬。

【――タキ城・城門前――】



「撃てぇー!」


「うわ!?」


「何だ!?」


「敵の奇襲か!?」


 霧に紛れてユクシャ軍が、鉄砲を城門前で張っていたゲンヨウ軍へ発砲すると、敵は突然の銃声に動揺した。

 そこへすかさず、


「続け!」


「「うおおぉぉ!!!」」


 サヒリ率いる、騎馬隊数十騎が敵のゲンヨウ兵へ突撃を駆ける。


「我こそはサヒリ・ユクシャ! 死にたい者から掛かって来なさい!!」


「うわぁっ!? サヒリだ!?」


「ソンギ・ハン! 推参なり!!」


「こっちにはソンギも居るぞ!?」


 両大将の武名は、ギ郡に住む者なら知らない者は居ない。

 その名を聞いた瞬間、城門前の兵士は恐怖から、混乱を始めた。



【――ゲンヨウ軍・本陣――】



「申し上げます! 敵が霧に紛れて奇襲を仕掛けて参りました! 御味方は混乱!」


「この期に及んで奇襲とは……。何とも涙ぐましいですな」


「敵の余力は残されていない! 出て来たならば好都合だ! その侭討ち取れ!!」


「ここは某にお任せ下され!」


「サンザ! 今日こそは決着付けろ!」


「御意!」


 敵の副将サンザが直ぐ様手勢を率いて城へ向かう。

 ゲンヨウ軍が迎撃の構えを見せると、サヒリは部隊を反転させ、城へ取って返した。

――逃がすな!

ゲンヨウ軍は追い討ちをかける。城門を抜け、城内へと進入した。


「来ましたね……。鉄砲隊構え! 敵を討ち取りなさい!」


「ぐわっ!?」


「ぎゃあぁ!!」


 城門を抜けると、待ち構えていたのはナンジェ・カイ率いる数十の鉄砲隊。

 敵は銃弾に晒され、次々と負傷するが、それでも城の本丸目掛けて、城壁を登ってくる。


「次はこれです!」


「うわ!? 丸太が!?」


「気を付けろ! 色々と降って来るぞ!?」


 城壁の上から丸太や石を落とし、敵の壁登りを邪魔する。

 だが、敵は引き下がらない。次から次へと雪崩の如く城へ侵入してくる。


「サヒリ様! そろそろ限界です!」


「ナンジェ、良くやってくれました! 合図の狼煙を!」


「はは!」



【――アガロ隊――】



「若旦那! 狼煙でさぁ!!」


 アガロはトウマの報せを聞くと、すうっと深呼吸を一つする。目を瞑り、一瞬だけ周りが静まり返った。


「……行くぞ!」


 彼は目をかっと見開くと、迅速に指示を飛ばす。


「トウマ率いる鉄砲隊で敵の後方を襲い、混乱させろ! 撃ち掛けたらすかさず道を開け、武器を交代しろ!」


「へい!」 


「敵陣へ突撃を掛けるはコウハ、ギンロ隊! 敵本陣までの道を切り開け!」


「任せろ!」


「……!」


「最後に俺とドウキの部隊で敵の本陣を強襲! 狙うは敵の大将首唯一つ!!」


「「おおぉぉぉ!!!!」」


 大きく明瞭な彼の声は、全軍の隅々に行き渡る。不思議と彼の発する『声』には、味方の士気を奮わす力があった。

 アガロは太刀を抜くと、敵本陣へ目掛けて振りかざす。


「かかれ!!!」


 号令を聞くと兵士達が一斉に森から打って出て、敵の本陣後方に襲い掛かかる。

『タキ城の戦い』が始まった。


「トウマ鉄砲隊! 若旦那にいいとこ見せるでさぁ! 構え! 撃て―――!!」


 トウマの部隊が一斉に敵の後備えへ鉄砲を放つ。


「ぐわぁっ!?」


「何だっ!?」


「敵だ!」


「後ろから来たぞ!?」


 突如鳴り響く銃声に、敵は不意を突かれ混乱が広がる。


「コウハ、ギンロ! 攻めかかれ!!」


 トウマの部隊が鉄砲を撃ち放つと、すかさず道を左右に開け、後から狼族のコウハ、ギンロ兄妹が敵に斬り掛かった。


「おらぁ! どきやがれ!!」


「……!」


「ぐはっ!?」


「うわぁ!!」


 コウハ、ギンロは素早い動きで敵を次々と突破して行った。

 そこを後からアガロ率いる本隊が付いて行く。彼等は敵本陣を強襲し、大将首を狙うのが目的だ。ゆえに、アガロは自分の隊に素早いリッカとデンジを入れ、敵の大将首を取る事に賭けた。



【――ゲンヨウ軍・本陣――】



「何事だ!?」


「申し上げます!! 突如後方から現れた敵により、味方が被害を受けております!!」


「おのれ……、我等を城へ引き付けたは罠だったか…!」


「サク様! ここは危険です! 直ちに御立ち退きを!」


「ならん! この場に留まり、敵を迎え撃て!」


「されど!」


「くどい! 俺とてゲンヨウ家の男だ! ここで退く訳にはいかない!! 敵の数はっ!?」


「敵は亜人隊! 凡そ百以下!」


 その報告を聞くと彼は激高する。


「ふざけるな!! 高が亜人にオレが討ち取られるものか! 下等生物を相手に退けば末代までの恥! 敵を討ち取れ!!」


 彼には若武者特有の自尊心がある。初陣は勝利で飾りたかったし、武士として亜人を相手に負ければ一族の恥と笑われる。

 彼は自分の意地から、あくまでも踏み止まる事を伝えた。



【――タキ城――】



「母上! 敵の本陣に異変が!」


「アガロがやってくれたようですね……。全軍! これより城から打って出なさい!!」


「「おう!!」」


 サヒリは全軍でもって城から打って出た。敵を城内から追い出し、追撃する。

 アガロ隊との合流を目指し、敵の本陣へ向かった。



【――アガロ隊――】



「ガキ! 道は開いた! 後は任したぞ!!」


「……行って!」


「コウハ! ギンロ! でかした!!」


「行こうぜ大将! 敵の親玉は直ぐそこだぜ!!」


「リッカ! 狙いはあの武者だ! 討ち取れ!!」


 彼が指差す方向を見ると、兵士達に周りを固めさせ中央にどっかと構えている若い大将が見えた。


「任せなさい!!」


 リッカは素早く敵大将へ接近するが、彼女の行く手を阻むように、兵士達が邪魔をする。


「邪魔よ! どきなさい!」


「ぐわっ!?」


「強…い」


 しかし、彼女に敵うは筈も無く、一瞬で総大将の供回りは討ち取られた。


「覚悟!!」


「くぅ…!」


 リッカは目標の大将へ狙いを点けると駆け出し、その首を奪おうと突きを繰り出すが、あと一歩という所で彼女の突きはたった一矢に阻まれた。


「何者!?」


 彼女が矢の飛んできた方角を振り向くと、そこには少女が一人。


「やっぱり……昨夜のはネコさんじゃなかったですね!」


 彼女はきりきりと弓に矢をつがえ、リッカへ放った。


「させないです!」


「くっ!?」


 少女は目にも止まらぬ速さで、総大将へ近づけさせまいと次々に矢を放ってくる。

 リッカの身体能力はずば抜けて高いが、少女の放つ矢は正確で、淀みが無く、まるで吸い込まれて行くかの如く、リッカの急所へと目掛けて飛んでいく。

 流石の彼女も、こうも早く矢を連射されては、目の前の大将首へ近づけない。


(くっ! この子、只者じゃない!)


 次第に防戦一方になっていく。ちょっとでも気が緩めば、矢が刺さり絶命する。

 神経を集中させていたリッカは、近づいてくる敵に気付けなかった。


「ちょっ!? 危ないじゃない!!」


 不意を突かれるも、間髪で躱し、彼女は敵兵を討ち取る。だが、それが隙となった。


(くっ!? しまった!)


 彼女の足に矢が深く突き刺さった。動きが鈍くなり、さっきよりも状況が悪くなる。


「これでお終いです!」


「っ……!」


 彼女がよろけると、すかさず少女は止めの矢を射る。


「リッカぁ!!」


「…!」


「何です!?」


 リッカの前へ躍り出て来たのはアガロ。

 彼は咄嗟に彼女の前へ立つと、背を盾にし、身を呈して庇ったのだ。


「ぐっ…!」


 彼の右肩に矢が深く突き刺さる。痛みに顔を歪めるも堪えた。

 鎧を貫く程の強弓を、この少女が引いてると思うと、何やら反則にも思える。


「ちょっとあんた! 何やってるのよ!?」


「黙れ! お前は敵大将を討ち取るのが目的だろう! こんな所で道草喰うな!!」


「あんたが居なくても、あたしは殺られたりなんかしないわ!」


「いいから早く動け!!」


 いきなり目の前で盾になったかと思うと、二人は早速口喧嘩を始める。

 格好の的ではあるが、少女は矢を放てないでいた。


「どうして……。どうして、人間が亜人何かを庇うですか…!?」


 彼女は突然目の前で起きた出来事に、度肝を抜かれてしまっていた。

 人間が身を呈して亜人を庇うなど、常識で考えて有り得なかったからだ。


「はっ!」


 彼女は呆然としていたが直ぐに正気に戻ると、今度こそはと矢をつがえる。


「そうは行くかよ!!」


「ひゃっ!?」


「ドウキ!」


 そこへドウキが現れ、少女へ向けて鉄鞭を振るった。

 弓の少女は間合いに入られ、今度は防戦一方となる。


「大将! リッカ! 大丈夫か!?」


「リッカが足をやられた! 此の侭では囲まれる! 退却するぞ!」


「ちょっと! あたしはまだ戦えるわ!!」


「馬鹿が! その傷では歩くのがやっとだろう!?」


「そ、それは…」


「兎に角、退路を開く! 大将とリッカを守れ!!」


 矢を放つ少女に時間を取られ、狙いの大将は敵兵士が集まり防御を固めてしまい、これ以上は近づけなかった。

 目的の敵大将を討つ事が出来なかったアガロ隊は、此の侭では敵に囲まれ、全滅する羽目になる前に退却を始める。


「敵を逃がすなー! 討ち取れー!」


 サク・ゲンヨウが怒声のような声で追撃を命じる。

 一斉に追い討ちを掛ける敵兵士達。その時だ、彼等の間を凄い勢いで駆け抜け、総大将へ近づく者が一人。アガロ達に気を取られ、その存在に気付けないでいた。


「行け! デンジ!」


 アガロが叫ぶと彼は上空へ飛び上がり、総大将目掛けて刀を振り下ろす。


「大将首もらったぁ!!」


「何奴!?」


「はぁ!!」


「ぐわっ!?」


「殿が!」


「すぐに戻れ! お守りしろ!!」


 サク・ゲンヨウは不意を突かれ、眉間を斬られると後ろへ倒れた。

 デンジは総大将の顔へ一太刀浴びせたが、傷は浅い。

 敵兵士が戻り、彼はそれ以上に近づけず、諦めてアガロ達の元へ戻る。


「アガロ様、申し訳ありません! 討ち漏らしました!」


「デンジ、良くやった! 後は退却だけだ!」


「はい!」


 突然総大将が負傷した事により、敵の囲みが緩くなった。

 アガロはリッカに肩を貸しながら、ドウキと共に味方の殿を買って出ると、敵の追撃を払いながら、コウハ、ギンロ達と合流する。

 後ろに控えるトウマ隊と合流するべく退却していった。



【――サヒリ隊――】



「道を開けろー!」


「うひゃ!?」


「くそ! 止められねえ!」


 サヒリ率いるユクシャ軍の兵士は最後の戦いと、敵の本陣目掛けて肉薄して行く。

 その怒涛の勢いに敵兵は戦慄するが、ここで本陣から援軍が駆けつける。


「あれに見えるは敵の大将、サヒリ・ユクシャ! 討ち取って名を上げろ!!」


「御方様! 敵の新手ですぞ!」


「構いません。此の侭敵本陣まで突撃なさい! 敵の後方にて戦っているアガロと合流します!」


 サヒリはあくまでも敵を突破しようと馬を駆ける。

 しかし、


「放て―――!!」


「っ!?」


 彼女の前に現れたのは小さな弓兵凡そ十。掛け声と共に一斉に矢を放つ。


(この程度の少年兵など……!)


 サヒリは甘く見ていた。高が少年兵と油断した。


「あぐっ!?」


「御方様!?」


「サヒリ様が!」


 彼女を一本の矢が貫く。左足に刺さり、彼女の愛馬は首を射られた。

 落馬をしてしまい、慌てて家臣達が助けに駆けつける。


「今だ! サヒリを討て!!」


「くっ! 無念です……!」


「母上! ここは一度城へ戻りましょう!」


「某が敵を引き受けまする、お早く!」


 サヒリはここまでかと、無念の表情を浮かべ、配下の馬に跨り退却した。



【――アガロ隊――】



「どけ、どけ、どけ―――!!!」


 ドウキ率いる部隊が必死で退路を開こうとするが、既に回りは近くに集まった部隊で囲まれ、倒しても倒しても、敵が現れる。

 次第に味方は消耗していった。敵に討ち取られ、或いは相打ち覚悟で戦う者達。

 彼等は何とか自分達を見捨てずに、同行を許してくれた大将を逃がそうと、死を持って血路を開こうとした。


「ちっ! 此の侭じゃ味方は全滅だ!」


「くっ…予想外の邪魔が入った……」


「おいおい大将! こんな所で落ち込んでちゃいけねえ! おれはあんたに仕えるんだからよ、確りしてもらわなくちゃ困るぜ!」


「……! ああ、そうだな! 今は生きる事だけを考えろ! 西の森へ目掛けて走れ!!」


 一応の目的はほぼ達成した。とアガロは判断し撤退命令を下す。

 敵の大将を負傷させた事により、敵の士気は挫かれ兵士達は混乱し、勢い消沈した筈だ。

 残るは戦場を離脱するのみ。アガロ達は一目散へと森へ目掛けて走り出す。


「ぐわっ!?」


「トウマ!?」


「っ―――! 若旦那! あっしは見捨てて下せぇ!!」


「馬鹿が!!」


 前へもんどうり打って転んでしまったトウマ。

 アガロはリッカを他の鬼に任すと、右肩を抑えながら駆け寄った。


「アガロ!」


「大将!」


「ガキ!」


「……!」


「アガロ様!」


 敵が直ぐ目の前まで迫るが、最早逃げ出す事が出来ない。

 アガロは片手で父・コサンより託された太刀を構え、


(父上……。どうやらここまでのようだ……!)


 アガロは敵を鋭い目付きで睨み付けると死を覚悟し、

 うおおおぉぉぉ!!!!と凄まじい気迫と共に、敵に斬りかかった。

 その瞬間――――。


「ぎゃあ!?」


「…!?]


 目の前の敵兵が矢に射られ倒れる。


「うわぁ!?」


「何だ!?」


「森から矢が!?」


 アガロ達が目指していた西の森から突如、無数の矢が放たれた。

 矢が次々に敵兵をドスドスと貫いていくと、敵は慌てて後退した。

 すると、次に鬨の声が上がり、わああぁぁ!!!と、兵士達が繰り出し、敵本陣へ向けて、突撃を掛ける。


「今だ! 大将とトウマを救え!」


 ドウキ達はアガロとトウマを保護すると、二人の無事を確かめた。


「大丈夫か!?」


「ああ……。間一髪だったな……」


「この軍勢は一体……?」


「敵を討ってるって事は……、これは味方って事ですかい…?」


 トウマが森の方を向くと、そこには無数の旗指物が立っていた。


「あれは……!?」


「やっと来たか……」


 アガロはにやりと笑みを見せた。

 すると、森の中から良く知る人物が大声を上げながら現れた。


「若様―――――――!!!!!」


「遅いぞ!! 爺!!!」


 アガロの前へ姿を見せたのは守役のシグル。彼は目に涙を浮かべ、再開を喜んだ。


「何でシグル様が此処に居るんですかい!?」


「わたしも居るぞ!」


「ヤイコク! 無事だったか……!」


 シグルの後ろにはヤイコクが立っていた。彼は右目に傷を負っているのか、包帯を巻いている。


「でもどうしてここに!?」


 リッカが分からないでいると、彼女達の中へ顔を見せた男が一人。


「良くやってくれた……。礼を言うぞ」


「当主様! 遅くなってすみやせんした!!」


「いや、正直間に合わないと思っていた。助かったぞ……」


「そうか、ヤッティカが頼まれた用事ってのは詰まり……」


 どうやらドウキは察したようだ。


「ああ、ヤッティカにはシグル達を探しに行って貰った」


「でも、どうしてこいつなのよ? 早く探したいんなら、デンジの方が足が速いじゃない」


 リッカが不思議そうに訊ねるとアガロは答える。


「デンジは確かに早いが、ユクシャ県の地理には明るくない。例え見つけても街道を通ってくるだろう。それでは爺達は間に合わなかった……」


「成る程ね……。そこでこいつを道案内にした訳ね」


「ああ、ヤッティカは野盗をしていただけあって、手下が多い。声を掛ければ、直ぐに爺達を探してきてくれる。そして、こいつ等はユクシャ県の山道にも明るい。抜け道の一つや二つは知っている」


「当主様に言われてちょいとキツイが近道しやした!」


「若様、後はこの爺めにお任せ下され!!」


「頼む。母上達を救ってくれ!」


「御意!」


「委細承知!」



『タキ城の戦い』はアガロ率いる部隊と、城の部隊が敵を奇襲し前後より挟み撃ちにし打ち破ったと、後に語られた。

 ゲンヨウ軍は崩壊し、軍を率いていた大将サク・ゲンヨウは負傷。城は無事解放された。


 ユクシャ軍はこの戦いで、被害を被ったが、同じくゲンヨウ軍にも多大な被害が出た。

 城の周りに散らばった敵兵の死体は数知れず。それに群がる、物取りとカラス達が戦場跡を埋め尽くす。


 戦後、アガロは勝ち鬨を上げ、傷を負いながらも勇敢に戦った亜人達と共に城へ帰還した。

 時は既に夕暮れ。茜色の空が、若き三代目ユクシャ家当主の背中を紅く照らす―――。

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